[お知らせ]


2014年1月12日日曜日

抗菌薬の考え方(加筆訂正版)

※以下個人的なメモです。最終更新:平成26年1月17日

[抗菌薬選択のための細菌分類]
グラム陽性菌
グラム陰性菌
嫌気性菌
chain
連鎖球菌
肺炎球菌
腸球菌
ペニシリン系
・アンピシリン(ABPC
・アモキシシリ(AMPC
Cluster
1)皮膚ブドウ球菌
2)黄色ブドウ球菌
MSSA
1世代セフェム
・セファゾリン(CEZ
MRSA
・バンコマイシン
①腸内細菌群(大腸菌)
2世代セフェム
・セフォチィアム(CTM
・セフメタゾール(CMZ
3世代セフェム
・セフトリアキソン(CTRX
②緑膿菌
・セフタジジム(CAZ
・ピペラシリン(PIPC
・セフェピム(CFPM
緑膿菌疑いの時しか
用いてはいけない
・カルバペネム
①横隔膜より上
(ペプトストレプトコッカス)
ペニシリン
セフェム
クリンダマイシン(CLDM
②横隔膜より下
Bactreoides
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン
アンピシリンスルバクタム

■横隔膜より上…グラム陽性菌が中心:ペニシリン系
Haemophilus inflienzae(インフルエンザ菌:Hib)は陰性菌
⇒インフルエンザ菌による髄膜炎では第3世代セフェム(セフトリアキソン)が第一選択
※誤嚥性肺炎は口腔内の嫌気性菌を狙う:近年、嫌気性菌にはβラクタマーゼ産生株が高頻度で認められているため本邦ではスルバクタムアンピシリンが用いられることが多い。クリンダマイシンもグラム陽性菌・嫌気性菌をカバーし誤嚥性肺炎の良い適応となるが、偽膜性大腸炎リスクに注意
※抗菌力:ペニシリンG>バンコマイシン 、 スペクトラム:バンコマイシン>ペニシリンG
※セファゾリンは髄膜への移行が悪いので髄膜炎には使えない。
※肺炎球菌による肺炎はペニシリンでも治療可能だが、髄膜炎の場合はセフトリアキソンを用いることが多い。
※伝染性単核症にアモキシシリンやアンピシリンは皮疹が出ることが知られている

■横隔膜より下…グラム陰性菌が中心:第2世代、第3世代セフェム
※尿路感染症などにはセフォチアムは良い適応となるが腸球菌の尿路感染症ではセファロスポリンがほとんど効かない。
ESBL産生大腸菌の場合は3世代セファロスポリンにも耐性があり、原則、安心して用いられるのはカルバペネムと言われている
※アンピシリンや、アモキシシリン等のアミノペニシリンは感受性のある腸球菌感染症、リステリア感染症にはfirst choice

[抗菌薬の留意点]

①ペニシリン
・グラム陽性菌への抗菌力はかなり強力。バンコマイシンよりもその抗菌力はペニシリンGが勝る。髄膜炎菌による髄膜炎の良い適応となる。
・アモキシシリンは経口からでも吸収が良い。セファロスポリンが効かない腸球菌感染症やリステリア感染症の良い適応となる。
・ピペラシリンは緑膿菌にも効果が期待できる広域スペクトラムのペニシリン。原則、緑膿菌感染を疑った時にのみ用いる。
・嫌気性菌はβラクタマーゼ阻害薬を産生している菌が多く、スルバクタム・アンピシリンのようなβラクタマーゼ配合ペニシリンを用いる。口腔内嫌気性菌をターゲットにした誤嚥性肺炎や、動物咬傷などでは良い適応となる。
AB群溶連菌は全てペニシリンに感受性がある。

