[お知らせ]


2013年11月22日金曜日

~病気を生み出す「構造」を考える~

とりあえず整理できたことをスライドにまとめてみた。

https://docs.google.com/file/d/0ByO-Z4Bd2e1Iczg4Tnh0eEtjR28/edit

なんというかこれは僕のノートみたいなものです。

※2013年11月29日:現象とコトバの違いを明確にしたうえで加筆訂正いたしました。

2013年11月20日水曜日

第4回薬剤師のジャーナルクラブの開催のお知らせ

3回、薬剤師のジャーナルクラブが無事に終了いたしました。
詳細はこちらをご参照ください⇒http://syuichiao.blogspot.jp/2013/11/3.html
3回の内容はこちらから視聴が可能です。

もう一度第3回のシナリオと論文をあらためて記載しておきます。
[仮想症例シナリオ]
あなたは薬局で勤務する薬剤師です。喘息の治療で通院している30代の男性患者さんから質問を受けました。

「今年の春に喘息の状態が悪くなってから、今までのステロイドの吸入から、2つの成分が配合されたこの吸入薬(サルメテロールとフルチカゾンの合剤)になったんだけど、これはよく効くね。今はもう何ともないよ。でもかれこれ半年以上使っているんだけど、こういう薬ってずっと使っていても問題ないのかな?」

この患者さんは喘息以外に特に合併症もなく症状も今は比較的落ち着いているとのことでした。あなたは早速サルメテロール/フルチカゾン合剤吸入薬の添付文書を広げてみました。すると“その他の注意”の項目にちょっと気になる情報が記載されていました

「本剤の有効成分の1つであるサルメテロールについて米国で実施された喘息患者を対象とした28週間のプラセボ対照多施設共同試験において、主要評価項目である呼吸器に関連する死亡と生命を脅かす事象の総数は患者集団全体ではサルメテロール(エアゾール剤)群とプラセボ群の間に有意差は認められなかったものの、アフリカ系米国人の患者集団では、サルメテロール群に有意に多かった。また副次評価項目の1つである喘息に関連する死亡数は、サルメテロール群に有意に多かった。なお吸入ステロイド剤を併用していた患者集団では、主要及び副次評価項目のいずれにおいてもサルメテロール群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった」

患者さんは時間に余裕があるとのことで、あなたは添付文書の引用文献から原著論文を手に入れ10分で簡単に読んでみることにしました。

[文献]
Nelson HS et al The Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial: a comparison of usual pharmacotherapy for asthma or usual pharmacotherapy plus salmeterol.
Chest. 2006 Jan;129(1):15-26. PMID:16424409


[論文を読むと何が分かるか]
少し、前回のジャーナルクラブを振り返ります。論文から得られる情報をまとめてみますと以下のような感じでした。

■喘息患者に通常ケアに加えてサルメテロール吸入を使用すると、通常ケア単独に比べて、プライマリアウトカムである、呼吸器関連死亡と呼吸器関連の生命を脅かす事象(気管挿管や人工呼吸器導入)は明確に差が出なかった。
■プライマリアウトカムに差が出ない原因として、次の2つが考えられる
 ・プライマリアウトカムに偶然差が出なかった。(効果不明:αエラー)
 ・試験に参加した対象者が少なく、結果として差が出なかった(症例数不足:βエラー)
論文には必要なサンプルサイズは60000人と記載されており、本試験でプライマリアウトカムに差が出なかったのは症例数が不足していたためによるものかもしれない。症例数が増えれば有意な差が出た可能性が高い。(そのためこのトライアルは中間解析で中止となっている)
■サブ解析を見るとアフリカ系アメリカ人で有意な差がついているものの、白人では差が無い。またステロイド吸入を使用していると有意な差が無く、吸入ステロイドを使用していないと有意な差がついている。

このあたりを症例の患者さんへの適用という事で考えていくと…
・日本人だからあまり関係ないかもしれない?
・この患者さんは吸入ステロイドを使用しているから大丈夫か?
・絶対リスクはそれほどじゃないかも?[NNH909]
・症状が落ち着いているからそれはそれでいいのでは?
・死亡関連アウトカムは取り返しがつかないので軽視すべきではない?
・ステロイド単独にすべきでは?
・相対リスクは有意差が無いけど、95%信頼区間は上昇傾向だがら安全とは言えない?
・吸入手技の問題は?
・人種間で吸入手技の問題があるのでは?
・人種間での生活水準(十分な医療を受けられる環境にあるか)にばらつきがあるのでは?


