[お知らせ]


2014年3月24日月曜日

多面的に評価しながら実践するEBM~第7回薬剤師のジャーナルクラブを終えて~

薬剤師のジャーナルクラブ第7回放送が無事終了いたしました。ご視聴いただきました皆様、ありがとうございました。

[ランダム化についてのまとめ]
今回の論文は今まで扱ってきたランダム化比較試験論文と比べても症例数が100人以下とかなり小規模のスタディですね。実約群とプラセボ群に参加者を分けるときに、その患者背景の偏りを防ぐためにランダム化を行うわけですが、症例数が少ないとランダムに分けたとしても偶然背景因子が偏る確率が高くなります。例えば、1000人の患者さんを500人ずつランダムに2群に分ければおおよそ2群間で男女の比率に大きな差は無いと考えやすくなりますが、10人をランダムに2群に分けた場合はどうでしょうか。1つの群に女性が5人中4人、もう一方の群には5人中1人だけ、なんてこともあり得ますよね。症例数が少ない場合はランダム化を工夫する必要があります。

5回ジャーナルクラブではクラスターランダム化、という手法も出てきました。僕自身ランダム化の手法について勉強不足でしたので、ここで改めてまとめておきたいと思います。まずランダム割り付けにはヒト個人を割り付ける手法とヒトの集合を割り付ける方法の2つがあり、ヒト個人を割り付ける方法には4タイプがあります。

■個人をランダムに割り付ける手法
①均等ランダム割り付け
②ブロックランダム割り付け
③層化ランダム割り付け
④不均等ランダム割り付け
■人の集合をランダムに割り付ける手法(クラスターランダム割り付け)

[ヒト個人をランダムに割り付ける方法]
①均等ランダム割り付け
これは通常、良く用いられる手法で、一般的にランダム化と言えばこれを指しているとかんがえて良いかと思います。各群に同数の患者を割り付けるもので症例数がある程度の規模があれば、背景因子を均等に分けることができ、統計学的検出力が最も大きくなる割り付け方法です。
②ブロックランダム割り付け
症例数が少ない臨床研究で用いられることが多いです。研究実施施設をブロックと見立てて、各ブロック別に集めるサンプル数(ブロックサイズ;通常4人~6人)を決め、各ブロック内で各研究群に同数の患者を割り付ける方法です。
例えばブロックサイズが4人でAB群に割り付ける場合、通常にランダム化してしまうと全員A群=AAAA、あるいは全員B群=BBBBという割り付けが生じてしまうことがあり、これでは研究できません。ブロックサイズ4人で行うブロックランダム割り付けではAABBABAB,BABAABBABAABBBAAという6通りの順列をあらかじめ決めておき、この順列をどのブロック(施設)に当てはめるかをランダムに決めます。被験者はどのブロック(施設)に所属するかが決定した時点で、該当ブロックに割り当てられた順列に従いA群かB群に振り分けられていきます。

[ブロックサイズが4人のブロックランダム化]
A群、B群が同数になる組み合わせ順列(AABBABAB,BABAABBABAABBBAA)をランダムにブロック(研究施設)に割り付ける
▶被験者は配属先の施設に割り当てられた順列に従いA群かB群に割り付けられる
メリット:A群とB群で人数が均等に振り分けられる。
※小規模研究のみに用いられます。

③層化ランダム割り付け
既に分かっている予後要因を2群間で等しくするために要因別であらかじめ層別化し、各層でランダム割り付けを行う方法です。例えば男女の違いで明らかに予後が異なる場合、男性、女性という2つの層にあらかじめ分けておいて、男性層、女性層でそれぞれランダム化を行います。この層化ランダム割り付けを行う場合は、サンプル数が小さく、かつ予後に強い影響を与える既知の要因が存在する場合などに限られます。

④不均等ランダム割り付け
基本的に均等ランダム割り付けと同じですが、均等ランダム割り付けは2群間で同数の被験者を振り分けるのに対して、不均等割り付けでは2:1など、2群間で不均等な人数に割り付けます。治療群:対照群で2:1という割り付けを行うと、被験者が治療に参加できる確率が高くなりますよね。試験参加意欲の向上というメリットがあります。せっかく治験に参加するのであれば、やはりプラセボ群よりも実薬群に割り付けられたいと考えることも多いですよね。また実約群の症例サンプルが大きくなると副作用の検出が高まり有害事象の解析に有利になることがあります。ただ統計的パワーが減少したり、均衡の原則を損なう恐れがあるため、特別な理由のない限り均等ランダム割り付けを用いるべきだといわれています。

