[お知らせ]


2015年1月24日土曜日

地域医療の見え方が変わります。

[複数ブログの運用メリットとデメリット]
いつもご利用いただき誠にありがとうございます。僕は現在、WEB上で5つのブログを運営しておりまして、薬剤師に関連するブログは、当サイトも含めまして4つあります。もう一つは僕が読んだ本の感想文を書き残しているBloggerのサイトfuture landscapesで、こちらは本当に個人的なものです。

4つのブログを別々に運用するメリットは、カテゴリやテーマをブログごとに整理できる点にあります。臨床医学論文に関するブログ、症例報告に関するブログ、総説や日々思う事を書き残すブログ。そのようにして、ブログを個人的に使い分けてきました。

・臨床医学論文:薬剤師の地域医療日誌
・CMECとの連携企画:エビデンスの見え方
・総説、雑記:当ブログ Blogger 地域医療の見え方

しかしながら複数のブログを運営していくには時間的余裕も厳しい状況となり、またブログを立ち上げた当初はブログの活用ビジョンも明確化されていなかったことから、記載方式やその内容の統一化が取れていないという問題点もありました。さらに情報量の肥大化により、過去記事の検索も困難になってきました。

その様な現状を踏まえ、より日常業務で活用できるツールの模索を続けてまいりました。そして、記載フォーマットの統一化、情報検索の効率化、記事作成にかかわる作業時間短縮を目的に新たなブログを立ち上げ、既存の4つのブログを全て統合することといたしました。

僕が初めてブログを立ち上げたのは20120203日 「薬剤師の地域医療日誌」というブログです。医学文献の要約を1記事にまとめ、日々更新することでデータベース化し、日常業務での活用を試みるという趣旨でした。
立ち上げ最初の記事がこちらです。「EBMとの出会い。」

「知らないことを“わからない”と知ることができたこと」これは僕にとって大きな前進でした。「薬剤師の地域医療日誌」はおかげさまで現在までに11万を超えるアクセスがあり、また僕自身の日常業務にも多く活用してきました。このブログが無ければ、せっかく読んだ論文も、記憶の彼方へと消えていったことでしょう。そして、論文を読み続ける中で、点でしかなかったテーマが、他の論文の結果とリンクし、線となって浮き彫りになることも多々ありました。そのような示唆を、この「地域医療の見え方」にまとめてきました。

当ブログ「地域医療の見え方」は201245日の開設です。当時まだ僕は保険薬局勤務でした。地域医療の見え方。
3年にわたり、なんと18万を超えるアクセスがありました。誠にありがとうございます。当ブログは、僕のメインブログとして位置づけ、自身の活動も含め、エビデンスと薬剤師に関わる記事を定期的に更新してまいりました。日々思うことの言語化により、これからの立ち位置や方向性がだんだんと整理されてきたように思います。

[あたらしい地域医療の見え方]
「地域医療の見え方」というブログタイトルは個人的にとても気に入っており、新たなブログの開設に当たり、このブログ名を継承しようと思います。このBloggerでの地域医療の見え方は、「Blogger版 地域医療の見え方」とし、基本コンセプトは同じまま、4つのブログのエッセンスを凝縮し、プラットフォームをbloguruへ移します。

新たな「地域医療の見え方」のトップページはこちらです。

新・地域医療の見え方の大まかな運用方針を以下にまとめます。

①メイン記事はCLINICAL EVIDENCE SUMMARIES」「CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES」「CASE REPORTという3つのセクションからなり、このブログのコアとなる記事です。
②メイン記事の更新は週1回水曜日を予定しております。
③薬剤師のジャーナルクラブ(JJCLIP)やその他の記事は不定期で更新していきます。
④具体的な編集指針はブログトップページへ記載してあります。

CLINICAL EVIDENCE SUMMARIES」では毎週テーマを決め、複数の論文をレビューしながら臨床スクリプトをまとめていくものです。臨床スクリプトとは僕の造語で、一言でいえば「エビデンスに台本化された、臨床行動の例」です。あくまで一つの例ですから、こうした方がよいというような治療方針や一定の学術的見解ではなく、一つの選択しとしてとらえていただければと思います。このセクションでは薬剤師が関わる臨床に特化したエビデンスレビューを行うことを目標にしています。