などなど様々な意見が出てきましたね!死亡関連アウトカムという衝撃的なテーマだけに慎重に取り扱いたいところです。ステロイド併用の有無や人種間でのリスクの相違はあくまでサブグループ解析によるもので、この論文からでは結論できません。一つの仮説にすぎないという感じです。また一つのランダム化比較試験でわかることは、やはり死亡リスクに関連するかもしれないというあいまいなものですね。
そこで今回のジャーナルクラブではPubMed検索をおこなって、もう一つ論文を検索してみました。一つのランダム化比較試験を読んでもよくわからない、これは本当によくあることです。たくさんの論文を読む暇がない、というのも現実問題としてあるわけです。そんなときとても強い味方となってくれるのが「メタ分析」の論文です。メタ分析とは、同じテーマの研究を何個か集めてきてそれをまとめて解析したものです。

では次回第4回ジャーナルクラブのお知らせです!

[4回薬剤師のジャーナルクラブ]
ツイキャス配信日時:平成25121日(日曜日)
■午後2045分頃 仮配信
■午後2100分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。

※フェイスブックはこちらから→薬剤師のジャーナルクラブFaceBookページ
※ツイキャス配信はこちらから→http://twitcasting.tv/89089314
※ツイッター公式ハッシュタグは #JJCLIP です。
ツイキャス司会進行は、精神科薬剤師くわばらひでのり@89089314先生です!
ご不明な点は薬剤師のジャーナルクラブフェイスブックページから、又はツイッターアカウント@syuichiaoまでご連絡下さい。

症例4. 喘息の吸入薬はずっと使っていても安全ですか? ②

[仮想症例シナリオ]
あなたは薬局で勤務する薬剤師です。喘息の治療で通院している30代の男性患者さんから
「今年の春に喘息の状態が悪くなってから、今までのステロイドの吸入から、2つの成分が配合されたこの吸入薬(サルメテロールとステロイドの合剤)になったんだけど、これはよく効くね。今はもう何ともないよ。でもかれこれ半年以上使っているんだけど、こういう薬ってずっと使っていても問題ないのかな?」
という質問をうけ、あなたは前回CHEST 2006; 129:15–26の論文を読みながら患者さんへ対応しました。その時は論文を読んでもはっきりとした回答をすることができずに、あなたは「もう少し調べさせてください。次回来局時に回答させていただきたいと思います」と患者さんに伝え、その後あなたはもう一度このテーマについて調べてみることにしました。

文献:Long-acting Beta-Agonists with and without Inhaled Corticosteroids and Catastrophic Asthma Events  Am J Med.2010 Apr;123(4):322-8.e2PMID:20176343

薬剤師のジャーナルクラブではメタ分析を初めて取り扱いますので、簡単に補足しておきます。

[メタ分析とは]
メタ分析について以下にまとめます。


■分析の分析
 □ランダム化比較試験のメタ分析
 □観察研究のメタ分析

■多くの論文をひとつにまとめて解析したもの
 □症例数を増やすことで、結果の統計的検出力を高める
 □論文の結論が一致していない場合に、その不確実性を解決する

■結果が定量的に統合されている

(システマティックレビューとは?)
 ・メタ分析と異なり結果が定量的に統合されているかは問わない
  ・研究結果を体系的に集めることに重点が置かれている

メタ分析は様々な研究を集めてきて一つにまとめて統合解析したもので、結果が定量的に一つの指標に統合されています。それに対してシステマテックレビューは同じように様々な研究を集めて、検討する研究手法ですが、結果が定量的に統合されていないものも多くあります。

