[お知らせ]


2014年4月17日木曜日

ベンゾジアゼピン系薬剤の常用量依存とその離脱について

「注意:以下の内容は医療従事者向けに発信しています。現在治療中の患者様において、患者様自己判断での治療中止、薬剤服用中止の根拠やその治療方法を示しているわけではありません。」

ベンゾジアゼピン系薬剤は長期間の使用で常用依存を起こすといわれています。本邦でも非常に高頻度に処方されているエチゾラムの添付文書には以下のような記載があります。
「薬物依存を生じることがあるので,観察を十分に行い,慎重に投与すること.また,投与量の急激な減少ないし投与の中止により,痙攣発作,せん妄,振戦,不眠,不安,幻覚,妄想等の離脱症状があらわれることがあるので,投与を中止する場合には,徐々に減量するなど慎重に行うこと」

どのくらいの期間で依存が生じてしまうのか、3週間程度で依存が形成されてしまうという症例もあるようですが、おおよそ8か月間の使用で依存が形成されている可能性が高いと言われています。
Long-term diazepam therapy and clinical outcome
しかしながら、本邦における病院外来処方データから常用量依存を形成する可能性が高いと考えられる8か月以上の使用が最も多いとする日本の報告が存在します。
Triazolamの常用量依存 

医療従事者への教育的介入もベンゾジアゼピン系薬剤使用量の削減にあまり効果的ではないかもしれません。
Educating physicians to reduce benzodiazepine use by elderly patients: a randomized controlled trial.

ベンゾジアゼピン系薬剤の長期投与がだめだというわけでは決してありません。状況に応じて必要となるケースは多いかと思いますし、それで患者さんが救われることも多いでしょう。ただ経験的には不必要な漫然長期投与も確かに存在します。

[ベンゾジアゼピン系薬剤のリスク]

特に嚥下機能の低下した高齢者では、ベンゾジアゼピン系薬剤のような向精神薬で薬剤性嚥下障害をきたす可能性が示唆されています。
向精神薬による薬剤性嚥下障害例の検討

症例
男性9, 女性6例の計15例。平均65.6歳。(原疾患:うつ病が10例と最多、非定型精神病, 身体表現性障害, アルコール依存症)全例にベンゾジアゼピン催眠鎮静薬, 抗うつ薬, 抗精神病薬などを1種類以上投与。6例では嚥下性肺炎の既往。
症状
嚥下造影検査では多くの例で咽頭クリアランスが低下
8例で明らかな誤嚥
疑われた
有害事象
向精神薬の影響が考えられる
口腔期および咽頭期嚥下障害
その後の経過
投与薬剤の減量や変更が行えた症例では,
 嚥下機能の改善が得られた.

このほかにもベンゾジアゼピンには骨折・転倒リスク、認知機能への悪影響や肺炎リスクなどがありますが、死亡リスクとの関連も指摘されています。
Hypnotics' association with mortality or cancer: a matched cohort study
Effect of anxiolytic and hypnotic drug prescriptions on mortality hazards: retrospective cohort s tudy

[高齢者へのベンゾジアゼピン系薬剤減量のための教育的介入]

The American Board of Internal Medicine Foundation Choosing Wisely Campaignでは 65歳以上の高齢者へのベンゾジアゼピン系薬剤は投与しないことを推奨していますが、地域在住高齢者を対象としたベンゾジアゼピン治療中止に関する直接教育的介入と通常のケアを比較検討したクラスターランダム化比較試験が最近報告されました。
Reduction of Inappropriate Benzodiazepine Prescriptions Among Older Adults Through Direct Patient Education The EMPOWER Cluster Randomized Trial

[Patient]
長期間ベンゾジアゼピン系薬剤を使用している65-95歳の地域在住高齢者303例(30の薬局施設)
[Exposure]
ベンゾジアゼピン治療中止に関する直接教育的介入(ベンゾジアゼピン使用に関するリスク等)15クラスター148
[Comparison]
ベンゾジアゼピン治療中止に関する通常のケア
15クラスター155
Outcome
6か月後のベンゾジアゼピン中止(薬局処方記録より)
研究デザイン
クラスターランダム化比較試験
ランダム化さているか?
30施設のクラスターランダム化
患者背景は同等か?
抄録に記載なし
盲検化されているか?
参加者、医師、薬剤師、評価者はアウトカム評価に関して盲検化(PROBE
サンプルサイズは十分か?
抄録に記載なし
ランダム化は最終解析
まで保持されているか?
261 participants (86%) completed
追跡期間は?
6か月