CLINICAL EVIDENCE SYNOPSES」は、これまで「薬剤師の地域医療日誌」が担っていた文献要約を載せていきます。毎週4本から5本程度の論文を取り上げる予定です。なお関連論文も取り上げ、併せて臨床スクリプトをまとめることもあります。取り上げる論文に偏りがあるかも知れませんが、真のアウトカムを評価し、実臨床で再現性の高い論文、というのを一つ採用基準として設定しています。

CASE REPORT」は、これまで「薬剤師のケースレポート日誌」が担っていた症例報告文献の紹介です。毎週23個を目標に乗せたいと考えています。

[ブログ記事の検索について]
ブログ過去記事の検索が情報を引き出すための唯一の手段ですが、ブログに搭載されている検索機能の他に、もう一つ外部検索機能を構築中です。

地域医療の見え方専用ツイッターアカウント [@commedsa] を開設し、ブログ各記事に対するリンクツイートをツイログ(http://twilog.org/commedsa)に記録することで、このサイトから記事検索ができるようになっています。ご活用ください。アカウントのフォローも、是非是非、お気軽にお願いいたします。

[旧ブログの運用方針]
4つの旧ブログサイト(薬剤師の地域医療日誌、薬剤師のケースレポート日誌、エビデンスの見え方、当ブログ)は運用を一時中止いたします。現在のところ再開の予定はありませんが、何か新たな活用法が見つかりましたら、また再開したいと思います。当面はデータベースとしての使用に耐えうると思いますが、情報の鮮度にご注意ください。薬剤師の地域医療日誌は201525日まで自動更新されます。以降、運用を一時中止いたします。
長らくご利用、誠にありがとうございました。そして新しい地域医療の見え方をどうぞよろしくお願い申し上げます。


Blogger版 地域医療の見え方管理人 青島周一

2015年1月3日土曜日

平成26年度第9回薬剤師のジャーナルクラブの開催のお知らせ

ツイキャス配信日時:平成27125日(日曜日)
■午後2045分頃 仮配信
■午後2100分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。

※フェイスブックはこちらから→薬剤師のジャーナルクラブFaceBookページ
※ツイキャス配信はこちらから→http://twitcasting.tv/89089314
※ツイッター公式ハッシュタグは #JJCLIP です。
ツイキャス司会進行は、精神科薬剤師くわばらひでのり@89089314先生です!
ご不明な点は薬剤師のジャーナルクラブフェイスブックページから、又はプロフィール記載のメールアドレスまでご連絡下さい。

[症例16:新しい経口抗凝固薬はワルファリンよりも優れているのでしょうか?]

【仮想症例シナリオ】
あなたは, とある保険薬局に勤務する薬剤師です.
冬の寒さが身にしみるある日の朝早くに, 一人の患者さんが薬局を訪ねてきました.
69歳女性. 身長155cm, 体重40kg, 血清クレアチニン値0.67mg/dL.
4
年前より永続性心房細動にてワルファリンを服用中.
高血圧の既往もあって, 現在はカルシウム拮抗薬を1剤併用している.
規則正しく薬は飲んでいるが,
毎回診察時に実施される採血がやや面倒と薬局でぼやくこともある.
ある時突然, 新しい血液サラサラの薬に切り替えてみようかとDr.から打診された.
けれど, 症状が落ち着いている状態でなぜ薬を変えるのかイマイチ納得できないので, 次回まで考えるとDr.には伝えている.
「薬のことならあなたに相談するのが一番と思って. 先生だったらどう思います?」
ワルファリンから新しい抗凝固薬に変更した方が, この方にとって有益なのかどうか, さっそく調べてみることにしました.

