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2014年1月15日水曜日

尿路症状におけるノコギリヤシは効果が期待できますか?

[ノコギリヤシとは]
ノコギリヤシ(Serenoa repensあるいはsaw palmetto)とはヤシ科の植物の一種で排尿障害や前立腺炎また脱毛などに効果が期待できるとする健康食品で、本邦でもドラックストアなどで入手が可能です。本邦で販売されている製品はノコギリヤシ抽出物が1日量で320mgの製品が主流となっています。過去にはビタミンEなどと組み合わせて服用することで有効性を示した臨床報告[PMID12092634]1)や、夜間頻尿減少などの有用性を結論付けたレビュー[PMID10736497]2)もあるようですが、ノコギリヤシ単独の効果について近年報告された比較的妥当性が高いと思われる研究を中心にまとめていきます。

[ノコギリヤシはタムスロシンと同等の効果が期待できるか]
α遮断薬は前立腺肥大症における排尿障害に用いられる代表的な薬剤ですが、このα遮断薬であるタムスロシンとノコギリヤシを比較した研究[PMID12074791]3)があります。この研究は11の欧州施設において症候性前立腺肥大症の男性704人を対象とした2重盲検ランダム化比較試験です。タムスロシン10.4mg(354人)とノコギリヤシ320mg/日(350)の群にランダム化しています。統計解析はper-protocolで追跡は542 (タムスロシン: 273; ノコギリヤシ:269)とやや緩い印象です。12カ月後の国際前立腺症状スコアIPSS[PMID1279218]4)は両群ともに4.4減少しており、差がなかったという結果でした。
IPSSはアメリカ泌尿器学会が提唱しており0から35点の幅があり08が軽症、920が中等症、20以上が重症の前立腺肥大症と考えられています。この研究で前立腺肥大症を有する男性において12カ月冠のノコギリヤシ投与はタムスロシン投与による治療と同等である可能性が示唆されたと結論していますが、追跡率も低く、結果はやや割り引いて考えるべきでしょうか。

[下部尿路症状に対するノコギリヤシの有効性]
プラセボを対照としたノコギリヤシの研究は2011年にJAMAPMID:21954478)から報告されています。この研究はプラセボを対照とした2重盲検ランダム化比較試験で下部尿路症状スコアの変化を検討しています。論文のPECOを以下にまとめます。

(論文のPECO
[Patient]
前立腺肥大による下部尿路症状を有する45歳以上の男性369人(平均年齢60.1歳)
[Exposure]
ノコギリヤシ果汁抽出物を最終的に320mg/日を投与
[Comparison]
プラセボを投与
Outcome
ベースラインから72週後のアメリカ泌尿器科学会による下部尿路症状スコア(=IPSS)の平均差
統計解析はintention-to-treat369人中357人を追跡しています。72週間後のスコア変化はノコギリヤシを投与した群でベースラインの14.42ポイントから12.22ポイント(−2.20ポイント 95% 信頼区間, −3.04 −0.36)低下しましたが、プラセボ群でもベースラインの14.69ポイントから11.70ポイント(−2.99ポイント 95% 信頼区間, −3.81 −2.17)まで低下しており、その有効性はプラセボに比べて優れているものではありませんでした。結果を以下にまとめます。

アウトカム
E
ノコギリヤシ服用
C
プラセボ服用
結果
平均差
ベースラインからのスコア変化量
2.20ポイント
[‐3.04 0.36
2.99ポイント
[‐3.81 to 2.17
0.79ポイント
P=0.91

製品ごとにばらつきがあるかもしれないので、何とも言えないところですが、この研究ではノコギリヤ含有健康食品がプラセボと比べて優れた有効性を持っているとは言えない可能性を示唆しました。

2012年にはコクランからシステマテックレビュー[PMID23235581)が報告されています。こちらは前立腺肥大症患者における下部尿路症状に対する4週以上ノコギリヤシを投与した有効性を検討したシステマテックレビュー&メタ分析です。2つの妥当性の高い長期間の試験を統合した結果、ノコギリヤシの効果はプラセボに比べて優れたものではないとしています。