キノロン
・基本的にグラム陰性菌狙い。キノロンは肺炎球菌に対する活性がよいため呼吸器感染症に用いることが多いが、肺炎球菌による肺炎はペニシリンで治療できることが多い。
・一般的な上気道炎に用いるべきではない。呼吸器にキノロンを用いる際は結核を除外できていることが必須。(抗結核作用を有し、結核の診断を遅らす)
・大腸菌にも効果があるため尿路感染症に用いることも多いがモキシフロキサシンは尿路への移行性が悪いため尿路感染症には使用できない。
・腸球菌による尿路感染症ではむしろアモキシシリンを用いるべき。耐性マイコプラズマやレジオネラ肺炎にキノロンを温存しておきたい。
・嫌気性菌には効果が期待でないため誤嚥性肺炎に用いるべきではない。
・鳥の生肉などで食中毒を起こすカンピロバクターに用いられることも多いが、近年キノロン耐性が多い。この場合マクロライドが有効

(参考:キノロン抗菌薬の有害事象に関する報告)
血糖異常リスク
急性腎傷害リスク
急性肝障害リスク
腱障害リスク
不整脈リスク
網膜剥離リスク


③経口3世代セファロスポリン
世代
グラム陽性菌
への効果
グラム陰性菌
への効果
スペクトラム
1世代
強い
弱い
弱い
強い
狭い
広い
2世代
3世代
・注射用第3世代セフェムはグラム陰性菌を広くカバーする小児重症感染症の切り札。経口3世代セフェムの安易な使用は推奨されない。
・連鎖球菌やブドウ球菌への効果はむしろ弱い。経口第3世代セフェムは吸収も悪く、感染部位に到達できるかどうかも良くわからない。ターゲットとしている細菌や感染部位を考慮すれば、風邪処方に良く見かけるセフカペンピボキシルやセフジトレンピボキシルの効果については疑問。風邪にそもそも抗菌薬は不要。
・とびひなど皮膚軟部組織感染症にも経口3世代セフェムを見かけることもあるが、原則グラム陽性菌をターゲットとしていることからも第1世代セフェムの方が理にかなっている。
・腸球菌感染症にはすべてのセファロスポリンが原則使用できない。

④注射用セファロスポリン
・淋菌感染症においてはセフトリアキソン1g単回で治療。
・セファゾリンは組織移行性が高く、心内膜炎等の治療に有効だが、髄液への移行性が悪く、髄膜炎では用いない。
・緑膿菌用セファロスポリンのうちセフタジジムはグラム陽性菌に効果がないが、セフェピムは腸球菌以外のグラム陽性菌もカバーし、緑膿菌を含む混合感染の切り札として使用可能。
MRSA用セファロスポリンのうちセフトビプロールはグラム陰性菌もカバーするが、緑膿菌はカバーしない。MRSAは通常バンコマイシンで治療するためこのようなブロードスペクトラムの抗菌薬を積極的に用いるケースは少ない。
・広域セファロスポリンではクリンダマイシンと同程度の偽膜性大腸炎リスクがある。
・セフトリアキソンでは偽胆石の症例報告が多い

⑤カルバペネム
・他の薬剤が有効な場合は使用しない。生命に危険の及ぶ重症感染症に用いる。かなりブロードスペクトラムでグラム陰性、陽性、嫌気性菌、緑膿菌に抗菌力が期待できる。
・他の抗菌薬がすべて耐性であるとか、高度耐性菌の疑いがあるなど、使用条件はかなり限定的。MRSAや腸球菌には効果は期待できないかもしくは効きにくい。
・カルバペネムは各薬剤間でその特徴に明確な違いはなく、原則1剤で対応可能と思われる。(ドリペネムは他のカルバペネムに比べて緑膿菌への活性が高いといわれている)
・βラクタマーゼに安定で3世代セファロスポリンを分解するEBSL産生菌への切り札であるが、NDM-1(メタロβラクタマーゼ)産生株により分解されてしまう。

