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2014年12月22日月曜日

今年報告された注目医学論文 “厳選10本”

本年も数々の衝撃的な論文報告がありました。今年1年を振り返り、特に印象に残った論文の中から、全文フリーでアクセスできる論文を10本厳選いたしました。フリーアクセスできる論文を選んでいるので、ジャーナルに偏りがあるかもしれません。
また、結果の解釈については様々な異論もあるかと思います。さらに論文の妥当性についても議論の余地があるかもしれませんが、取り上げられたテーマとして、今後の研究報告も含めて注目したいと僕が思った論文をご紹介させていただきます。抄読会のネタとして、あるいはそのテーマについて掘り下げて勉強するきっかけになれば幸いです。

1.
Priest P, McKenzie JE, Audas R. et.al. Hand sanitiser provision for reducing illness absences in primary school children: a cluster randomised trial.
[クラスターランダム化比較試験]
小学校における手指消毒で児童の欠席を減らせますか?という論文です。インフルエンザ流行シーズンでは小学校に限らず、公共施設や飲食店でも手指消毒用のエタノールが設置されることも多くなりました。本研究は小学生児童を対象に学校欠席率を比較し消毒の有効性を検討した報告です。サンプルサイズや研究デザインなど議論の余地もあるかと思いますが、明確な結果が示されなかった点は注目したいところです。

2.
Greening NJ, Williams JE, Hussain SF. et.al. An early rehabilitation intervention to enhance recovery during hospital admission for an exacerbation of chronic respiratory disease: randomised controlled trial.
[ランダム化比較試験]
COPDのような慢性呼吸器疾患で入院したらできるだけ早くリハビリを受けた方が良いですか?という論文です。プライマリアウトカムは12ヶ月以内の再入院ですが、セカンダリアウトカムとして死亡を検討した重要論文。慢性呼吸器疾患により入院中の早期のリハビリは12ヶ月間の再入院のリスクを軽減させず、身体機能の回復を促進しなかったという結果でした。また12ヶ月での死亡割合は、介入群で高かったというなかなか衝撃の結果です。

3.
Si S, Moss JR, Sullivan TR, et.al. Effectiveness of general practice-based health checks: a systematic review and meta-analysis.
[メタ分析]
一般診療における健康診断で健康になれますか?という論文です。最近のレビューでは、一般的な健康診断は、成人の死亡率を減少させることができないと結論付けており、この問題には議論の余地があるかともいますが…。これはランダム化比較試験のメタ分析ではあります。マスを対象とした健診では代用のアウトカムを改善する可能性は高いですが、その後の人生においてどのような影響をもたらすかよく分からないという印象はあります。当然ながら死亡に関して明確に減らさないという結果ですが、心血管疾患死亡は増加するというなかなか衝撃的な結果となっています。

4.
Miller AB, Wall C, Baines CJ et.al. Twenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study: randomised screening trial.
[ランダム化比較試験]
マンモグラフィによる乳がん検診についてはこれまでにも多数の報告が議論を読んでいますが、この論文はやはり一読せねばならないと感じます。追跡15年時点でマンモグラフィで発見された乳がん全体の22%(106/484例)が過剰診断である可能性が示唆され、マンモグラフィ検診を受けた女性424人で1件の乳がん診断が過剰診断となっているかもしれないと結論しています。

5.
Jørgensen T, Jacobsen RK, Toft U. et.al Effect of screening and lifestyle counselling on incidence of ischaemic heart disease in general population: Inter99 randomised trial.
[ランダム化比較試験]
いわゆるメタボ検診のようなスクリーニングと生活指導で心臓病は予防できますか?という論文です。デンマークにおける30歳から60歳の参加者59616人が対象となりました。コミュニティベースの心血管疾患スクリーニングによるリスク保有者への5年にわたる個別の生活習慣指導では10年後の人口レベルにおける心血管疾患や脳卒中、死亡率の改善効果見られないと結論された衝撃的な論文。

6.
Bennell KL, Egerton T, Martin J. et.al. Effect of physical therapy on pain and function in patients with hip osteoarthritis: a randomized clinical trial.
[ランダム化比較試験]
変形性腰関節症に理学療法は効果がありますか?という論文です。変形性腰関節症をX線にて確認された102人を対象に理学療法の有用性が検討されました。疼痛/身体機能改善度に有意差は見られなかったとしています。しかしながら、プラセボ群のほうがむしろ良い傾向にあるという結果はなかなか衝撃的な結果となっています。

7.
Ford AC, Forman D, Hunt RH. et.al. Helicobacter pylori eradication therapy to prevent gastric cancer in healthy asymptomatic infected individuals: systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials.
[メタ分析]
16歳超の健常な無症候性H pylori菌感染者を対象にピロリ除菌療法の長期アウトカムを検討した貴重な報告。胃がんの発生こそ低いものの、セカンダリアウトカムの胃癌死亡や総死亡に明確な差が出なかった点はやはり軽視できない印象です。

8.
Okabayashi S, Goto M, Kawamura T.et.al. Non-superiority of Kakkonto, a Japanese herbal medicine, to a representative multiple cold medicine with respect to anti-aggravation effects on the common cold: a randomized controlled trial.
[ランダム化比較試験]
風邪のひきはじめには葛根湯と総合感冒薬どちらがよいでしょうか?という論文です。薬剤師なら一度は目を通しておきたい論文。

9.
Weich S, Pearce HL, Croft P,et.al. Effect of anxiolytic and hypnotic drug prescriptions on mortality hazards: retrospective cohort study.
[コホート研究]
抗不安薬や睡眠導入剤に副作用はありますか?と言う論文ですが、主要評価項目は死亡です。ポリファーマシーなどにも関連して、この手のエビデンスは薬剤師にとって非常に重要意味を持つと考えています。

10.
Michaëlsson K, Wolk A, Langenskiöld S. et,al Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies.
[コホート研究]

牛乳は体に良い、そんなイメージを根底から覆す衝撃的な論文。日本人に当てはめられるか、議論の余地はありますが、骨折ですら前向きな結果が出ていないというインパクトのある報告です。

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