[お知らせ]


2014年7月17日木曜日

リウマチに対する生物学的製剤②

前回(リウマチに対する生物学的製剤)の続きです。前回は主にリウマチに対する生物学的製剤の有効性・安全性についての全体像を考察してきました。この10年間でリウマチの薬物治療は劇的に変わったように思いますが、生物学的製剤のコストは非常に高く、経済的に恵まれている人ならともかく、今後高価な生物学的製剤の開発が進めば、リウマチ治療において受けられる薬物治療に格差が生じてしまう気もします。
高価な生物学的製剤、感染症などの有害事象リスクはあるものの、メトトレキサートとの併用で臨床症状、骨破壊抑制効果、いずれもメトトレキサート単独に比して優れている薬剤と言えましょう。臨床的あるいは構造的寛解も期待できうる薬剤なわけですが、問題なのはそれをいつまで投与し続けるのかという事です。薬価が段違いで高いだけにこの問題はかなりの深刻性を有しています。

[寛解基準を満たした場合に生物学的製剤は休薬できるのか]

一定の寛解基準を満たした場合、休薬しても再燃は無いのでしょうか。日本発の症例検討が報告されています。

Discontinuation of adalimumab after achieving remission in patients with established rheumatoid arthritis: 1-year outcome of the HONOR study. Ann Rheum Dis. 2013 Nov 28PMID: 24288014

アダリムマブとメトトレキサートによる治療によりNSAIDsやステロイドの使用なしで12週以上の安定したメトトレキサート投与量下において6ヶ月間DAS28-4ESR2.6を維持した患者75人(平均60.2歳、女性59例)を対象にアダリブマブ休薬の承認が取れたアダリムマブ休薬群52例と承認が取れなかったアダリムマブ継続群23例を検討しています。当然ながらランダム化比較試験ではありません。投与継続群の患者は治療に何らかの不安があり継続を希望した可能性があります。1年後のDAS28の各維持割合は以下の通りです。

1年後のDAS28維持
ADA中止群
ADA継続群
P
DAS283.2(低活動性)
62
91
P = 0.0122
DAS282.6(臨床的寛解)
48
83
P0.0056

アダリムマブ中止群52例のうち
DAS283.2(低活動性)を維持できた患者31例では1年後
・機能的寛解(HAQ-DI0.5)維持:94
・構造的寛解(ΔmTSS0.5)維持:100

DAS283.2(再燃)した患者21例では1年後
・機能的寛解HAQ-DI維持:76%⇒57%(スコア0.300.57 P=0.0018
・構造的寛解ΔmTSS維持:100%⇒83%(スコア‐0.740.85 P=0.0431

アダリムマブ継続群23例では1年後
DAS283.2(低活動性)を維持できた患者21
DAS283.2(再燃)した患者2

寛解基準を満たしたあと、アダリムマブを継続しても1年後に8%は臨床的再燃を起こしているという結果も目を引きますが、投与中止後、臨床的寛解を1年維持できるのは半分に満たないという結果でした。しかしながら6割は低活動性を維持できており、そのうち構造的寛解は全例で維持できているという結果で、低活動状態さえ維持できれば骨破壊進展を休薬後も抑制できるかもしれません。ただランダム化比較試験ではないことや盲検化がなされていないことなどを考慮すればやはり、結果は割り引いて考えるべきで、1年後の再燃は決して少なくない印象です。

ちなみにインフリキシマブの投与中止においては102例の解析で1年間後も低疾患活動性DAS283.2を維持していたのは55%、DAS282.6を維持していたのは43% と言う結果でほぼ同様となっています。

Discontinuation of infliximab after attaining low disease activity in patients with rheumatoid arthritis: RRR (remission induction by Remicade in RA) study. Ann Rheum Dis. 2010 Jul;69(7):1286-91 PMID: 20360136

[さまざまな生物学的製剤、どれも効果は同じなのでしょうか]

リウマチに対する生物学的製剤はメトトレキサートに比べても併用により臨床改善効果、骨破壊抑制効果に優れていることは前回も考察したとおりですが、生物学的薬剤どうしに差は無いのでしょうか。アダリムマブとアバタセプトのHead-to-head試験が行われています。

Head-to-head comparison of subcutaneous abatacept versus adalimumab for rheumatoid arthritis: findings of a phase IIIb, multinational, prospective, randomized study. Arthritis Rheum. 2013 Jan;65(1):28-38PMID: 23169319

(論文の妥当性)
[Patient]
少なくとも18歳以上でメトトレキサート単独で効果が得られず生物学的製剤を受けていない罹病期間5年以下のリウマチ患者646人(平均51.2歳、女性81.8%、平均罹病期間1.8年)
[Exposure]
アバタセプト125mg1回投与+MTX318
[Comparison]
アダリムマブ40mg隔週投与群+MTX328
Outcome
ACR20(臨床症状緩和)
研究デザイン
ランダム化比較試験(非劣性試験)
非劣性マージン:4.7% (12%,2.6%)
ランダム化さているか?
されている
患者背景は同等か?
ほぼ同等
サンプルサイズは?
sample size of 648 patients
ランダム化は最終解析まで維持されているか?
E86.2%C82%が試験を完遂
intent-to-treat (ITT) population
盲検化されているか?
評価者にマスキング
追跡期間は?
1

(プライマリアウトカムの結果)
アウトカム
アバタセプト
アダリムマブ
estimated difference
ACR20
64.8%
63.4%
1.8% 5.6%9.2%)]非劣性

有効性は非劣性という事で大きな差はありませんでした。

直悦比較ではありませんが、ネットワークメタ分析で各薬剤間を間接比較している報告があります。

Systematic review and network meta-analysis of combination and monotherapy treatments in disease-modifying antirheumatic drug-experienced patients with rheumatoid arthritis: analysis of American College of Rheumatology criteria scores 20, 50, and 70. Biologics. 2012;6:429-64. PMID: 23269860