これまで重篤な有害事象はあまり報告されておらず、あくまで症状改善という主観的なアウトカム改善が目的の健康食品であったため、人によっては効果が実感できることもあり、日常生活の負担が軽減されるのであれば、その摂取は否定されるものではないと考えていました。ところが、1例報告ではありますが、やや気になる症例があります。

[ノコギリヤシと横紋筋融解症]

ノコギリヤシには重篤な副作用に関する報告はそれほどありませんが、2012年にノコギリヤシの影響が示唆される横紋筋融解症が報告されています7)慢性閉塞性肺疾患や肺結核後遺症のためテオフィリンを含む多剤併用中の82歳男性です。通信販売で購入したノコギリヤシを含む5種類の健康食品を服用した翌日より38℃代の発熱、標準値の10倍以上の著明なクレアチニンキナーゼ上昇も認めました。入院時,発熱以外には筋力低下や筋肉痛などの筋症状は認められなかったとしていますが、入院時検査所見より,急性腎不全、横紋筋融解症と考えられるとしています。薬剤リンパ球刺激試験の結果、ノコギリヤシが陽性を示したことからノコギリヤシが被疑薬として疑われたようです。その後、大量輸液により警戒したようですが、この症例は健康食品が原因の横紋筋融解症としては本邦初の事例として報告されています。

(症例詳細 文献7より)
年齢・性別
82歳男性 身長151.6 cm.体重58 kg.血圧120/60 mmHg
生活歴
喫煙60/58年間
飲酒、アレルギーなし
併用薬
アムロジピン、エナラプリル、エプレレノン、ニトラゼパム、オメプラゾール、テオフィリン、フロセミド、ベンズブロマロン、デキストロメトルファン、オキシトロピウム、ツロブテロール
摂取した健康食品
ノコギリヤシ、カボチャエキス、マカ、イチョウ葉エキス、ローズカプセル


[結局のところどうすべきか]
ノコギリヤシの有効性についてはそれを支持する報告1)2)3)はあるものの、プラセボと比べて優れたものではない可能性も高い5)6。症状改善が目的なので、例えば60歳前後の男性がノコギリヤシを摂取することで日常生活の負担軽減が実感できるのであれば、その継続を否定する強い根拠は存在しない。しかしながら新規で摂取する場合、特に80歳以上の高齢者で横紋筋融解症の症例報告7)が存在する。基礎疾患や併用薬に横紋筋融解症リスクのある薬剤が無いか、コストやリスクよりもベネフィットが上回るか、十分な検討を要する。

[引用文献]
1)Preuss HG et al Randomized trial of a combination of natural products (cernitin, saw palmetto, B-sitosterol, vitamin E) on symptoms of benign prostatic hyperplasia (BPH). int Urol Nephrol 2001;33:217-225  PMID12092634
2)Boyle P,et alMeta-analysis of clinical trials of permixon in the treatment of symptomatic benign prostatic hyperplasia Urology.2000 Apr;55(4):533-9. PMID10736497
3)Debruyne F et al Comparison of a phytotherapeutic agent (Permixon) with an alpha-blocker (Tamsulosin) in the treatment of benign prostatic hyperplasia: a 1-year randomized international study. Eur Urol. 2002 May;41(5):497-506; PMID:12074791
4)Barry MJ,et al The American Urological Association symptom index for benign prostatic hyperplasia. The Measurement Committee of the American Urological Association J Urol. 1992 Nov;148(5):1549-57; PMID:1279218
5)Barry MJ, et al. Effect of increasing doses of saw palmetto extract on lower urinary tract symptoms: a randomized trial. JAMA. 2011 Sep 28;306(12):1344-51 PMID:21954478
6Tacklind J, et al. Serenoa repens for benign prostatic hyperplasia Cochran Database Syst Rev.2012 Dec 12;12:CD001423 PMID23235581
7)花香 未奈子 他 Journal of UOEH Vol.34(2012)No.2pp.193-199

※記事内容は記事執筆時点で、筆者が情報収集した臨床研究や症例報告に基づき、正確を期すよう最善の努力をしておりますが、記載された内容が、正確かつ完全であると保証するものではありません。詳細は文中に示した引用文献をご確認ください。

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