[お知らせ]


2014年8月6日水曜日

平成26年度第5回薬剤師のジャーナルクラブの開催のお知らせ


本年度第5回抄読会を以下のとおり開催いたします!
ツイキャス配信日時:平成26824日(日曜日)
■午後2045分頃 仮配信
■午後2100分頃 本配信
なお配信時間は90分を予定しております。

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前回、溶連菌感染症についてメタ分析の論文を用いながら、その抗菌療法について考察していきました。平成26年度第4回薬剤師のジャーナルクラブの開催のお知らせ
その内容についてシナリオを振り返りながら少しまとめてみます。
症例11:溶連菌感染症に用いるべき抗菌薬とは?(713日配信)

[仮想症例シナリオ]
あなたは小児科の処方箋を受けることの多い保険薬局の薬局長です。どうやら、溶連菌の感染症が流行しており、本日も込み合っています。あなたの薬局に今年の4月新入社員として配属された薬剤師のAさんは、だいぶ業務にも慣れて、今月から服薬指導も担当しています。午前の外来が終わり、MRさんの対応を済ませたあなたは、休憩室へ入ると、Aさんが話しかけてきました。

「薬局長、ちょっと質問よろしいでしょうか!岩〇先生の、抗菌薬の〇え方〇い方、という本にはA群“溶連菌は100%ペニシリンに感受性がある”と書いてありまして、溶連菌に関してはペニシリン耐性を考慮しなくて良いと思っていました。今日の溶連菌感染症の患者さん、小児ではパセトシン細粒(アモキシシリン)でしたけど、成人ではバナン錠(セフポドキシム)が出ていましたよね、あれってどうなんですかね。小児とおなじく、パセトシン錠でよいと思うのですが…。3世代セフェムって吸収も悪いし、そもそもグラム陰性菌狙いじゃないですか。理論的に考えたら余計な抗菌スペクトルもあるし、確かに服用回数は少なくて済みますが、あまり良い選択だとは思えないんですけど…」

確かに成人の溶連菌感染症患者さんにはバナン錠が処方されていました。投与量は400mg/日分2と添付文書上の最大用量でした。吸収が悪いとはいえバナン錠のバイオアベイラビリティは50%1)と3世代セフェムの中では良い方であり、そもそもペニシリンで10日間治療しても除菌失敗による再発が15%2) あると知っていたあなたは、成人での溶連菌感染症において、バナン錠での治療効果がペニシリンとくらべてどの程度差があるものなのか、Aさんと一緒に調べてみました。

1)バナン®錠インタビューフォーム
2)感染症レジデントマニュアル第2版(2013医学書院)

[文献タイトル・出典]
Casey JR1, Pichichero ME. Meta-analysis of cephalosporins versus penicillin for treatment of group A streptococcal tonsillopharyngitis in adults.  Clin Infect Dis. 2004 Jun 1;38(11):1526-34. Epub 2004 May 11. PMID: 15156437

感染症の教科書、あるいは感染症の著明な先生方の言葉を借りれば、やはり溶連菌感染症に抗菌薬を用いるとするならばペニシリン系薬剤が第一選択であろうということが、いわゆる感染症を学んだ薬剤師の「常識」に登録されている事はまず大きな間違えではないかと思います。しかしながら現実には3世代セフェムやペネムみたいな抗菌薬が出ていたりすることも多いわけですが、そのような処方を見て僕ら薬剤師は「う~ん、これは抗菌薬の選択としてどうなんだろう」みたいなことで悩むわけですよね。(僕だけでしょうか…)ただ外来処方においては、疑義がない限り、薬剤師は処方箋と言う“文脈”の延長線上でしか臨床判断することが難しい。この場合も、疑義に該当するかもしれませんが、患者個別の状況を考慮すれば、明らかな疑義とは言いにくい…(先生の診療の邪魔だよなぁ…)なんてことを毎日しているわけです。