12週から30週のフォローアップにおけるFixed effectモデルによるACR20ACR50ACR70DMARDと比較したオッズ比は以下の通りです。


ACR20
OR v DMARD
患者割合[95CI
DMARD
29.3% (24.9%, 34%)
ABA 10 mg/kg/4 weeks + DMARD
3.288 (2.597, 4.18)
57.6% (49.5%, 65.3%)
ADA 40 mg/2 weeks + DMARD
3.514 (2.65, 4.684)
59.3% (50.5%, 67.6%)
CZP 200 mg/2 weeks + DMARD
10.69 (7.383, 15.69)
81.6% (74.2%, 87.4%)
ETN 2 × 25 mg/week + DMARD
8.917 (5.25, 15.53)
78.7% (67.5%, 87%)
GOL 50 mg/4 weeks + DMARD
3.508 (2.18, 5.735)
59.2% (46.2%, 71.3%)
INF 3 mg/kg/8 weeks + DMARD
3.364 (2.71, 4.175)
58.2% (50.5%, 65.4%)
RTX 2 × 1000 mg + DMARD
3.592 (2.378, 5.47)
59.8% (48.3%, 70.5%)
TOC 8 mg/kg/4 weeks +
4.497 (3.619, 5.61)
65% (57.8%, 71.7%)

ACR50
OR v DMARD
患者割合[95CI
DMARD
12% (9.4%, 15.1%)
ABA 10 mg/kg/4 weeks + DMARD
3.57 (2.718, 4.727)
32.7% (24.9%, 41.9%)
ADA 40 mg/2 weeks + DMARD
3.899 (2.831, 5.446)
34.7% (25.9%, 44.9%)
CZP 200 mg/2 weeks + DMARD
9.013 (5.636, 14.94)
55.1% (41.7%, 68.5%)
ETN 2 × 25 mg/week + DMARD
10.22 (5.28, 22.3)
58.3% (40.5%, 76%)
GOL 50 mg/4 weeks + DMARD
4.532 (2.521, 8.237)
38.2% (24.5%, 54.3%)
INF 3 mg/kg/8 weeks + DMARD
3.538 (2.724, 4.612)
32.5% (24.9%, 41.2%)
RTX 2 × 1000 mg + DMARD
3.851 (2.28, 6.819)
34.3% (22.5%, 49.6%)
TOC 8 mg/kg/4 weeks +
5.838 (4.425, 7.773)
44.3% (35%, 54%)

ACR70
OR v DMARD
患者割合[95CI
DMARD
4.7% (3.3%, 6.5%)
ABA 10 mg/kg/4 weeks + DMARD
3.524 (2.435, 5.213)
14.7% (9.4%, 22.6%)
ADA 40 mg/2 weeks + DMARD
3.963 (2.513, 6.5)
16.3% (9.8%, 26.2%)
CZP 200 mg/2 weeks + DMARD
11.43 (5.472, 27.86)
35.9% (19.8%, 59%)
ETN 2 × 25 mg/week + DMARD
18.99 (5.098, 130.6)
48.3% (19.4%, 86.6%)
GOL 50 mg/4 weeks + DMARD
4.73 (2.069, 12.2)
18.9% (8.6%, 39%)
INF 3 mg/kg/8 weeks + DMARD
3.549 (2.479, 5.133)
14.8% (9.5%, 22.4%)
RTX 2 × 1000 mg + DMARD
2.399 (1.168, 5.272)
10.6% (5%, 21.8%)
TOC 8 mg/kg/4 weeks +
7.991 (5.211, 12.79)
28.2% (18.4%, 41.2%)
ABA:アバタセプト、ADA,:アダリブマブ、CZP,:セトリズマブ・ペゴルDMARD:メトトレキサート or sulfasalazine ETN:エタネルセプト、 GOL:ゴリムマブ 、INF:インフリキシマブ、 TOC:トシリズマブ RTXリツキシマブ

この文献はあくまで間接比較なので、情報としては参考程度ですが、エタネルセプト、トシリズマブ、セトリズマブ・ペゴの臨床改善が他の生物学的製剤に比べて優れている可能性が示唆されています。アダリムマブ、アバタセプトに関してはやはり大きな差は見られません。

[生物学的製剤のまとめ②]

■薬剤投与中止に関しては、おおむね以下のデータが参考になります。
Ann Rheum Dis. 2013 Nov 28 PMID: 24288014
Ann Rheum Dis. 2010 Jul;69(7):1286-91 PMID: 20360136
薬剤名
1年後の
低活動性維持割合
1年後の
臨床寛解維持割合
インフリキシマブ
55
43
アダリムマブ
62
48
そのうえで低活動性さえ維持できれば1年間においては構造的寛解も高率で維持できる可能性があります。ただし再燃すれば構造的寛解に関するスコアも悪化します。現段階で検討できるデータから考察すれば、投与中止例の半分は寛解を維持できず再燃する可能性があります。

生物学的製剤の有効性に関しては概ね以下のデータを参考にすると良いかもしれません。
DMARDに対するオッズ比(Biologics. 2012;6:429-64
薬剤名
ACR20
(症状緩和)
ACR50
ACR70
(著明臨床反応)
DMARD
reference
reference
reference
アバタセプト
3.288
3.57
3.524
アダリムマブ
3.514
3.899
3.963
セトリズマブ
10.69
9.013
11.43
エタネルセプト
8.917
10.22
18.99
ゴリムマブ
3.508
4.532
4.73
インフリキシマブ
3.364
3.538
3.549
トシリズマブ
4.497
5.838
7.991

あくまで間接比較なので過小評価した方が無難です。