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2012年9月9日日曜日

"自殺"に対して医療はどうあるべきか。

「自殺」やや難しい言葉できちんとした定義もあるのですが、簡単にまとめると“自らの意思に基づき、死を意図した行動”といえます。「自殺」は今では社会問題としても、しばしば取り上げられることも多いと思います。自殺者数の年次推移の統計は死亡届に基づく人口動態調査と警察の捜査に基づく警視庁統計資料の2種類の統計資料で確認できます。
警視庁統計資料:http://www.t-pec.co.jp/mental/2002-08-4.htm
これによると男性の自殺者は女性よりも多いことが示されています。
近年自殺者が急増しているというような報道を目にすることもあるかもしれませんが、長期的な推移をみると
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2011/html/honpen/part1/s1_1_01.html(第1-2図)変動はあるものの、平均すると戦後から緩やかな上昇傾向が続いており現在もそのトレンドに乗っているような状況がお分かりいただけるかと思います。バブル崩壊後自殺者数は急増していますが、バブル景気の時が自殺者数が記録的に少ないということも確認できるかと思います。

 日本人の死因別を厚生労働省の統計でみると平成20年では自殺は7位となっています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai08/kekka3.html
表7 性別にみた死因順位別死亡数・死亡率(人口10万対)。
さらに年代別で確認すると(図7-1 性・年齢階級別にみた主な死因の構成割合(平成20年))
圧倒的に20代から30代にかけて自殺が死因の多くを占めていることが確認できるでしょう。心疾患や脳血管疾患も死因に占める割合が高いです。そのために医療が存在するわけですが、若年層の死因原因である「自殺」の問題に対しても、それに対応すべき医療は存在するべきなのかなと考えます。

DALYsという尺度があります。疾病によって生じたさまざまな障害の重み付けを示しており、集団の健康の妥当な指標を表し、死亡と障害を含む包括的な保健指標といわれています。要するに生きているだけという尺度では健康というもを測れないということです。
本邦におけるDALYhttp://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2050.html
をみると2番目にうつ病・躁病、3番目に認知症 5番目に自殺 が入っています。
本邦における健康を脅かす要因がうつ病や認知症さらには自殺であることが明確にわかるのです。

さて自殺者数が増加しているといわれている今日ですが先ほど述べたとおり緩やかな増加傾向にあるものの、急増しているとは言い難いことはお分かりいただけたかと思います。
現在の統計では自殺者数は3万人を超えています。10万人当たり24人。これは世界的にみてどうなのでしょうか。http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2770.html 2011年のデータでは国際的にみても日本は8位と上位にあります。
自殺者数が国際的にみても少ないと言い難い本邦ですが、職業別データもあります。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2740-2.html をみると無職者が圧倒的に多いことがお分かりいただけると思います。
婚姻別ではhttp://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2750.html 男性では配偶者との離別や死別が圧倒的に多いこともわかります。
要するに自殺に関するハイリスク集団が存在するのです。その要因をまとめると男性で未婚、配偶者と死別、離別で無職というのはハイリスクな集団と考えることができるのではないでしょうか。

 自殺の動機は様々だと思いますが平成18年までの原因・動機別の自殺者数の推移
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2011/html/honpen/part1/s1_1_08.html を見てみると健康問題、経済・生活問題が圧倒的上位にあります。どうでしょうか、健康問題が原因の多くを占めるということは本当に軽視できない問題だと思います。明らかに自殺というのは医療の問題でもあるのです。

うつ病患者では最終的に自殺してしまうという危険を大きくはらんできるわけですが、ここで健康問題とうつ病について考えてみたいと思います。

心筋梗塞後うつ病では死亡リスクが高まるという報告があります。
Prognostic association of depression following myocardial infarction with mortality and cardiovascular events: a meta-analysis.
Psychosom Med. 2004 Nov-Dec;66(6):814-22.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=15564344
22研究6367人の心筋梗塞患者を対象としたメタ分析で心筋梗塞後うつ病では死亡リスクが有意に高いというものです。OR 2.38; 95% CI 1.76-3.22; p <.00001

さらに治療中糖尿病患者ではうつ病罹患率が高いという報告もあります。
Examining a bidirectional association between depressive symptoms and diabetes
JAMA. 2008 Jun 18;299(23):2751-9.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=18560002
正常血糖値群に対しての補正オッズ比は
IFG           0.79 (95% CI, 0.63-0.99)
未治療2型糖尿病  0.75 (95% CI, 0.44-1.27)
治療2型糖尿病   1.54 (95% CI, 1.13-2.09)

糖尿病にうつ病を合併する可能性は低くありません。さらに糖尿病に合併したうつ病は死亡リスク増加に関連という衝撃的な報告もあります。
Depressive symptoms and mortality among persons with and without diabetes.
Am J Epidemiol. 2005 Apr 1;161(7):652-60.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15781954
糖尿病患者でCES-D scores16以上の人は16未満の人と比べて生存率が低いという結果です。これは非糖尿病患者では顕著な差が開いてませんが糖尿病患者では顕著に差が開いています。p = 0.004

このように心血管疾患や糖尿病等の健康問題を抱える患者ではうつ病罹患率も高く、青の後のアウトカムも好ましくないという報告は確かに存在します。そしてこのような患者は心血管疾患や糖尿病などの治療のために精神科や心療内科ではなくかかりつけの内科を受診することが多いのではないかと考えています。プライマリケアにおける精神疾患ケアの重要性がこのような観点からもわかります。(関連)薬剤師によるPsychiatry In Primary Care
http://syuichiao.blogspot.jp/2012/06/psychiatry-in-primary-care.html

ここでかかりつけ主治医によるうつ病見逃しはどの程度かというデータがあります。
Multiple barriers against successful care provision for depressed patients in general internal medicine in a Japanese rural hospital: a cross-sectional study.
BMC Psychiatry. 2010 Apr 26;10:30.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=20416116
何らかの気分障害を持つ患者21人のうち気分障害と診断できたのは3名の患者のみという結果です。その多くは不眠症(14/21人)と診断されています。
大うつ病患者27人に対してその59.3%に抗不安薬や睡眠薬を処方されています。
抗うつ薬の処方は7.4%にとどまっています。

うつ病について自ら相談してくる患者は少ないと思います。うつ病の進行とともに自殺企図はその頻度を増します。その行動がエスカレートしていき、人は苦しみから逃れるために命を絶ってしまう。死にたいわけではないんだ、死ぬほど苦しい、苦しみから逃れるには死ぬしかない。そのような思いが自殺行動に結びついていくのかもしれません。自殺の名所で知られる、ゴールデンゲートブリッジでは、橋の場所ごとに自殺者の分布統計が出ており衝撃的でした。自殺者が多いのは橋の中央ですが、その多くは街明かりが見える側へ向かって飛び降りています。明りに向かって。人は最後まで助けを求めている。そんな気がします。自殺ハイリスク集団を意識すること、さまざまな慢性疾患の裏にはうつ病合併の可能性も高くなり死亡リスクにまで影響を及ぼす可能性があるということを認識すべきです。そして自殺に対して医療ができることの一つは、プライマリで遭遇する患者とのコミュニケーションスキルを磨きながら、薬局・病院・診療所・地域薬剤師会・医師会等が連携してスクリーニング・メンタルケアを実施できる環境作りが大切なのかもしれません。

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