[文献タイトルと出典]
Rivaroxaban vs. warfarin in Japanese patients with atrial fibrillation – the J-ROCKET AF study –.
Pubmed : http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=PMID%3A+22664783
PDF → https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/advpub/0/advpub_CJ-12-0454/_pdf


[非劣性試験をどう読む?]
本年、第1回目の配信となります。シナリオ作成は山本雅洋先生です。お忙しい中、シナリオを作成いていただき、誠にありがとうございました。

今回はリバーロキサバンとワルファリンの直接対決試験です。この研究はプラセボ比較のランダム化比較試験ではなく、介入群、比較対象群ともに実薬を使用しています。通常であれば「リバーロキサバンの(アウトカムに対する)有効性はプラセボ差がない」という“帰無仮説”を統計的検定という手続きにより“棄却”し、「リバーロキサバンの(アウトカムに対する)有効性はプラセボと同等ではない」ことを示すわけですよね。ややこしい言葉を取り除きシンプルに言えば「リバーロキサバンはプラセボと比較して優れた有効性を有することを示したい」というわけです。

この論文の研究は実薬、すなわち比較対象がワルファリンです。そのために「リバーロキサバンはワルファリンに比べてその有効性はどの程度なのか」というクリニカルクエスチョンに対する示唆をこの研究で示すことが目的であります。

さて心房細動患者に対する抗凝固療法の効果はおおむねワルファリンにてリスクベネフィットが検証されていますし


The net clinical benefit of warfarin anticoagulation in atrial fibrillation.

心房細動+リスクファクターと脳卒中リスクの関連も有意であることは疫学的研究からも現代医療ではほぼ常識に登録されていいます。

リスクファクター
点数
CHADS
スコア
脳卒中年間発症率%
95%信頼区間]
心不全
1
1.91.23.0
高血圧
1
2.82.03.8
75歳以上
1
4.03.15.1
糖尿病
1
5.94.67.3
脳卒中・TIAの既往
2
8.56.311.1

12.58.217.5
18.210.527.4

CHADSスコアと年間脳卒中発症率JAMA. 2001 Jun 13;285(22):2864-70 PMID: 11401607より作図

その為に、心房細動を有する脳卒中リスクの高い患者を対象とした臨床試験を計画する際には、ランダム化によりプラセボ群に割り当てられた人は、リスクの高いまま治療されないことを強いられてしまうわけです。現代社会ではこれは倫理的に許容されません。こういった問題を回避するために行われるのが、アドオン試験、もしくは実薬対照試験と呼ばれる研究デザインです。

アドオン試験はその名の通り、検討したい薬剤を上乗せ治療する群と、上乗せ治療しない群を比較します。具体的には脂質異常症患者に対して行われたMEGAstudyが有名でしょうか。
Primary prevention of cardiovascular disease with pravastatin in Japan (MEGA Study): a prospective randomised controlled trial.
この試験は食事療法+プラバスタチンと食事療法単独を比較した研究でした。この場合、当然ながら比較対象群を食事療法+プラセボとし、2重盲検法を用いた研究デザインも可能ですが、コストの観点等(事実上血液検査などの情報についても盲検化する必要があったり、プラセボを作成する手間などが増える)からオープンラベルで行うPROBE法を採用した臨床試験でした。

そしてもう一つが今回のような実薬対象試験です。実薬に比べて優れているかを検討するケースもあるかと思いますが、ワルファリンはすでに心房細動患者に対するベネフィットが現代医療の常識的に確立された薬剤です。少なくともワルファリンと比較して、その有効性が劣っていないことを示すことができればよいわけですよね。このような目的で行う研究を非劣性試験と言います。

実は臨床試験においては「差があるとこを示すより、差が無いことを示す方が難しい」という事は覚えておいて損はないでしょう。膨大なサンプルを集めていくと有意差が非常に出やすくなるからです。すなわち、膨大なサンプルを集めて、それでも有意差がないことを示すのは現実問題不可能です。通常の臨床試験のサンプル規模では大規模試験でさえも、有意差なし=同等と言うわけではありませんし、既存の薬に比べて差が無いという事を示すにはどうすれば良いのか、そういった問題をクリアするために生まれたのが非劣性試験や同等性試験です。

非劣性試験は介入間の違いの95%信頼区間が、臨床的に劣ると事前に定義された基準値を下回るかどうかに基づいて判断であり、劣っていないことのみ焦点を当てる片側性の検討です。臨床的に劣ると事前に定義された基準値、非劣性マージンはあらかじめ設定された数値で、この値を95%信頼区間上限が下回れば非劣性が示されたこととなります。

