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2014年9月18日木曜日

クロピドグレルとACE阻害薬の併用に関する最新報告から

クロピドグレルとACE阻害薬に関する薬物相互作用に関する大変興味深い報告です。現段階で両薬剤の併用に関する公式な書面での注意喚起はなされていません。以下の論文はアブストラクトしかフリーで読めませんが、一読の価値ありです。以下、拙訳ですが、アブストラクトの全訳をご紹介いたします。

【文献タイトル・出典】
Clopidogrel bioactivation and risk of bleeding in patients co-treated with ACE inhibitors after myocardial infarction: A proof of concept study.

Abstract
Clopidogrel is an oral antiplatelet prodrug, the majority of which is hydrolyzed to an inactive metabolite by hepatic carboxylesterase 1 (CES1). Most angiotensin-converting enzyme inhibitors (ACEIs) are also metabolized by this enzyme. We examined effects of ACEIs on clopidogrel bioactivation in vitro and linked the results with a pharmaco-epidemiological study. In vitro, ACEIs inhibited CES1-mediated hydrolysis of a model substrate, and trandolapril and enalapril increased formation of clopidogrel active metabolite. In 70 934 patients with myocardial infarction, hazard ratios for clinically significant bleeding in ACEI-treated patients co-treated with or without clopidogrel were 1.10 (95% confidence interval [CI] 0.97-1.25, P=0.124) and 0.90 (95% CI 0.81-0.99, P=0.025) compared to patients that did not receive ACEIs. This difference was statistically significant (P=0.002). We conclude that co-treatment with selected ACEIs and clopidogrel may increase the risk of bleeding. Combination of in vitro and pharmaco-epidemiological studies may be a useful paradigm for assessment of drug-drug interactions.

クロピドグレルは、経口抗血小板薬のプロドラッグであり、その大部分は、 肝臓のカルボキシルエステラーゼ1CES1)によって不活性代謝物に加水分解される。また大部分のアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害薬)も、この酵素によって代謝されると言われている。
私たちは、in vitroにおけるクロピドグレルの生物活性化に対するACEIの影響を検討し、薬理疫学研究での結果とリンクさせ考察した。
in vitroでは、ACE阻害薬は、CES1で代謝されるモデル基質の加水分解を阻害し、トランドラプリル及びエナラプリルは、クロピドグレル活性代謝物の生成を増加させた。
心筋梗塞を有する70934人の患者における臨床研究ではACE阻害薬を使用していない患者に比べてACE阻害薬を使用中の患者では、クロピドグレルの併用があった場合、出血のハザード比が1.10 (95%信頼区間 0.97-1.25, P=0.124)であり、併用がなかった場合のハザード比が0.90 (95%信頼区間 0.81-0.99, P=0.025)であった。この差は統計的に有意であった。(P=0.002
ACE阻害薬とクロピドグレルとの併用治療は出血のリスクを高める可能性がある。in vitro研究、薬理-疫学的研究の組合せは、薬物 - 薬物相互作用の評価に有用なパラダイムであり得る。

【コメント】
クロピドグレルの代謝経路は主に2つあり、添付文書には以下のような記載があります。
「クロピドグレル硫酸塩は吸収された後、肝臓で主に2つの経路で代謝される。すなわち、1)エステラーゼにより非活性代謝物であるSR26334(主代謝物)を生成する経路と、2)薬物代謝酵素チトクロームP450CYP)による酸化型代謝物を生成する経路である。後者の経路を経由して、活性代謝物H4が生成される」

エステラーゼで代謝される経路はクロピドグレル不活化の経路でこちらは主代謝物です。薬理活性を有する経路はCYPが絡んでおり、薬物相互作用や遺伝多形などこちらが注目されることの方が多い印象です。


カルボキシエステラーゼ1はデラプリルとイミダプリルなどのACE阻害薬の基質と言われており、ACE阻害薬はカルボキシエステラーゼにより活性代謝物となります。
Hydrolytic profile for ester- or amide-linkage by carboxylesterases pI 5.3 and 4.5 from human liver. Biol Pharm Bull. 1997 Aug;20(8):869-73. PMID: 9300133
エナラプリルのインタビューフォームを見てみると確か「にヒトにおける主要代謝物は活性代謝物であるジアシド体(エナラプリラト)である。」と書いてあり、構造中央あたりのエステルが加水分解されカルボキシル基になっています。投与された薬剤の70%が代謝されるようです。

今回問題となっているのが、ACE阻害薬とクロピドグレルとの代謝酵素競合阻害による薬物相互作用です。すなわちクロピドグレル主代謝物である非活性物質の経路が競合阻害により遮断され、活性物質が増加することによる出血リスク増大です。

基礎研究の結果では、トランドラプリル及びエナラプリルは、クロピドグレル活性代謝物の生成を増加させたことを明らかにしたうえで、臨床試験データを検討しています。ACE阻害薬の使用なしに比べてACE阻害薬を使用した患者の出血リスクは
①クロピドグレルの併用がある場合1.10 (95%信頼区間 0.97-1.25, P=0.124)
②クロピドグレルの併用がない場合0.90 (95%信頼区間 0.81-0.99, P=0.025)
と言う結果で①と②は統計的に有意な差が有ったとしています。(P=0.002

この研究結果のみで関連の強さを考察できるものではありませんが、因果関係を推論するうえで基礎研究結果と臨床研究結果の方向性一致は関連性の検討材料としては強いものになります。実臨床においてどの程度のインパクトとなるのか、今後の研究に注目するとともに、他の併用薬や投与量など、状況次第では両剤の併用には一定の注意喚起が必要かもしれません。

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