[お知らせ]


2014年10月27日月曜日

エボラウイルス疾患の治療経過に関する報告

以下はNEJM誌に報告されたエボラウイルス疾患を発症した患者の詳細な臨床経過と治療に関する報告です。現時点で大変貴重なものだと思いますのでご紹介いたします。なお、訳には細心の注意をしておりますが、誤り等が散見される可能性がありますので、2次利用に関しましては、その内容に十分に注意していただき、詳細に関しましては原著論文をご確認いただきますようお願いいたします。

Kreuels B, Wichmann D, Emmerich P, et.al. A Case of Severe Ebola Virus Infection Complicated by Gram-Negative Septicemia.N Engl J Med. 2014 Oct 22. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 25337633

201312月以来、前例のない規模のザイール型エボラウイルス(EBOV)流行はギニア、シエラレオネ、リベリアを中心に、西アフリカを襲ってきた。 現在の流行は、地域の公衆衛生上の緊急事態につながり、医療従事者の高い罹患率の増悪を招いている。致命的な症例の大多数は、医療従事者の間に起こっている。国際医療従事者の中には、欧州と米国の専門施設に立ち退いた者もいる。私たちの高度伝染性感染症治療ユニット(biosafety level 4 laboratories類似ユニット)へ搬送された患者はWHOで疫学者として勤務していた。

[発症までの経過と入院時所見]
罹患1日目にあたる2014818日時点で36歳の男性患者は倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛を有していた。2日目には発熱初診にてマラリアとして対応した。2日目から6日目の間に彼はまた、セフタジジムによるエンピリカル治療を受ける。6日目にRT-PCRによるエボラウイルス陽性が確認される。7日目には吐き気、嘔吐、下痢、腹痛を呈したため、シエラレオネ治療センターへの彼の入院を促す。8日目にシプロフロキサシンおよびメトロニダゾールの単回投与を受け、輸液による支持療法を、ハンブルグに移動するまでの10日目まで行った。

患者の病歴から推測するに、感染源はこの患者が発症前に接触していたエボラウイルス疾患(以下EVD)を発症し、10日目で死亡した彼の同僚であったと考えられる。この患者と死亡した彼の同僚は、会議のための事務所を共有し、死亡した3日前まで、同じトイレ設備を使用していたことが分かっている。

我々の施設入所時、この患者の容態は比較的安定していた。38.4度の発熱があったものの、他のバイタルは正常であった。oxygen saturation97%、blood pressure 110/80 mm Hgheart rate 87 beats per minuteと著名な異常を認めない。

意識はあり、覚醒状態で脱水兆候があり腹部圧痛の拡散を認めた。発疹は存在しなかった。患者は持続的B型肝炎ウイルス感染の既往があったが症状はなかった。臨床検査所見では脱水と軽度の低カリウム傾向を示していた。

hemoglobin level18.0 g per deciliter,
creatinine level1.9 mg per deciliter  (normal range, 1.1 mg per deciliter)
potassium level,3.4 mmol per liter( normal range, 3.5 to 5.0).
platelet count 103×103 per cubic millimeter (normal range, 150 to 450),
aspartate aminotransferase level 1054 U per liter (normal range, <50),
D-dimer level 33 mg per liter (normal range, 0.1 to 0.4)

マラリアとデング熱の検査結果は陰性であった。腹部の超音波検査では下大静脈の完全な崩壊、小腸の顕著な浮腫を伴う麻痺性イレウス、肥大した大腸壁、膨張した腸係蹄を明らかにした。

[臨床経過と管理]
対症療法
経口摂取不可能のために、吐き気、嘔吐、および発熱の治療には、入院後即時、静脈内投与が行われた。使用された薬剤詳細はSupplementary Appendix.Figure S1. Timeline of drugs and supportive therapy.を参照

[水分摂取と栄養管理]
体重、電解質是正のために最大限の栄養サポートが行われた。患者はハンブルグ搬送後の最初の3日間(罹病10日~12日後)において1日の排便で8000mlを失っていたため、血液量減少性ショックのリスクが高いと考えられていた。

嘔気や嘔吐は経口による補液を妨げ1日当たり最大で10Lの輸液により、心循環値を安定させる必要があった。(初週では30L)持続する低カリウム血症に対して1時間あたり塩化カリウム溶液810 mmolの連続的な静脈内の投与を必要とした。体重および電解質の是正をするために、15日目に中心静脈カテーテルが留置された。麻痺性イレウス等の通過障害のために経腸栄養は考慮できなかったエリスロマイシンやネオスチグミンによる蠕動運動を刺激する試みは成功しなかった粘膜の正常化をサポートするためにグルタミン酸0.3g/㎏を含む静脈栄養を11日目に開始した。患者の状態が安定した17日目より低繊維の経腸栄養が開始された。