少し実例を見てみましょう。
Tiotropium Respimat Inhaler and the Risk of Death in COPD

この試験はスピリーバカプセルとスピリーバレスピマットを比較して死亡を含む安全性を検討した実薬対照の非劣性試験です。論文のPECOを簡単に示すと以下のようになります。
[Patient]
40歳以上の慢性閉塞性肺疾患を有する17315人(平均65歳、男性71.5%、現在喫煙者38.1%
[Exposure]
スピリーバレスピマット2.5μg 5730
[Exposure]
スピリーバレスピマット5μg 5711
[Comparison]
スピリーバハンディヘラー18μg 5694
Outcome
死亡(非劣性検討)
統計解析はITT解析ではなく修正されたITT解析です。非劣性試験では必ずしもITT解析が良い手法だとは言えないというところも大きなポイントです。

ITT解析とはIntention-to-treat解析の頭文字をとったものですが、一度特定の群に割り付けたら、実際の治療が行われなくても、あるいは他方の群の治療を受けたとしても、最初に割り付けた群のままで統計解析を行い、最初に意図したとおりの群のまま解析するという事です。一方Per protocol解析は実際に治療を受けた人のみ解析対象にする手法です。
試験から脱落してしまって、薬を飲まなくなってしまった人を、薬物治療群とするか、プラセボ群とするか、どちらの治療群として扱うべきかという問題が起こった時に、最初に割り付けた治療群のままで解析をしましょうというのがITT解析です。最初に割り付けたグループと異なるグループとして解析してしまうと、せっかくランダム化により患者背景を偏りなくそろえたのに、それを保持することが難しくなってしまうことがあるのです。すなわちITT解析はランダム化を保持する目的で行います。

ITT解析はランダム化を保持する、と言う意味で有用な解析方法ですが、一般的にはもう一つ利点があるとされています。試験からの脱落は、何らかの理由があって発生します。副作用がきつい、とか介入治療にともなう精神的苦痛など研究プロセスへの不満なども影響してきます。試験終了まで元の群にとどまったとしてもアドヒアランスはかなり低下しているかもしれません。割り付け重視のITT解析を用いることで、実臨床に近いアドヒアランスを再現することができます。これにより、治療効果の過大解釈を防ぐ(有意差が出にくくなる)ことができます。したがってITT解析を行うと差なし仮説の側に片寄りやすくなります。そのため非劣性という結果に陥りやすくなるため、非劣性試験では修正されたITT解析などPer protocol解析に近い手法で統計解析されることが多いのです。

では結果はどのようなものだったのでしょうか。差なし仮説に偏らないためのより厳しい評価と言う点で、結果の信頼区間には97.5%信頼区間を用いることも多いです。95%信頼区間に比べて信頼区間の幅が狭くなるため、有意差が出にくくなるのとは逆の方向に振れやすいわけですね。

アウトカム
E
C
ハザード比
95%信頼区間]
死亡
(非劣性マージン1.25
E
440
7.7%)
439
7.7%)
1.00
0.871.14
E2
423
7.4%)
0.95
0.841.09
事前定義された非劣性マージンは1.25でした。結果のハザード比はいずれも25%を下回っており、スピリーバレスピマットの安全性はスピリーバレスピマットに比べて劣っていないという非劣性が示されたという結論になっています。

個々で議論の余地が残るのが死亡リスクが25%増加するというマージンを臨床的に許容できるのか否か、そんな問題も残りますよね。非劣性試験、これは奥が深い研究デザインですね。特に安全性検討においては一つの非劣性試験で安全性が示されたといえど、これをもって安全と結論するのはどうかなぁなどと考えてしまいます。

話が大きく脱線しましたが、非劣性試験について、基本的な概要がつかめたでしょうか。では続きは本配信でまた議論しましょう!


薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

EBMって何でしょう?

