[お知らせ]


2014年9月17日水曜日

平成26年度第6回薬剤師のジャーナルクラブの開催のお知らせ

ツイキャス配信日時:平成26105日(日曜日)
■午後2045分頃 仮配信
■午後2100分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。

※フェイスブックはこちらから→薬剤師のジャーナルクラブFaceBookページ
※ツイキャス配信はこちらから→http://twitcasting.tv/89089314
※ツイッター公式ハッシュタグは #JJCLIP です。
ツイキャス司会進行は、精神科薬剤師くわばらひでのり@89089314先生です!
ご不明な点は薬剤師のジャーナルクラブフェイスブックページから、又はツイッターアカウント@syuichiaoまでご連絡下さい。

[症例13:アジスロマイシンの副作用リスクはどのくらい?]

[仮想症例シナリオ]
あなたは保険薬局の薬剤師です。最近、季節の変わり目のせいか、上気道炎の患者さんが増えており、抗生剤が良く処方されるようになりました。本日はアジスロマイシンが良く処方されていたためか、調剤室内はその空き箱と添付文書で散乱しています…。
あなたは何気なくアジスロマイシン成人用ドライシロップの添付文書を眺めていると、普段はあまり気にしたことの無いような副作用に目が留まります。

(重大な副作用)
QT延長、心室性頻脈(Torsades de pointesを含む)があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと。なお、QT延長等の心疾患のある患者には特に注意すること。”

でもこれって実際どの程度注意すればよいのでしょうか。。。Torsades de pointesは時に突然死を引き起こす重大な副作用です。
「成人にアジスロマイシンを投与すると、投与しない場合に比べて不整脈リスクや死亡リスクはどうなるか?」
JJCLIPを聞いて一通りEBM実践の基本スキルを身に着けていたあなたはこの臨床疑問を定式化し、文献を検索してみることにしました。
キーワードは アジスロマイシン;Azithromycinと不整脈;arrhythmia
検索データベースはPubMed Clinical Queriesを使います。
検索ワードを入れて、カテゴリーをEtiology、検索範囲をNarrowにすると、なんと文献が11件に絞られました(2014年9月現在)
その中でもフリーで全文が読める以下の論文を見てみることにしました。

[文献タイトル・出典]
Azithromycin and levofloxacin use and increased risk of cardiac arrhythmia and death.

[薬剤と有害事象との関連を評価するには]
今までJJCLIPで取り上げてきた論文は主にランダム化比較試験とそのメタ分析でした。(一部横断研究も取り扱いました)今回はいわゆる観察研究の論文です。(観察研究に対してランダム化比較試験は介入研究などとも呼ばれます)

ランダム化比較試験も疫学的研究方法の一つで、薬剤とそのアウトカムの関連を検討するものとして内的妥当性に優れた研究デザインでした。しかしながら今回の仮想症例シナリオのように「有害事象」をアウトカムにおいたランダム化比較試験は、倫理的に難しいと言えます。害が発生する可能性があることを知ってその評価のために薬を飲みたい研究参加者はいくら謝礼をもらったからとはいえ、そうそう集まるものではありません
また、医薬品の有害事象はそうそうめったに発生するものではありません。(そうであれば医薬品として承認されませんよね)めったに起こらないアウトカムを検討する場合、少ない症例数では検出力が不足し、結果に有意差が出ないことは想像につきます。
有害事象の検出にはRule of Threeと言うのがありまして、これを覚えておくと、なかなか便利です。この法則は
「有害事象発生率が1,000例中の1例の発現率(0.1%の発現率)である場合、その有害事象を95%の精度で検出する場合に、3倍の症例数が必要だ」
という法則です。例えば、10,000例に1例なら30,000例、50,000に1例なら150,000例が必要となることになります。
以上のような理由から有害事象と薬剤の関連を検討するにはランダム化比較試験のような介入研究ではなかなか難しいということがお分かりいただけるでしょう。この関連を検討するには、より倫理的で、より大規模な症例を集める、この2つの問題をクリアしなければいけません。
倫理的問題をクリアするには、ランダム化を行わないことです。人為的な介入をせず、自然の成り行きを見ていくという過程の中で薬剤と有害事象との関連を見出すのです。(=観察研究)そして、健康保険などの全国規模のデータベースを活用することでランダム化比較試験とは比べ物にならない大きな症例数を検討することが可能になります。

アメリカではメディケアやメディケイドと言った健康保険システムがありますが、これらのデータベースを用いることで、薬剤使用と疾患・有害事象の関連を評価することができます。
▶メディケア:65歳以上の高齢者を対象とした医療扶助。連邦政府によって運営
▶メディケイド:生活保護受給者など低所得者を対象とした医療扶助。連邦政府、州政府が共同運営

[観察研究を読む]
薬剤有害事象を検討するのに有用な研究手法の代表がコホート研究と症例対照研究です。今回はそのうちコホート研究を取り上げていきますが、症例対照研究との対比も含めてここで簡単に解説しておきます。

