[お知らせ]


2014年11月7日金曜日

ポリファーマシーの是正がもたらすもの

ポリファーマシーに関して以前にまとめています。

コクランレビューがアップデートされています。
Interventions to improve the appropriate use of polypharmacy for older people.

[Patient]
65歳以上の高齢者
[Exposure]
評価ツールとしてMedication Appropriateness Index MAIスコア(8研究)、 Beers criteria1研究)、STOPP criteria2研究)、 START criteria1研究)を用いたポリファーマシー是正に関する介入やコンピューターによる意思決定支援
Comparison]
介入なし
Outcome
薬剤使用量
研究デザイン
メタ分析[統合研究数:12]
元論文バイアス
The GRADE (Grades of Recommendation, Assessment, Development and Evaluation) approach was used to assess the overall quality of evidence for each pooled outcome
エビデンスレベルはvery low low
評価者バイアス
Two review authors independently reviewed abstracts of eligible studies
異質性バイアス
抄録に記載なし
出版バイアス
抄録に記載なし

主な結果は以下の通りです。
・不適切な薬物使用量の減少をもたらした
・ベースラインと比較して、MAIスコアの減少(4研究) 平均差 -6.78, [-12.34 -1.22]
・入院対する影響や薬剤関連問題に関する影響はエビデンスの一致を見ない

不適切処方を減らすことは示されたようですが、臨床的なアウトカムについては不明な部分が多いと結論しています。確かに、ポリファーマシーの有害性は多数の研究報告がありますが、実際の介入によりどの程度臨床ベネフィットあるのか、よく分かっていません。個人的にも模索していたテーマだけに以下の論文にはやや肝を冷やしています。


Intervention with the screening tool of older persons potentially inappropriate prescriptions/screening tool to alert doctors to right treatment criteria in elderly residents of a chronic geriatric facility: a randomized clinical trial.

この報告はSTOPP/STARTクライテリアによるスクリーニングを主治医に提案することの臨床アウトカムを検討したランダム化比較試験です。
STOPP criteriaについては以下のブログに詳細がまとめられております。
栃木県の総合内科医のブログ:メモ:STOPP criteria

以下論文の概要をご紹介いたします。

[要約]
慢性の期介護施設居住の少なくとも1剤以上の薬物治療を受けている65歳以上の359人を通常の薬物療法と薬学的介入群にランダム割り付けた。薬学的介入群ではSTOPP/STARTクライテリアに従い、薬剤師が、潜在的に不適切な薬剤使用や投与の必要性があるにも関わらず、使用されていない薬剤のスクリーニングを行い主治医に提言した。

評価項目は介入開始から1年後までにおける、入院回数及び転倒回数であった。さらに機能的自立度評価表に基づく機能評価Functional IndependenceMeasure (FIM18の項目について日常生活活動(ADL)を17点で評価し、合計18点から126点で評価する自立度評価スコア。点数が高いほど依存度が高い。)健康関連QOLSF-1212-item Short-Form Health Survey12項目の質問からなる健康関連QOL評価のための包括的尺度。精神的側面サマリーMental component summaryMCS)と身体的側面サマリーPhysical component summaryPCS)を評価。0100点で評価。点数が高いほどQOL良好。一般集団の平均スコア50点、標準偏差10点)、薬剤コストであった。

1年後の平均薬剤数は介入群で有意に少なかった(P0.01)平均薬剤コストは介入群で1か月あたりUS29、有意に低かった(P0.001)平均転倒回数は研究開始前と比べて1年間で有意に減った。(P0.006FIMスコア、健康関連QOLは両群に差が見られなかった。

STOPP/START介護施設におけるクライテリアに基づく薬学的介入の実施は薬剤数の減少や骨折、薬剤コストを低下させる。

[背景]
STOPPクライテリアは潜在的に不適切な薬剤をスクリーニングするための基準であり、STARTクライテリアは、本来使用すべき薬剤が使用されていないことをスクリーニングするための基準です。プライマリケアにおける高齢者の薬物療法ではSTOPPクライテリアに該当する少なくとも1つ以上の不適切薬剤の使用は21.4%~39%までに上ると報告されており、入院している高齢者やナーシングケアホームに長期滞在している高齢者では70%まで上昇するとの報告もあります。一方、STARTクライテリア該当薬剤はプライマリケアのセッティングで22.7%、入院高齢者では41.9%~66%までに上るとも言われています。この研究ではSTOPP/STARTクライテリアに該当する薬剤を主治医に提言することで、その臨床アウトカムを検討した貴重な報告です。ランダム化前に薬剤師により患者データが取集されました。前年における入院頻度や骨折、最近受けた治療や既往歴などが精査されています。

[研究の盲検化への配慮]
STOPP/START各クライテリア該当薬剤は薬剤師から主治医に提言され、主治医がこの提言に基づき薬剤の使用可否を判断した。この研究では介入に関わる薬剤師と主治医には盲検化がされていなかったが、他の医師や介護職員には盲検化がなされました。