一般的にランダム化比較試験のメタ分析はエビデンスレベルがかなり上位となっており、その妥当性さえ高ければ、強力な根拠となります。しかしながらメタ分析には多くのバイアス(偏り)が生じやすく、場合によってはその根拠はかなり弱いものとなってしまうこともあります。

[メタ分析の4つのバイアス]
メタ分析のバイアスの中でとりわけ重要なのは以下の4つです。
■評価者バイアス
■出版バイアス
■異質性バイアス
■元論文バイアス
詳細はジャーナルクラブの中で補足したいと思いますが、それぞれについて簡単に以下にまとめます



■評価者バイアス
 □論文を選び、評価する人のバイアス
 □知り合いの論文だから採用してやろう…。
 □複数の評価者が独立して評価することでバイアスを制御
 □記載例「…Two reviewers independently …」

■出版バイアス
 □選んだ研究が都合の良いものだけではないか?
 □英語以外で書かれた研究も探したか?
 □個々の研究者や専門家に連絡を取ったか?
 □Funnel Plotを使用して検討しているか?
 □記載例「… no indication of publication bias in the funnel plot…」

■元論文バイアス(治療のメタ分析)
 □ランダム化比較試験のメタ分析か
 □元論文のランダム化比較試験はITT解析されているか
 □記載例「…included nine randomised controlled trials with 1069 participants…」
 □記載例「 We assessed study quality randomisation, concealment of
          randomisation, and completeness of follow-up…」

■異質性バイアス
 □高齢者では無効、若年者では有効⇒一緒に分析したら無効という結果
 □ごちゃ混ぜバイアス
 □ブロボグラムを視覚的にみて、それぞれの結果の方向性が一致しているか
  □異質性検定heterogeneityp値が0.05より小さくないか
 □記載例「…We found no evidence of heterogeneity according to …」

この4つのバイアスの確認がメタ分析の論文の批判的吟味の核となります。

[メタ分析の結果をどう見る?]
詳細は次回ジャーナルクラブで取り上げたいと思いますが、メタ分析特有のグラフとしてブロボグラムと言うのがあります。




上の図が今回のテーマ論文のブロボグラムです。一番左に記載されているのが、メタ分析に統合した研究の名前です。第3回で取り上げたSMART,2006も解析に入ってますね!この表の左側に結果が記載されているのですが、その見方を以下にまとめます。

■四角が相対危険
■相対危険が1より小さい(左側に片寄る)
 □治療が有効(有害ではない、リスク低下)
■横棒が95%信頼区間
■横棒が1の縦線と交わると有意差なし
■相対危険が、1より小で、95%信頼区間が1を含まない
 □統計学的にも有効な治療
■ひし形がすべてをまとめた統合指標
 □縦の頂点が相危険、横の頂点が信頼区間

以上のような感じでメタ分析を読めれば、まず十分だと思います。以下にメタ分析を読むポイントをまとめます
研究方法は妥当か?
 □論文のPECOは何か?
 □一次アウトカムは明確か?
 □真のアウトカムか?
 □ランダム化比較試験のメタ分析か?
 □メタ分析4つのバイアス
■結果は何か
 □一次アウトカムを読む
 □相対危険、オッズ比、NNT、推定(95%信頼区間)、(検定)危険率
 □ブロボグラムを見て視覚的に判断

メタ分析吟味用の簡単なワークシートを作成いたしましたのでご活用ください!





薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

2013年11月17日日曜日

EBMそして“認識”の問題


いったい自分の認識が、その認識している対象の客観と正確に一致している保証はどこにあるというのでしょうか。「cogito ergo sum」で有名なデカルトは先入観をすべて取り去り、あらゆるものを疑うことで真理に至ろうとしました。しかしながら、はたして“真理”というものは本当に存在するのでしょうか。

カントは客観それ自体の認識を神がもつような完全な認識だけに可能であるとしました。客観それ自体をカントは「物自体」といい、人間には原理的に自分の感覚や概念が客観と一致することはないというわけです。

それに対してフッサールは「客観」など存在しないと言います。「客観」とは一体なんでしょうか。さしあたって言えば私自身にのみに存在するものではないということかもしれません。すべての他者にとっても存在しうるもの、いいかえれば普遍の同一性というものが「客観」の本質として言っても支障はなさそうです。