結果は以下のようになっています。
アウトカム
E
教育介入
C
通常ケア
リスク差
95%信頼区間]
NNT
ベンゾジアゼピン中止
27%
5%
23% [14-32]
4
良さそうな結果ですが、多変量サブ解析にて、80歳超、性別、使用期間、使用適応、投与量、減量介入の既往、多剤同時服用(10種以上/日)では、ベンゾジアゼピン治療中断について明確な介入効果をもたらさなかったとしています。クラスター数もそれほど多いものではないので、実際の効果については議論のよりがあるかと思います。また抄録からでは介入の詳細についてはよくわかりません。

[ベンゾジアゼピン系薬剤離脱プログラムの一例]
ベンゾジアゼピン系薬剤の減量や中止による不都合(離脱症状など)については個人差が大きく以下の方法はあくまで一臨床報告という視点で見ていただけたら幸いです。このような離脱プログラムは症例個別の検討が重要です。

Analysis of benzodiazepine withdrawal program managed by primary care nurses in Spain
[対象患者]
6か月以上(平均4.15年)ベンゾジアゼピン系薬剤を使用している44歳以上の51人(喫煙25.5%、飲酒3.9%、精神系薬剤の使用なし82%、不眠症50%、不安神経症20%、うつ病10%、その他20%)
[使用BZD]
ロラゼパム1mg(=ジアゼパム換算1)、フルラゼパム30mg1人)ゾピクロン7.5mg1人)ゾルピデム10mg2人)ジアゼパム5mg4人)アルプラゾラム0.5mg2人)ロルメタゼパム0.5mg2人)ロルメタゼパム1mg2人)テトラゼパム50mg1人:本邦未承認)及びそれらの併用
[介入方法]
2から4週毎にベンゾジアゼピン系薬剤の用量を25%ずつ減量していく。ヒドロキシジン25mg/日や市販のバレリアンを補助的に使用。
[評価項目]
ベンゾジアゼピン系薬剤使用からの離脱
研究デザイン
投与前後比較の臨床試験

結果を整理すると以下のようになっています。
▶ベンゾジアゼピン離脱失敗:10人(そのうち3人が用量の減量に成功。7人がプログラム除外)
▶ベンゾジアゼピン離脱成功:4280.4%(そのうち64%が1年間離脱を維持)
▶うつ症状スコアやQOLスコアの改善も統計的有意にみられた。

重度の不眠やうつなどがないベンゾジアゼピン系薬剤1剤を4年程度服用している患者へのベンゾジアゼピン離脱として24週毎に25%ずつ減量、ヒドロキシジン(アタラックス®)を補助的に使用と言うのは目安になるかと思います。ベンゾジアゼピン系薬剤離脱には長期間作用型ベンゾジアゼピン系薬剤への置換など、様々な手法がありますが、以下のブログに離脱の一例が詳細にまとまっており大変参考になります。

もなかのさいちゅう:ベンゾジアゼピン系をやめるには?

[ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱に関するポイント]
▶ベンゾジアゼピン系薬剤は短期間で常用量依存を形成するケースもあるが概ね8か月以上の長期間投与は依存を起こしている可能性が高い。
▶本邦では8か月以上の処方は稀な事ではなく、むしろ多い可能性がある。
▶高齢者でなければ患者への教育的介入によりベンゾジアゼピン系薬剤を減量させることができるかもしれない。ただし多剤併用などの状況では難しい可能性が高い。
▶高齢者では遅くとも半年を目安に離脱を試みることで、減量が可能となる確率が高いかもしれない。その際には4週ごとに25%減量。合わせてヒドロキシジンによる補助的な治療を試みると良いかもしれない。

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