①コホート研究
コホートとは一定期間にわたって追跡される人々、さしあたってはそのような理解で良いと思います。コホート研究は観察対象集団の疾病の自然史に沿って観察を行う方法であり、人為的に暴露有り、無しにわけ、介入していくランダム化比較試験と異なります。しかしながら異なるのはここだけで、基本的にはランダム化比較試験と同じようにアウトカムの発症を前向きに検討しているという点では同様の認識で問題ありません。要するにランダム化して、人為的に治療するしないを分けるのがランダム化比較試験、ランダム化せず、自然の成り行きを観察していくのがコホート研究、どちらもアウトカムの発生率を暴露あり、なしと比較するため結果は相対指標(ハザード比などの相対リスク)で示すことが可能です

コホート研究の肝は暴露⇒疾患発生であり、観察の方向性は前向きです。たとえ後ろ向きコホートと言われるような研究でも、過去のデータから前向きに観察し、アウトカム発症を検討するため時間の流れは順行です。(後ろ向きコホート研究というネーミングがナンセンスです)

コホート研究の利点は暴露の有無から観察が始まるために暴露情報に関する妥当性の高さにあります。しかしながら、稀な疾患に対しては膨大な症例数と膨大な時間がかかるため事実上検討が難しい側面もあります。また慢性疾患など時間経過が長いものは途中で追跡不能例が出るなと、疾患発生情報の妥当性維持は困難と言えます。後ろ向きコホート研究では過去の資料を基に暴露情報を得るため、コホート研究のメリットである暴露情報の高い妥当性という面を失っている点にも注意が必要です。(したがって本来コホート研究は前向きコホート研究でこそ持ち味が発揮されると僕は考えていますが、コストや時間の面で効率が非常に優れた後ろ向きコホート研究は非常によく用いられる手法ではあります)

②症例対照研究
ケースコントロール研究とも言います。この研究の肝は以下の流れを把握するということ1点のみ。
①評価したいアウトカム(有害事象や疾患)を有する患者をまず集めてくる。=症例
②比較するための、アウトカムを有しない患者を集めてくる=対象
③症例と対照の各群が暴露の有無がどれほどだったか過去にさかのぼり調査
④得られた暴露の有無の情報から、疾患と暴露の関連性をオッズ比で示す

観察はまず、症例群と対照群の設定から始まるといことがこの研究方法の全てと言って過言ではないでしょう。ランダム化比較試験やコホート研究と全く異なるのがこの1点です。
そして各群の患者情報をもとに過去にさかのぼって暴露があるのかないのか調査します。したがって観察の向きは後ろ向き、疾患発生⇒暴露であり、時間の流れは逆行です。
ちなみに暴露割合を比較するため、ハザード比等のアウトカム発生率の相対指標を算出できません。代わりの相対指標としてこの研究ではオッズ比で示されます。
症例と対象はめちゃくちゃに選ばれるわけではありません。通常、同じ年齢、同じ性別の人を選んできます。これをマッチングと言います。

症例対照研究の利点はまず、低コスト、短時間での研究が可能なことに加え、疾患情報の妥当性に優れており(当たり前ですよね、すでに疾患が発生している人を「症例」として選んでいるわけですから)稀な疾患に対しても研究が行えるという点です。ただ暴露情報に関しては過去の資料を参照するためにその妥当性には欠けてしまいます。また相対指標はオッズ比で示されるため、リスク指標ではないことに注意が必要です。あくまで関連の強さを検討するということになります。

[交絡とは]
ランダム化比較試験において、2群間の背景因子を偏りなくそろえフェアな比較を可能にするがためのランダム化でした。観察研究ではランダム化ができません。そのためE群とC群の2群間に患者背景の偏りが生じてしまうのです。例えば年齢、性別だけではなく糖尿病や高血圧などの疾患保有割合、喫煙の有無、アルコール消費量、薬剤の使用などは、検討しようとしている疾患発生、あるいは有害事象等のアウトカムに影響を及ぼしかねません。交絡とはこのような暴露と疾病発生の関係の観察に影響を与え、真の関係とは異なった観察結果をもたらす、第3の因子と言えます。

例えば、ライターを所持している人は肺癌が多いという観察データがあったとして、ライター所持が肺癌の因果関係と言えるでしょうか。ライターを所持している人は喫煙者であることが多い、そのため喫煙が肺癌と関連しているのですが、見かけ上ライター所持が肺癌リスクを上昇させるのです。この場合ライターが交絡因子ということになります。

[外的妥当性と内的妥当性]
観察研究では交絡因子の影響をできる限り排除するため、統計解析において補正をかけるのが常です。論文には調整された交絡因子が結果の表の下などに列挙されていることが多いので、必ずチェックするようにします。ただ、調整できるのはあくまで既知の交絡因子のみであり、未知の交絡因子までは補正できません。その点ランダム化比較試験は未知の交絡因子まで均等に振り分けてしまうので、研究の「内的妥当性」に優れるなどと言われるのです。しかしながら、理想的な環境下、言い換えれば実験室での結果はしばしば現実世界とギャップがあります。その点観察研究は、人が実生活の中での自然史を観察していくので「外的妥当性」に優れているという面があります。

ランダム化比較試験、コホート研究、症例対照研究、いずれが劣るとも勝るとも僕は言えないと思います。各研究の長所と利点を熟知したうえで、その結果を使いこなすということの方が重要です。

[観察研究を10分で読むワークシート]
以下にワークシートを作成しましたのでご活用ください。




薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

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