[臨床経過および合併症の管理]
患者は10日目から12日目にかけて安定してきた。嘔吐は13日目で軽快。多量の下痢も15日目で軽快した。ヘモグロビンおよびクレアチニンレベルは、12日目により正常範囲に戻った。アミノトランスフェラーゼレベルも徐々に減少した。しかし、発熱(40.0℃)、低酸素血症、頻脈、息切れ、腹部の痛みは13日目に入っても鎮静化しなかった。白血球は増加14.1×103 white cells per cubic millimeterC-reactive protein level (43 mg per liter)
これらの結果は、粘膜の欠損により細菌の易感染に付随する二次性腹膜炎や敗血症を示唆すると解釈された。

セフトリアキソンによる抗菌療法が13日目に開始されたものの、14日目には白血球数のさらなる増加(26.9×103 per cubic millimeter)が認められたため、メロペネムとバンコマイシンに変更した。12日目の血液培養によれば、アンピシリン、シプロフロキサシン、および第三世代セファロスポリンに耐性を有するが、メロペネムに感受性のあるグラム陰性細菌が認められた。エボラウイルスRNAが減少している間においても、重篤な感染症が起こっていることが示された。

患者の治療経過は胸膜や心膜の滲出、腹水、および腸管浮腫の増加によって、さらに複雑になった。15日目に、低血糖や乳酸アシドーシスにより複雑な臓器灌流の不足を招き、重炭酸ナトリウム、および40%グルコース溶液で対応した。

精神状態の変化と肺拡張不全、容量過負荷、および脳症により、18日目には急性呼吸不全を起こした。血小板減少症との関連で生じた鼻出血により呼吸状態がさらに障害をうけた(鼻腔より血液が吸引されていくような状態と思われる。)その為、禁忌(胃不全麻痺や精神状態の変化)にもかかわらず、非侵襲的換気を開始した。断続的な非侵襲的換気の8日後、患者は次第に回復し、彼の検査値が正常化し始めた。しかし患者は持続的な頻脈と高血圧を呈していた。心電図とエコーは正常であった。
(heart rate, 120 to 150 beats per minute)
(blood pressure, >150/80 to 180/100 mg Hg)
頻脈と高血圧はメトプロロール及びクロニジンに反応しなかったが、35日に介入なしで次第に回復していった。

患者は14日~16日目にかけて深刻な脳障害を持っており回復はゆっくりであった。脳症は、幻覚(2025)で一過性のせん妄が続いた。ハロペリドールに反応しなかったものの、自発的に鎮静化した。

[ザイールエボラウイルス(以下EBOVRNAの推移および血清学的所見]
移送前の地域治療センターにて、発病6日目及び7日目に、リアルタイムRT-PCRアッセイにより測定された患者は血液中のEBOV RNAは陽性反応を示した。ハンブルグ到着後(10日目)には血漿中のEBOV RNA濃度を毎日測定した。またEBOV-特異的IgGおよびIgM抗体の存在を、抗原として​​EBOV感染ベロE6細胞​​を用いた免疫蛍光アッセイによって測定した。EBOV RNA負荷は10日目に開始し減少し、17日目にマイナスとなった。血漿EBOV RNA17日目に陰性になった後、痰、唾液、結膜スワブ、糞便、尿、および汗(腋窩、額、及び鼠径部領域からの)からリアルタイムRT-PCRの監視を行った。唾液、喀痰、結膜ぬぐい液、および便は18日目に陰性であった。しかし尿サンプルは、30日目までEBOV RNA陽性のままで、汗からのRNA抽出物は、40日までの観察期間を通して陽性のままであった。

[高度伝染性感染症治療ユニット(以下UTHCI)及び感染症病棟からの退院]

28日目にUTHCIから感染症病棟(similar to the precautions used in biosafety level 3 laboratories.)に移った。血漿中のRT-PCRアッセイにおける否定的な結果に加えて、病院と地域および国の保健当局との間の合意に基づいて患者移送のための三つの基準は、臨床的回復、便や尿の排泄自立能力、および指示を遵守する能力であった。退院は、尿や汗でのウイルスRNAの検出が長期化したために、40日まで延期された。すべての体液サンプルよりウイルスRNAの検出がなされなくなって20日後に地元の保健当局との合意で患者は退院した。患者は、最終的には肝臓酵素レベルを含むすべての検査値で正常範囲であり、彼は自力でセネガルの自宅へ戻ることができました。

[感染対策予防]

UTHCIで働くスタッフは毎分160リットルの最大エアフローと新鮮な空気の供給を提供するために、高効率粒子空気フィルタを備えた換気装置が装備されていた加圧されたスーツにより保護されていた。患者の世話をするすべてのスタッフが、感染することはなかった。

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