[文脈依存型エビデンス解釈]
前回の議論の中で治療効果と耐性菌リスクという2項対立の関係が見えてくるのはやはり予想通りでした。治療効果が優れていると言ってもその差がそれほど大きいものではない、ブロードなスペクトルを持つ3世代セフェムではペニシリンに比べて抗菌薬使用の“原則”から逸脱する。そういったことが議論の根底にあったような気がします。極端なこと言えば“まあそんなこと言ったらそもそも抗菌薬が不要な風邪に3世代セフェムやマクロライドといったブロードな抗菌薬はあふれんばかりに処方されている現状があるのに、なぜに溶連菌だけは3世代セフェム出しちゃあかんの?”みたいな意見もありかもしれませんよね。(ただの屁理屈ですけど、もし僕がど素人だったらそう思いますよ絶対!)要するになにが言いたいかと言えば、抗菌薬使用の原則、あるいは抗菌薬の適正使用という文脈に依存した論文解釈がなされていたという構造が見え隠れします。まあ当たり前と言えば当たり前ですし、それが正しいとか正しくないとか、そういったことではなく、ここで強調したいのは感染症治療に関わらず、論文の結果をフラットに読んでいるつもりでも実は多くの文脈に依存しているという事が明らかとなっています。(抗菌薬適正使用が悪いとかそういう事じゃないですよ、誤解なきように)むしろ感染症治療に関する知識のない人の方がフラットな思考ができていたのではないでしょうか。(僕は全て中途半端なので、頭の中はただのカオス状態ではあります)

そもそもEBMとはエビデンス、患者の状況や環境、患者の思い、医療者の臨床経験の4つ要素を考慮すべきとされてきたものの、一方でEBMはエビデンス至上主義という歴史的にもそういった誤解を常に受けてきました。いまだにEBM=エビデンスというような誤解は多く存在しますが、そのためにEBM普及においてエビデンスは判断材料の一つに過ぎず、他の要素を十分に考慮することこそ肝要であると強調し続けてきたわけです。

その結果、どういったことが起きたのか、まあ実はあまり多くのことが変わらなかったという事が今となっては明確です。(相も変わらずDPP4阻害薬は投与され続け、ただの風邪に抗菌薬は処方され続けています)これは僕自身の問題でもあります。先ほど述べたとおり、薬剤師が関わる医療は処方箋や医師の治療方針という「文脈」上に存在し、それを正当化する方向で思考しやすい、という事が言えるのではないでしょうか。また著明な先生がこういっている、ガイドラインにはこう記載されている、社会常識はこうだ、そういったstandardを踏襲するというようなことが実際は多くされており、患者個別の状況を考慮せよなんて言っても実はごくごく一般的な文脈に引きずられていることが往々にしてあるという事に気づきました。

そもそも患者の価値観とか、個別の状況ってなんでしょうか。文脈とはすなわち、その個々個人が所属する「社会合意」に依存する傾向が強いという事が言えると思います。いわゆる「常識」ってやつです。患者の価値観とは患者が所属する社会、共同体の価値観に他なりません。そして文脈に振り回された結果何も変わらなかったということが浮き彫りとなってきます。治療をするかしないかは患者個別の状況によるという思考とエビデンスの結果を切り離して、もっと自由に思考するという事が必要になってくるのではないかと思います。

まとめると、今までのEBMはエビデンスというものが、きわめて文脈依存的であり、人それぞれによって見方が大きく異なるという思考を大事にしてきました。しかしながら人の認識とはおおよそ誰にとっても同一に見えるようないわゆる「エビデンス」よりむしろ自分にとってだけの「意味」の方が重視されるという事に気づくことで、EBMの実践とはいえ結局のところ、個人の文脈(=欲望)が重視されてきたのではないかみたいなところに行き着くのです。

EBM=エビデンス至上主義は誤解である、むしろ患者個別の状況は重要、そしてエビデンスは判断材料の一部でしかないみたいなところから、エビデンスをコンテキストから切り離せ、という流れの中で、僕自身のEBMはカオスの中にあります。

まあ、抗菌薬の適正使用とエビデンスの結果において、この概念が直接リンクするかどうか、という事に関して僕の思考が未熟なため、いまだ構造が見えてこないわけで、もうわけのわからないところまで来てしまった感じですが、結局のところ溶連菌治療に用いるべき抗菌薬は、という問題に答えが出たようで、でていないような、まさにカオス。「抗菌薬の適正使用の観点から、こういった論文はあるけれどもやはりペニシリンを使う」というのは、それなら最初から論文を読まなくても答えが出ているわけで、このテーマをここで終わらすのは少しもったいない。そう思いませんか??僕はもう少し皆さんと考えてみたい、この混沌とした中で、あらためて文脈に依存しないエビデンスの考え方使い方を議論したい、と言うわけで、少々強引ですが、今回も「溶連菌感染症に用いるべき抗菌薬とは?」をテーマにメタ分析を読んでみましょう!