「客観」としてのリンゴはたとえば猫にはどう認識されているのだろうかとかんがえてみます。丸くて硬いもの。人間の認識であれば赤くておいしそうな果物としてのリンゴというのが同一に認識されるであろうかと思います。カントの言うように「完全な客観としてのリンゴ」は神のような存在でしか認識できないかもしれませんが、そもそもヒトが言う「客観」とは我々が経験認識したものにすぎません。カントの言うような物自体があるとしてもそれはヒトにはとうてい認識することができないのです。このように原理的に経験できない「客観」というものはなるほど確かに存在しないとかんがえられます。

では「客観」ということをどうとらえればよいのでしょうか。確かに一つの事柄は実際に存在します。しかしながらそれをどう認識するかは人それぞれです。解釈の価値観は、それを受け取る主体に依存しており、その主体間の同一性が「客観」なるものを生み出すということになります。
病気の症状という「認識」を医療者がどうとらえるかということを考えたとき、様々な考え方があると思いますが、「認識」や「価値評価」を完全に一致させることでは事実上不可能であるのであれば、必要に応じてこれを一致させることができるかどうかという可能性を探ることが、患者との対話において重要ではないかということに気づくのです

エビデンスはいつも曖昧だ。たとえ論文を10本読んだところで何も見えてこないことだってしばしばあります。結局効果があるのか無いのか、真の値、「ほんとう」の効果はどこにあるのかと考えたときに、結局そのような「ほんとう」の効果を僕らは知りえないのだということが論文を読めば読むほど、統計を学べば学ぶほど、患者に向き合えば向き合うほど明確になっていきます。

統計的・疫学的観点からナラティブも含めて医学論文と照らし合わせても、ギャップこそ明確になるもののそれをどう取り扱えば良いのかはあいまいな答えしかない。僕は曖昧なことこそ明確にわかるとそれを結論することができるが、その先がいまいち見えてきません。

ひとつ現象論が教えてくれるのは、完全な共通認識にこだわるのではなく必要に応じて認識を一致させる可能性があるのか無いのか、要するにそれこそが重要だということです。これが認識問題の本質であるかもしれません。何が正しいのか。ではなく共通了解の可能性。
またもう一方で薬の効果のような治療の有効性、それを定量的に示したものがエビデンスの相対リスクなり、NNTではありますが、その真の値を、推定検定統計になかに完全なる「客観」を求めるのではなく、必要に応じて客観的値の適用可能性を熟慮することこそ大切だということです。共通了解の可能性。この薬効くよねというクオリアが、統計的有意差を超えていく。そう言ったことが現実にはままあるし、逆もあります。

近代哲学の大きなテーマである「主観-客観」の問題を世界観や価値観が対立したときにおいて「共通了解の可能性の原理の問題」へとシフトすることが現象論のコンセプトだと思います。これは僕なりの解釈ですが、認識の共通了解が、それが本当に正しいかどうかをとりあえず置いておいて、さしあたって客観と呼べるような「ほんとう」の世界だということです。これを踏まえれば、いかに一つのエビデンスが統計的に有効という結果を示していても、それは状況によって、効果が期待できない報告にも振れるし、もっと効果が有る方に振れる可能性も秘めているということがあらためて浮き彫りになってきます。主観-客観の問題もある意味、相対化がキーワードかもしれない。絶対的な一致を認識することにこだわるのはあまり意味がないし、さしあたっては不要な問題ではあります。


EBMは相対化であるという。患者アウトカムを絶対的な客観評価をすれば、エビデンスを適用すべきかどうかというエビデンスはこの先も出ないであろうし、そんなことはきっと永遠に分からないことなのだろう。それを込みにしても僕がEBMの模索を続けるのは、やはり医療者と患者の相互了解に基づく相対的により良い医療を目指しているからに他なりません。ときにエビデンスに基づかない医療の重要性も浮き彫りとなります。いやいや、エビデンスはただただ科学的根拠だけではないのがEBM。客観的事実が存在するか不明と言うことが明確になる中で、医療者と患者の相互了解に基づく相対的思考の重要性が垣間見えたきがしました。