[研究のサンプルサイズに関して]
サンプルサイズは既存の研究報告をもとに、骨折割合として50%、入院割合として30%を想定し、薬学的介入群でそれぞれ30%、12%のリスク低下のもとに計算されたサンプルサイズは、各群134人。90%のパワーとαエラー5%までを許容した。15%の脱落を加味してサンプルサイズは最終的に各群191人とした。

[患者背景]
359人の患者(平均82.7歳、服用薬剤の剤数:13剤以上13.3%、91232.9%、5844.1%、5剤未満9.8%)のうち183人を介入群に、175人を対照群に割り付けました。最終的に解析に組み入れられたのは306人(85.5%)でした。

両群の患者背景において年齢、性別、チャールソン併存疾患指数、前年の転倒や入院、慢性疾患の有病率や医薬品の使用割合、平均使用薬剤数、月当たりの平均薬剤コストは同等でした。

[結果]
アウトカム
介入群(SD
上段:研究開始前
下段;研究開始後
対照群(SD
上段:研究開始前
下段;研究開始後
P
使用薬剤の剤数
8.8 3.4
7.3 2.7
8.2 3
8.9 3.2
0.01
コスト
Israeli shekels
382.7  279.3
279   (171.9
381.2  (281.2
402.3  291.2
<.001
転倒 (回)
1.32.4
0.81.3
1.42.5
1.32.4
0.28
入院 (回)
0.61.0
0.51.0
0.40.8
0.50.9
0.10
FIM
58.4  35.8
54.3  35.1
58.9  36.7
55.4  36.8
0.14
SF-12PCS
327.3
33.18.1
33.48.1
338.3
0.09
SF-12MCS
38.48.9
37.711.7
39.89.8
39.611.3
0.70
SDStandard Deviation 標準偏差


研究開始前年と比較して研究開始後1年後の変化に両群で差が出たのは剤数とコストのみでした。QOLも自立度評価も転倒も入院も明確な差は出ませんでした。サンプルがやや少ないようですが、ポリファーマシーの是正に関して、その臨床アウトカムをどうとらえていけばよいのか、薬剤師はいったい何をする職種なのか、再考するのに十分すぎる結果です。

2014年11月5日水曜日

お知らせ

講演をさせていただくこととなりました。
貴重な機会をいただき誠にありがとうございます。

日時:平成26年11月13日(木)19:00~20:40 
場所:大分県薬剤師会館 3階研修ホール 

英語論文との出会い、そしてEBMとの出会い。それ以来、薬剤師が実践するEBMの模索と、より英語論文を身近に、エビデンスと実臨床をつなぐ懸け橋としての薬剤師という立ち位置の確立、その普及に関する取り組みをほんの少しですが続けてきました。

薬剤師が論文を読むとはどういうことなのか、僕自身とEBMのこと、日常業務に論文をどう活用するのか、論文をいかに負担なく読みこなすか、そして継続して論文を読むことの意味とは何なのか、そういったことをお伝えできればと思っております。これをきっかけに少しでもEBMに興味を持っていただける薬剤師の方が増えれば、これほど嬉しいことはございません。


どうぞよろしくお願いいたします。

2014年11月3日月曜日

平成26年度第7回薬剤師のジャーナルクラブ開催のお知らせ

平成26年度薬剤師のジャーナルクラブを以下の通り開催いたします。

開催日時:平成26119日(日曜日)
■午後2045分頃 仮配信
■午後2100分頃 本配信

※フェイスブックはこちらから→薬剤師のジャーナルクラブFaceBookページ
※ツイキャス配信はこちらから→http://twitcasting.tv/89089314
※ツイッター公式ハッシュタグは #JJCLIP です。
ツイキャス司会進行は、精神科薬剤師くわばらひでのり@89089314先生です!
ご不明な点は薬剤師のジャーナルクラブフェイスブックページから、又は当ブログ「自己紹介」に掲載されているメールアドレスまで!

今回は@pharmasahiro先生にシナリオ作成を担当していただきました。ありがとうございました。
以下は、@pharmasahiro先生のブログからの引用です。

[症例14:アジスロマイシンの副作用はどれくらい?その2

【仮想症例シナリオ】
あなたはとある病院に勤める薬剤師です.
こちらの病院では最近, 薬薬連携をもっと活発にしようという流れがあり, その一環として,
病院薬剤部と院外の保険薬局とで合同の勉強会を毎月開催しておりました.
次の勉強会での題材を考えて欲しいと上司から頼まれたのがあなた.
さて, どういった内容にしようか考えていると, 普段から交流のある薬局薬剤師の先生から次のような提案を受けました.
「そういえば, この前のJJCLIPの最後で取り扱った, アジスロマイシンの副作用についての論文をみんなで読んでみてはいかがでしょう?」
こちらの薬局薬剤師の先生は, 普段からJJCLIPを視聴している方で,
その方の影響もあって, 最近は自分もJJCLIPを聴くようになっていました.
前回の放送で取り扱った論文では, 患者群が退役軍人であることや, 喫煙率の高さなど, 普段自分が目にする患者さん達とは背景が異なる点が多いため, あなたもほかの論文も参考にしたいなと考えていたところでした.
「前回放送で見つけたあの論文も気になっていたところだし, それに自分たちだけではなく, 論文を読める薬剤師が職場にもっと居てほしい. ここは思い切って, 職場の違いを超えて, 抄読会を兼ねた勉強会にしてみましょうか」
こうして, 保険薬局の先生と意気投合したあなたは, 早速共同で準備に取りかかることにしました.