あけましておめでとうございます。
昨年中は大変お世話になりました。

昨年の暮れにEBMについていろいろ考えていたことをEBMの思想としてまとめさせていただきました。

地域医療の見え方「EBMの思想

薬剤師のジャーナルクラブ(JJCLIP)を共同主催させていただいている精神科薬剤師の桑原秀徳先生より、ご自身のブログに引用していただき、なおかつその内容を発展させていただき、とても興味深い示唆が展開しています。

hidex公式ブログ『はぐれ薬剤師のココロ』「EBMって何でしょう?

少し引用させていただきながら、思考の展開を試みてみたいと思います。
桑原先生は、EBMの思想に対して以下のようにまとめられておられます。

EBMを「主義や思想」にしてしまうと、それは必ず相容れない集団を生みます。」

これは非常に重要な指摘だと思います。EBMに関わらず、臨床判断、治療方針等、医療者同士での信念対立は日常的に生み出されています。

「例えばEBMをよく理解してない人は対立概念にNBM (Narrative Based Medicine)を持ってきたりしますが、NBMも結局どこにフォーカスするかの言葉の問題であって「EBMNBMの融合が大事で・・・」なんて言い出すと本当に意味不明なトンチンカンなことになりますよね?」

これはEBMNBMという二項対立が生み出す信念対立にほかなりません。二項対立、こういった図式は日常でもごくごく身近に生み出されます。たとえば、「赤」と「青」や「男性」「女性」のように。二項対立には「自己は正しく、他者は誤りである」というメタ認知が駆動しているという事に気付くことは重要かもしれません。あるテーゼの正しさをいったんカッコに入れ、判断停止する。オーストリアの哲学者フッサールはこれを判断停止「エポケー」と呼び、そこから、なぜ自己を正しいと認識したのか、その前提そのものを問い直すこと、これを還元という仕方で信念対立を解消するための思考プロセスを提示します。このような思考プロセスはいわゆる現象学と呼ばれる系譜に繋がっていきます。

フッサールはさらに『ヨーロッパ諸学の危機と超越論的現象学』という書籍の中で「自然の数学化」という、とても興味深い示唆を述べています。(僕自身は原著を読んだことがないので受け売りですが・・・)

科学の進歩は、ヒトがかかわる現象を一般化していきます。それは数値で示せる客観的な指標として自然科学の体系を基礎づけてきました。科学の進歩によって、世界はすべて数学的に説明できるという信憑が一般に広がったわけです。そしてそのことが、僕らの生の意味というものをあまり深く考えないようになってきていると指摘します。つまり学問体系は、意味世界を排除することで、客観的な世界を説明するものとなってしまったというわけです。

このように自然の数学化は、数量的に示すことができる客観的物体世界とそれ以外の主観的世界に分裂していくことを引き起こしました。これは、哲学上最大の難問である主観、客観問題に発展していきます。そしてこの二項対立は自己と他者という二元論を形作ることになります。様々な宗教感、多様な思想、思考プロセスの違いが、信念対立を生み出し、時に人は争いを起こしてきました。

EBMはこうした二元論、あるいは信念対立を解消するひとつのツールとしても機能させなくてはなりません。人を幸せにすることがEBMの真のアウトカムであるのならば、繰り返しになりますが、EBMは医療者、患者、全ての人を繋ぐ架け橋として実践されるべきだと思っています。そのためにはEBMという仕方そのものにこだわることはあまり良いアウトカムを生まないような気がしています。

「そうか、EBMは呼吸法だったのか。」
桑原先生はそうおっしゃいます。EBMとは何か特別な臨床行動なのか。否、それは呼吸するのと同じように無意識的な仕方で行われるべきものであると。

EBMの実践が価値あるものとして取り出される背景にはそのベースとなる論文(エビデンスそのものに関心があるという事を忘れてはなりません。構造構成主義ではこれを関心相関性と呼びますが、ある行動原理の価値は、それを実践する人の関心により変動するものであるという認識は持っておいたほうが良いでしょう。EBMから構造構成主義医療へ、思考プロセスをメタレベルへ引き上げることで、エビデンスか、経験か、理論か、ナラティブか、そういった不毛な信念対立が解消できるのではないか、そんなふうに考えています。


本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。