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2014年2月24日月曜日

医薬品の適正使用と診断学~第6回薬剤師のジャーナルクラブを終えて~

薬剤師のジャーナルクラブ第6回放送が無事終了いたしました。ご視聴いただきました皆様、ありがとうございました。僕自身、勉強中の分野でまだまだ未熟ではありますが、今回はインフルエンザと検査キットをテーマに、診断の論文を読んでみました。

第6回ジャーナルクラブの録画ラジオ
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今回は薬剤師にはなじみの薄い、感度(sensitivity)、特異度(specificity)、そして尤度比(Likelihood Ratio:LR)について取り上げてみました。既にご存じの方も多かったかもしれませんが、いわゆるインフルエンザ迅速診断キットによる検査結果をどう取り扱えばよいのか、ほんの少しそのお手伝いができましたら幸いです。

薬剤師は診断学を学んでいませんし、臨床経験だって圧倒的に少ない。今回のジャーナルクラブの中でも強調したように、検査はあくまで検査でありそれ以上でもそれ以下でもないという事です。診断は医師が主体となり、検査はそれを補完するものに過ぎない点は、ここでもう一度強調したいと思います。

ただ、そういったことが一般的に理解されていないことも多く、僕ら薬剤師への問い合わせがあるのも事実です。今回のシナリオはそんな僕の実体験をベースに作ったものでもあります。そのために検査性能の仕組みをあらかた知っておくことは必須だと思います。インフルエンザ検査で陰性でした、それではインフルエンザの可能性は低いですから、まあ安心ですね、という事にはつながらないことだって多い。疾患の事前割合をどう見積もるかで、検査の結果の陰性・陽性、○か×かの2値的判断が最終診断に結び付かないこともあるという事を今回はメインテーマとしました。検査性能を理解すれば、そもそも事前割合が既に治療閾値を上回っていれば検査すら不要なこともあるという事も分かります。

医療判断を模式化すれば以下のようになります。

0% 疾患を否定
検査する
治療する 100

■明らかにインフルエンザの可能性が低ければ検査をしません(検査閾値を下回っている)
■明らかにインフルエンザの可能性が高ければ検査をしません(治療閾値を上回っている)
インフルエンザの可能性が何%をこえればインフルエンザと診断して治療を開始するか、その思考プロセスを補完するのが迅速診断キットの役割でした。

 
またベイズの考え方を簡単に示せば以下のような感じです。

当初の考え(疾患事前割合)

+最近得られた客観的なデータ(検査結果)

=より正確な新たな考え(疾患事後割合)

当初の考えがインフルエンザかどうかよくわからない、治療閾値を超えないけれど、検査閾値も下回らないようなとても微妙な状況で検査は威力を発揮します。判断を迷わない時に検査をしても役には立たないという事です。

疾患の事前割合をどう見積もるか、検査後の事後割合はその疾患の治療閾値を上回っているか、これはもう薬剤師の仕事ではありません。ただ知るべきは、検査の性能上、病気でない人が検査陽性となる(偽陽性)あるいは病気なのに検査陰性となる(偽陰性)確率が確かに存在するという事です。インフルエンザ検査では偽陰性が問題となることが多い、と言うお話でした。逆に早期発見と言う名のもと検査を積極的に推奨すれば、病気でない人が陽性となる偽陽性者の数も増えるという事です。検査のメリット、デメリットについてよく知っておく必要があります。

薬剤師によるフィジカルアセスメントが新しいスキルとして注目を集めています。ただ僕はやはり聴取された所見なりが、その疾患をどの程度予測しているのだろうかという、エビデンスに基づいた診断学を学ばない限りは、なんとなく形だけで終わってしまうような気もしています。そして今、現状でこういったことを学ぶことができるのはごく限られた薬剤師でしょう。また、診断することのメリットデメリットという事についても我々薬剤師は浅はかです。

診断学なんて講座は学部のカリキュラムにない、そんな僕らが、卒後の数時間の研修会で詰め込んだ程度の知識で何ができるのか、多くの医師から批判を受けるもの承知ですが、それでも僕らは診断学を学ぶ必要がある。

医薬品の適正使用が叫ばれて久しい。薬剤師に課せられた最大の任務は医薬品の適正使用だと言っても過言は無いでしょう。もはや基本的な任務であるがために、僕もこのフレーズに何の新鮮味も感じず、「医薬品の適正使用」について真に取り組むことを忘れそうになることがあります。

医薬品の適正使用、それは本来、診断と切り離せないものだと僕は考えています。特に抗菌薬の適正使用と感染症診療が切り離せないものというのはよくご理解いただけると思います。一方で薬物相互作用や、重大な副作用のアセスメントなど、診断と切り離して考えられる部分も多くあり、今まではこのあたりで、医薬品の適正使用を考えていけばよかったのかもしれません。

しかしながら、ポリファーマシーの問題解決や、抗ウイルス薬、抗菌薬の処方、こういった根本的な医薬品の適正使用に介入していくにはやはり、日常診療とは切り離して考えられない部分も多く存在します。そのような問題に介入していくには、僕ら薬剤師にも診断学は大きな助けとなるはずだと認識しています。例えばインフルエンザ流行期に検査陰性で処方された抗菌薬にどう向き合うべきなのか。薬剤師の役割、そういったことが語られる機会が増えてきました。しかしながら、根本的なところで医薬品の適正使用を考えていきたい、僕はそう思います。


日本の医療アクセスは本当に素晴らしい。誰でも、すぐに医療機関に受診できる。ドラックストアは深夜12時まであいていて、薬剤師が常駐している店舗も多い。髄膜炎だとか、敗血症だとか、外来では本当に考えられないような疾患の患者が、本当に早期にドラックストアで風邪薬を買い求めるなんて事態も想定できてしまうのがこの国です。そんな時に風邪に紛れた重篤な疾患を疑えるか、という事も含めた、OTC医薬品の適正使用(販売しないという事も含めて)に貢献することを目指していかなければいけないのだと思います。


医薬品の適正使用を進めるには薬剤師に大きな責任が付きまといます。おそらく現状の薬剤師育成システムでは、この責任を乗り越えられる薬剤師を養成することは困難なように思えてしまいます。今目の前の薬剤、本当にこの患者に適正なのか、その臨床判断ができるかどうか、聴診器をもってフィジカルアセスメントをすることが重要なのではなく、薬局店頭で、患者を診断することが重要なのではなく…。大事なのは、医薬品の適正使用を責任もって行えるかどうか、その臨床判断の助けとなるのが薬剤師にとっての診断学なのだと思っています。


薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

 

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