症例12:溶連菌感染症に用いるべき抗菌薬とは?②

[仮想症例シナリオ]
あなたは小児科の処方箋を受けることの多い保険薬局の薬局長です。どうやら、溶連菌の感染症が流行しており、本日も込み合っています。あなたの薬局に今年の4月新入社員として配属された薬剤師のAさんは、だいぶ業務にも慣れて、今月から服薬指導も担当しています。午前の外来が終わり、MRさんの対応を済ませたあなたは、休憩室へ入ると、Aさんが話しかけてきました。

「薬局長、ちょっと質問よろしいでしょうか!岩〇先生の、抗菌薬の〇え方〇い方、という本にはA群“溶連菌は100%ペニシリンに感受性がある”と書いてありまして、溶連菌に関してはペニシリン耐性を考慮しなくて良いと思っていました。今日の溶連菌感染症の患者さん、小児ではパセトシン細粒(アモキシシリン)でしたけど、成人ではバナン錠(セフポドキシム)が出ていましたよね、あれってどうなんですかね。小児とおなじく、パセトシン錠でよいと思うのですが…。3世代セフェムって吸収も悪いし、そもそもグラム陰性菌狙いじゃないですか。理論的に考えたら余計な抗菌スペクトルもあるし、確かに服用回数は少なくて済みますが、あまり良い選択だとは思えないんですけど…」

確かに成人の溶連菌感染症患者さんにはバナン錠が処方されていました。投与量は400mg/日分2と添付文書上の最大用量でした。吸収が悪いとはいえバナン錠のバイオアベイラビリティは501)3世代セフェムの中では良い方であり、そもそもペニシリンで10日間治療しても除菌失敗による再発が152) あると知っていたあなたは、成人での溶連菌感染症において、バナン錠での治療効果がペニシリンとくらべてどの程度差があるものなのか、Aさんと一緒にClin Infect Dis. 2004 Jun 1;38(11):1526-34. Epub 2004 May 11. PMID: 15156437を読んだところ、結局のところ、どちらが良いのか結論が出ませんでした。

このテーマは2人で共有するだけではもったいないと思い、Aさんは5店舗が集まるエリア会議の中で時間を少しもらい、このテーマに関するもう一つの論文を複数の薬剤師とともに読んでみながら、溶連菌治療に用いる抗菌薬はいったいどれを用いることが妥当なのか、議論してみることにしました。

1)バナン®錠インタビューフォーム
2)感染症レジデントマニュアル第2版(2013医学書院)

[文献タイトル・出典]
Different antibiotic treatments for group A streptococcal pharyngitis. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Apr 30;4:CD004406  PMID: 23633318
Cochrane

[はじめてのコクラン]
さて論文フルテキスト73ページという、これはもう論文と言うよりも一つの教科書みたいなやつが出てきました。コクランシステマテックレビューと言われるやつです。
このレビューを作成しているコクラン共同計画は,ヘルスケアの介入の有効性に関するシステマティック・レビューを“作り”(prepare),“手入れし”(maintain),“アクセス性を高める”(promote the accessibility)ことによって,人々がヘルスケアの情報を知り判断することに役立つことを目指す国際プロジェクトです。コクラン共同計画は、英国の医師で疫学者であるアーチボルド・コクラン(Archiebald Cochrane, 19091988)の提唱に答えるような形で、1992年にイギリスの国民保健サービス(National Health Service: NHS)の一環として始まり、治療、予防に関する医療テクノロジーアセスメントのプロジェクトです。ランダム化比較試験を中心に、世界中の臨床試験のシステマティック・レビューを行い、その結果を、医療関係者や医療政策決定者、さらには消費者に届け、合理的な意思決定に供することを目的としています。
まあ理屈はどうあれ、73ページの論文はJJCLIPでは初めて取り扱いますが、基本的には前回のメタ分析の読み方で読み進めていけば全く問題ありません。73ページ恐れるべからずです!是非一緒に挑戦してみましょう!


薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

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