2013年11月11日月曜日

カルシウム拮抗薬とクラリスロマイシンの併用注意を考える

これまでの「併用注意を考える」シリーズはこちら

[添付文書から分かること]
カルシウム拮抗薬で処方頻度の高いアムロジピンの添付文書には併用注意にCYP3A4阻害剤としてエリスロマイシンが挙げられており、エリスロマイシンとジルチアゼムの併用でその臨床症状はアムロジピンの血中濃度上昇という代用のアウトカムのみの記載があります。カルシウム拮抗薬はCYP3A4で代謝されることから競合的阻害がその発生機序と言われています。
このような相互作用により考えられる病態生理的な仮説は、カルシウム拮抗薬の血中濃度上昇から、低血圧が発生し、腎臓への血液灌流が悪化し急性の腎傷害が発生しやすくなる可能性があります。またクラリスロマイシン自体にも急性腎障害の副作用リスクが存在します。

「アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬などの降圧剤は 腎臓の負担を取り、慢性の腎疾患の進行を抑制する良い効果があります。しかし、服用後に血圧が急速に低下し、腎臓にいく血液の量が急激に落ちることにより急性腎不全になることがあります。

(参考)クラリシッド®添付文書:急性腎不全,尿細管間質性腎炎(頻度不明)
「急性腎不全,尿細管間質性腎炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,乏尿等の症状や血中クレアチニン値上昇等の腎機能低下所見が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと」

JAMAからカルシウム拮抗薬と急性腎障害リスクに関する報告が出ました。
[カルシウム拮抗薬とマクロライド系抗菌薬の併用は安全ですか?]
【文献タイトル・出典】
Calcium-Cannel Blocker-Clarithromycin Drug interactions and Acute Kidney injury
【論文は妥当か?】
研究デザイン:カナダオンタリオ州における人口ベース後ろ向きコホート研究
[Patient]カナダの一般人口コホートからカルシウム拮抗薬(半数以上がアムロジピン:用量は中央値5mg;IQR5-10mg)を服用している高齢者(平均年齢76歳)190309
[Exposure]クラリスロマイシンとカルシウム拮抗薬の併用96226
クラリスロマイシン用法:中央値1000mg/日 10日間)
[Comparison]アジスロマイシンとカルシウム拮抗薬の併用94083
アジスロマイシン用法:中央値300mg/5日間
[Outcome]処方から30日以内の急性腎障害による入院  
(※セカンダリアウトカム▶処方から30日以内の低血圧による入院及び総死亡)
■追跡期間▶2003年~2012
■調節した交絡因子
年齢、性別、ACE阻害薬、ARBNSAIDs、経口糖尿病薬およびインスリン、利尿薬、スタチン、β遮断薬、β刺激薬、抗コリン薬、ステロイド、急性腎障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、うっ血性心不全、主要な癌の17項目で調整し多変量ロジスティック回帰分析によるオッズ比と95%信頼区間を算出
■患者背景▶ベースラインにおける主要な患者背景に大きな差異は見られなかった
【結果は何か?】
アジスロマイシン併用に比べてクラリスロマイシンでは急性腎障害による入院リスクが増加する可能性がある。同様に低血圧による入院や総死亡も増加する可能性を示唆している

アウトカム
クラリスロマイシン併用群
96226
アジスロマイシン併用群
94083
結果
調整オッズ比
[95%信頼区間
NNH
[95%信頼区間]
急性腎障害による入院
(プライマリアウトカム)
420
0.44%)
208
0.22人)
2.03
[1.722.41]
464
[374609]
低血圧による入院
(セカンダリアウトカム)
111
0.12%)
68
0.07%)
1.63
[1.212.22]
2321
[14066416]
総死亡
(セカンダリアウトカム)
984
1.02%)
555
0.59%)
1.74
[1.571.94]
231
[195284]