[ヒトの集合をランダムに割り付ける手法(クラスターランダム割り付け)]
クラスターランダム化は第5回ジャーナルクラブで少し取り上げました。個人単位ではなく、診療所単位、施設単位、学校単位など、ヒトの集合単位で割り付けを行います。クラスターランダム化には以下のような利点があります
①個人単位を割り付けるよりも容易でコストが低く抑えられる
②個人単位で割り付ける場合インフォームドコンセントを割り付ける前に全て行う必要があるが、クラスターランダム化ではクラスターを割り付けた後でもインフォームドコンセントをとることができ、作業が効率的
③コントロール群が介入に暴露される可能性を減らすことができる。例えば学校内で介入群とコントロール群に分けた場合、学生同士の接触が、介入内容を共有させ、結果的にコントロールに割り付けられた学生も介入にさらされてしまうような事態が発生してしまいます。学校単位で介入、コントロールを割り付けていればこのような事態の発生は防ぐことが可能です。
④十分な量のクラスターがないとベースラインの同等性が保たれなくなってしまいます。したがって症例数は膨大なものとなり、また統計解析もやや特殊な手法(個人間の相関)を用いなければいけない等のデメリットがあります。

[花粉症の真のアウトカム]
花粉症の真のアウトカムというのは今回のメインテーマです。主観症状がメインとなってきますから、たとえば高血圧のように、血圧=代用のアウトカム、脳卒中あるいは死亡=真のアウトカムという感じで区別することが難しいように思えますね。花粉症治療のアウトカムをあげてみましょう

まず良く目にするのがRQLQスコアだと思います。日本版はこちらです。日本アレルギー性鼻炎標準QOL調査票また花粉症はアレルギーですので、血清IgE値などの免疫反応を検討したものもあります。IgE等の値は明らかに代用のアウトカムと言えそうです。そうなるとやはり、花粉症の検討には症状スコアというものが、真のアウトカムに近いように思えますね。ただ重要なのはあくまで数値化されたデータを見ているにすぎないということです。死亡率などの発症率は臨床的にもインパクトがありますが、症状スコアは患者の主観情報を数値化したもので、それは実臨床での差異を具体的に示したものではないということです。

今回の論文のアウトカムは鼻水、鼻閉、くしゃみ、鼻の掻痒感の4鼻症状スコア変化(4ポイントスケール、スコアが高いほど症状悪化)曲線下面積(AUC)でした。スコア変化の差を比較したわけでもなく、さらに良くわからないアウトカムとなっています。このアウトカムがプラセボ群と比べて有意に差があるというのがいったいどれほどの意味なのか、患者個別に考える必要がありそうです。

[有効かもしれないという先入意識]
実際のところ、ステロイド点鼻薬は経口抗ヒスタミン薬よりも花粉症症状を有意に改善することが報告されています。
BMJ. 1998 Dec 12;317(7173):1624-9.[PMID:9848901]
また経口抗ヒスタミン薬とステロイド点鼻を併用してもステロイド点鼻単独と比べて症状改善に大きな差はないということも報告されています
Allergy Asthma Proc.2006May-Jun;27(3):248-53.[PMID:16913269]
Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Mar;100(3):264-71[PMID:18426147]
さらにステロイド点鼻には目のかゆみにも効果が期待できるとする報告があります
J Allergy Clin Immunol. 2010 Jun;125(6):1247-1253[PMID:20434199]
Allergy. 2011 May;66(5):686-93[PMID:21261661]
Ann Allergy Asthma Immunol. 2008 Mar;100(3):272-9[PMID:18434976]
このような背景知識があると、どうもステロイド点鼻がかなり効果的であるという先入意識が働きます。どのような状況においても、こういったエビデンスがあるので、こちらの方が効果があるという観点から新しい論文を読んでも、その前後でプラクティスが変わらないという事態が起こりえます。背景知識に、新たな情報を付け加えることで、ベイズ的に論文を評価すると言うことも僕は大事だと思いますが、ここでもう一つ、多面的に評価するという視点を付け加えたい、というのが今回強調したいところです。まずはステロイドを使用しようがしまいが、どちらでもいい、という観点からもう一度、頭の中をニュートラルにして論文を読んでみることをお薦めします。

[EBMに必要な臨床医学論文とは]
今回の論文はオープンラベルの小規模トライアルで、しかもアウトカムの妥当性も良くわからないエビデンスです。しかしながら実臨床の臨床疑問でいざエビデンスを調べてみると、大規模トライアルのような質の高いランダム化比較試験が見つかることの方が稀です。妥当なエビデンスがないからEBMなんてできない、というのは大きな誤りです。症例報告しかなくても、自身の臨床経験や、患者の思い・環境を合わせ、症例報告1つでも活用するのがEBMです。

EBMは根拠に基づく医療といわれていますが、大規模臨床試験、質の高いランダム化比較試験というエビデンスの権威に基づく医療はEBMではありません。エビデンスがないならないなりに思考錯誤するのがEBMだと考えています。

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