[文献タイトルと出典]
Use of azithromycin and death from cardiovascular causes.
Pubmed :
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23635050
PDF
→ http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1300799

※ワークシートはこちらを使います。


このブログでは前回も少し触れましたが傾向スコアについてまとめておきます。

[傾向スコアマッチングについて]

コホート研究のような非ランダム化比較研究で問題となるのが2群間の患者背景の偏りでした。すなわち交絡の影響です。このような影響を排除するために多変量解析を用いた交絡調整がなされるわけですが、患者背景の偏りを防ぐために近年、良く用いられる手法が傾向スコアを用いたマッチングです。前回のジャーナルクラブで取り上げた論文でも使用されていましたね。
Azithromycin and levofloxacin use and increased risk of cardiac arrhythmia and death.

傾向スコアを用いた代表的な論文が以下のものです。
Aspirin use and all-cause mortality among patients being evaluated for known or suspected coronary artery disease: A propensity analysis. JAMA. 2001 Sep 12;286(10):1187-94. PMID: 11559263

この研究は冠動脈疾患の疑いのある患者に対してアスピリンを使うと死亡リスクが減るのかどうかを検討したProspective, nonrandomized, observational cohort studyです。観察研究ですから、当然研究開始時ではアスピリン使用群とアスピリン非使用群の患者背景は異なっています。アスピリンをすでに服用している人は基礎疾患が多く、その予後はアスピリンを飲んでいない人に比べて悪い、という事は容易に想像がつきますよね。論文本文のtable1を見ていただければお分かりの通り、年齢も、糖尿病既往歴も、高血圧患者も、冠動脈疾患患者もアスピリン使用群で有意に多いわけです。この偏りをどう防ぐか、傾向スコアが強力な武器となります。

傾向スコアとは一言で言えば、この研究の場合、参加者がアスピリンを使用している可能性(=傾向)を確率で示したものです。

研究参加者
患者背景
アスピリン使用可能性
(=傾向スコア)
参加者A
80歳男性、高血圧、糖尿病あり、心臓病の既往あり
80
参加者B
60歳女性、血圧正常。心疾患の既往なし。糖尿病なし。
10

性別や、年齢、併存疾患やその既往など数多くの交絡因子を傾向スコアという一つの変数に落とし込むことができるのです。そしてこの傾向スコアでマッチングを行うと患者背景を偏りなくそろえることが可能となります。この研究でのアスピリンの使用有無でまず2群に分けますが、その際に傾向スコアが同じ人でマッチングを行いながら2群に分けるのです。こうすることで様々な背景因子をきれいにそろえることができます。(疑似ランダム化)

アスピリン使用あり
80
40
:::::::
30
アスピリン使用なし
80
40
:::::::
30

この研究ではtable3にマッチング後の患者背景がまとめられています。たくさんの変数について、きれいに患者背景がそろっていることがご確認いただけるでしょう。

当然ながら、コホートの登録患者すべてをマッチングすることはできません。傾向スコアが極端に高い患者ではほぼ全例がアスピリンを使用しており、アスピリンを服用していない群の中から傾向スコアが極端に高い人が存在しない可能性が高いからです。同様に傾向スコアが極端に低い人の中でアスピリンを使用している人は稀でしょう。傾向スコアマッチングではこのような外れ値が除外されてしまうことがあり、算出される結果はコホート全体の平均的な値となり、effectはやや低くなるでしょう。外的妥当性に優れる観察研究ではありますが、このあたりでやや割り引いて考える必要があるかもしれません。

またマッチングできたとしても、傾向スコアが高い人、低い人はやはり人数が少なくなってしまい、サンプリングバイアスを生じることがあります。近年ではこのようなサンプリングバイアスを少しでも軽減するために傾向スコアに重みづけをして解析する手法も増えています。これは介入群の傾向スコアは逆数を用い、対照群の傾向スコアには1-傾向スコアの逆数を用いるもので、極端に傾向スコアが高い部分と低い部分の患者数の少なさを統計的に補正するというものです。

傾向スコアを用いることで観察研究でもランダム化比較試験と同じように比較可能性が高まりますが、極端な外れ値は除外されてしまうため、その外的妥当性についての問題があるようにも思います。対象母集団の基本的な特性と合わせてエビデンスの適用時には熟慮が必要な部分かと思います。



薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。