【結果は役に立つか?】
カルシウム拮抗薬別のサブ解析は以下の通りです。概ね薬剤間で異質性は見られずリスクは増加傾向です。アムロジピンのNNH663[4511223]となっています。またニフェジピンでは各薬剤の中でもオッズは最大となっており、そのNNH160[128205]と衝撃的な数値が出ています。
カルシウム拮抗薬
クラリスロマイシン併用
アジスロマイシン併用
オッズ比[95%信頼区間]
アムロジピン
202/507060.4%)
126/509440.25%)
1.61[1.292.02]
ジルチアゼム
63/214030.29%)
46/212070.22%)
1.36[0.931.99]
フェロジピン
17/36650.46%)
5/3191(≦0.16%)
2.97[1.098.06]
ニフェジピン
129/166440.78%)
22/15038(0.15)
5.33[3.398.38]
ベラパミル
9/3808(0.24)
9/3703(0.24)
0.97[0.392.45]
またスタチンの併用の有無や慢性腎臓病の有無でのサブ解析ではその有無にかかわらずリスク増加が示唆されています。

[結局のところどうするべきか]
比較対象がアジスロマイシンであり薬剤非併用群との比較でないことやクラリスロマイシンの用量が本邦承認用量と異なる点など注意が必要です。クラリスロマイシンは本邦での承認用量を大きく上回っていますが、薬物非併用群と比較すればリスクはさらに大きくなる可能性もあります。
絶対差を見ればそのインパクトは小さくなるかもしれませんが、クラリスロマイシンが絶対的に必要となるケースを除き、カルシウム拮抗薬との併用は避けるべきかもしれません。

警戒すべきは特にカルシウム拮抗薬の他にスタチンを服用している患者とおもわれます。クラリスロマイシンはスタチンとの併用でアジスロマイシンと併用した場合に比べて横紋筋融解症リスクや急性腎障害リスクが有意に増加するという報告があり、今回の報告を合わせて考えればカルシウム拮抗薬・スタチンを併用している患者において、その薬物相互作用リスクはとりわけ軽視できないものとなりました。
(参考)
スタチンとの併用は重要な報告と思いますので、あらためて結果のみ記載しておきます。
Statin Toxicity From Macrolide Antibiotic Coprescription:A Population-Based Cohort Study
カナダオンタリオ州における2003年~2010年までの人口ベースコホート研究で、スタチン(73%がアトルバスタチン、他にシンバスタチン、ロバスタチン)を服用中の65歳以上の患者を対象にクラリスロマイシンの投与(72591例)及びエリスロマイシンの投与(3276例)CYP阻害作用が低いアジスロマイシンの投与(68478例)とを比較して抗菌薬処方から30日以内の横紋筋融解症による入院を検討した報告です。結果は以下の通りです。

アウトカム
指標
結果[95%信頼区間]
横紋筋融解症による入院

絶対リスク
0.02% [0.01% 0.03%]
相対リスク
2.17 [1.04 4.53]
急性腎障害リスク

絶対リスク
1.26% [0.58% 1.95%];
相対リスク
1.78 [1.49 2.14]
総死亡リスク

絶対リスク
0.25% [0.17% 0.33%]
相対リスク
1.56 [1.36 1.80]
(スタチン服用患者におけるクラリスロマイシンまたはエリスロマイシンの併用によるアジスロマイシンと比較した横紋筋融解症リスク)

クラリスロマイシンの用量の問題もありますが、現時点での僕の結論を以下のように整理しておきます。

「カルシウム拮抗薬とスタチンの2剤を併用している70歳前後の高齢者ではクラリスロマイシンの併用により急性腎障害リスク、総死亡リスク増加は軽視できない。そもそも抗菌薬が必要かを前提に、ペニシリン系薬剤、でなければアジスロマイシンの代替えを提案するのも一つの方法である。」


カディエット配合錠®のような薬剤とクラリスロマイシンの併用はかなり注意が必要かもしれません。これまでの「併用注意を考える」シリーズを振り返っても特にマクロライド系抗菌薬は薬物相互作用による重大なリスクを秘めていると考えられる一方で、その処方頻度は高く、薬剤師がこの問題にかかわる意義は大変大きいものと考えられます。