⑥マクロライド
・基本的にグラム陽性菌狙いなので、ペニシリンにアレルギーがあるなど特殊な条件下で使用を考慮すべき。
・マイコプラズマ肺炎では抗菌薬を使用しなくても良いケースが多いものの、第一選択として位置づけられる。近年マクロライド耐性マイコプラズマも見られるが、安易なキノロンのファーストチョイスはリスクを考慮すれば積極的な推奨はされず、あくまで初期治療はマクロライドと考える。

(参考:マクロライドの有害事象に関する報告)
アジスロマイシン心血管死亡
アジスロマイシン心血管リスク
クラリスロマイシン心血管イベント
クラリスロマイシン死亡リスク

(参考:クラリスロマイシンの相互作用に関する報告)
クラリスロマイシンはCYP3A4を強力に阻害して他の薬剤と様々な相互作用を引き起こし重篤なアウトカムをもたらす可能性がある。

併用薬剤
有害事象
出典
カルシウム拮抗薬
急性腎傷害
スタチン
急性腎傷害、死亡
ドネペジル
失神骨折リスク
ジゴキシン
ジゴキシン中毒入院

⑦リンコマイシン
・クリンダマイシンは嫌気性菌も広くカバーし誤嚥性肺炎に用いられるが、偽膜性大腸炎発症リスクの高い薬剤。グラム陰性菌には耐性株が多く効果が得られにくい。

[抗菌薬選択例] 感染症診療の3原則⇒原因微生物・感染臓器・抗菌薬

疾患
ターゲットとする微生物
初期治療に用いる抗菌薬例

細菌性
咽頭炎

Gram陽性菌をターゲット
※基本的にGram陽性菌への抗菌力が弱い経口第3世代セファロスポリン(セフカペン・セフジトレン等)は用いないことを推奨
・アモキシシリン(経口)
・クラリスロマイシン(ペニシリンアレルギーがある場合等に考慮)
細菌性
髄膜炎
肺炎球菌(Gram陽性)・インフルエンザ菌(Gram陰性)
※セファゾリンは髄膜移行性が悪いため用いない
・セフトリアキソンNa
・リステリア疑い⇒アンピシリン

市中肺炎
(細菌性)
・頻度の高い肺炎球菌をターゲット
※結核の可能性を考慮(キノロンの第一選択を避ける)
※マクロライド耐性肺炎球菌が本邦では多く報告されているため第一選択で用いないことを推奨
・アモキシシリン(経口)
・スルバクタム・アンピシリン
・セフトリアキソンNa(ペニシリン耐性肺炎球菌)
市中肺炎
(非定型肺炎)
マイコプラズマ
・マクロライド
レジオネラ(高熱・徐脈・下痢・CPK↑・温泉?)
・レボフロキサシン



院内肺炎

肺炎球菌Gram陽性)・インフルエンザ菌Gram陰性)
・スルバクタム・アンピシリン
・セフトリアキソンNa
緑膿菌
・ピペラシリンNa(広域スペクトラムであるが、抗菌力はそれほど強くない。十分量を投与。18gまで保険適応。また半減期が短く34g14回など、投与間隔を短くすることが望まれる)
・セフェピム
・イミペネムシラスタチン
誤嚥性肺炎
ぺプトストレプトコッカス等の嫌気性菌をターゲット※原則キノロンは嫌気性菌には無効
・スルバクタム・アンピシリン
・クリンダマイシン


尿路感染症

Gram陰性:大腸菌群をターゲット
ESBL産生大腸菌にはキノロンの効果も議論の余地があり安心して使用できるのはカルバペネムと言われている。
・セフォチアム
・シプロフロキサシン(経口)
・レボフロキサシン(経口)
・ST合剤
Gram陽性:腸球菌をターゲット
※セファロスポリンは原則無効。シプロフロキサシンは腸球菌に対して効果が弱いといわれている
・スルバクタムアンピシリン
・レボフロキサシン(経口)
・ST合剤
蜂窩織炎
ブドウ球菌をターゲット
・セファゾリン
動物咬傷
パスツレラ等の嫌気性菌
・アモキシシリン・クラブラン酸

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