[お知らせ]


2014年1月10日金曜日

肥満症に効く漢方薬があるって本当ですか?

[肥満症に適応のある漢方薬]
通常は便秘などで処方される漢方製剤の防風通聖散は市販薬としても入手が可能です。医療用製剤の効能効果は「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」となっており、肥満症へも効能効果を有しています。
日本肥満学会によれば肥満症とはBMI 2511の肥満関連疾患(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、脂肪肝、月経異常及び妊娠合併症、睡眠時無呼吸症候群・肥満低換気症候群、整形外科的疾患、肥満関連腎臓病)のうち1つ以上の健康障害を合併するか、またはBMI 25で男女共にCTで測定した内臓脂肪面積が≧100cm2を有する場合」としています。
また、防風通聖散製剤は生活習慣などによる肥満症を改善する漢方薬として第2類医薬品に指定されておりドラックストア等でも販売されています。
その作用機序としては医療用防風通聖散の添付文書には褐色脂肪組織の活性化作用MSG肥満マウスに混餌投与したところ、褐色脂肪組織の活性化が認められた1と記載がり、これは肥満マウスにおける褐色脂肪組織の熱発生を活性化させ、体重増加が抑制されたという報告[PMID:8589765]2に基づいています。あくまで動物実験の結果であるため、その解釈は参考程度にすべきです。僕は漢方の専門家ではありませんし、その作用機序等詳細は分かりませんが、肥満症における防風通聖散のリスクベネフィットについて、臨床研究や症例報告に基づきまとめていきます。

[防風通聖散の減量効果]
bofu-tsusho-san 」を検索ワードにPubMedを検索すると耐糖能異常の日本人女性を対象とした2重盲検ランダム化比較試験[PMID:15479169]3)が見つかりました。フリーアクセスができないため抄録情報のみですが概要は以下の通りです。

論文のPECO
[Patient]
耐糖能異常の日本人女性81人(BMI36.5±4.8
[Exposure]
1200Kcalの低カロリー食と300Kcalの運動+防風通聖散40
[Comparison]
1200Kcalの低カロリー食と300Kcalの運動+プラセボ41
Outcome
24週後の体重減少・腹部内臓脂肪減少
※防風通聖散:エフェドリン24mg/日 カフェイン280mg/

結果は以下の通りです。
E群では安静時代謝率の減少なしに体重や腹部内臓脂肪が減少した(P0.01
C群では体重は減少したものの(P0.05)腹部内臓脂肪は変わらなかった

体重
腹部内臓脂肪
E群:防風通聖散
有意に減少(P0.01
有意に減少(P0.01
C群:プラセボ
有意に減少(P0.05
有意差なし

論文では耐糖能異常を有する肥満女性への治療に用いることができると結論しています。24週後の体重は両群で減少していますので、E群とC群の差がどの程度だったか抄録には記載がありません。体重のような連続変数を評価する場合、各群のベースラインからの差を両群間の差で評価するというのが一般的です。したがってこの情報のみで、プラセボと比べて有意かどうかは不明で肥満症へ有効と結論付けることは難しいです。また体重変化が統計的有意でも、実際のところ差がわずかであれば個人差の範囲内となってしまうこともあり、この報告(抄録情報)からだけではその有効性についてはよくわからないと考えた方が良いと思います。またBMI36以上とかなり肥満と思われる参加者が食事・運動介入も合わせて行っていますので、BMI25前後の少し太り気味程度の人が、ただ単に防風通聖散を服用するだけでは減量効果はほぼ効果は期待できない可能性が高いと思います。
また、防風通聖散では6か月間の服用で食欲低下例と体重減少に関する比較対象の無い前向き研究4)もありますが下痢の副作用も多く、6か月間継続服用できたのは127例中33例でした。

[防風通聖散の副作用]
市販薬としても入手可能な防風通聖散、その減量効果としてはBMI36以上で食事・運動も一生懸命すれば体重減少が期待できるかもしれませんが、それはプラセボに比べて優れているのかよくわかりませんし、おそらく単に服用しただけではほぼ効果が期待できないとすると、気になるのは副作用です。もともと便秘に用いる漢方ですから、腹痛・下痢は多いのですが、この漢方、副作用を調べてみると薬剤性肝障害の症例報告5)6)7)が目につきます。

添付文書1)によれば副作用について「本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していないため、発現頻度は不明である」という何とも参考にならない記載があり、肝機能障害、黄疸に関してはAST(GOT)ALT(GPT)Al-P、γ-GTPの著しい上昇等を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。」と記載があるだけです。

PubMedでは防風通聖散の有害事象に関する報告を見つけられませんでしたが、J-STAGEを検索した結果、症例報告が見つかりましたので以下にまとめます。


[防風通聖散による薬剤性肝障害事例]
症例報告
掲載雑誌
症例と初期症状
防風通聖散により黄疸をきたした薬剤性肝障害の15)
46歳の女性.便秘症に対し防風通聖散を内服
13カ月後に黄疸出現
防風通聖散による薬物性肝障害の16)
37歳の女性.肥満症に対し薬局で購入した防風通聖散を約1カ月間服用.
2カ月後に黄疸
防風通聖散の長期服用中肝障害が出現し,
劇症化に至った17)
35歳男性. 入院10カ月前から防風通聖散を服用していた. 入院3カ月前にはじめて肝機能異常が出現

「文献5」の症例では黄疸発現までに1年以上を要していて、肝障害発症までに長期間を要することもあり、ずっと飲んでいても副作用なんて出ていないから安全とは言い切れない可能性を示唆しています。薬剤師として特に重視したいのが「文献6」の薬局で購入した防風通聖散を約1カ月間服用していた事例です。対象症例は以下の通りです。

症例
37 歳,女性.身長152cm,体重56kg
主訴
黄疸.
既往歴
特記事項なし.
家族歴
特記事項なし.
嗜好歴
喫煙歴なし,アルコール摂取は機会飲酒程度.
薬剤歴
一般用医薬品として市販されている防風通聖散料乾燥エキスを薬局で購入し,約1か月間にわたり1 2.5g 服用していた

これだけ見てもお分かりの通り、ごく一般的な女性で基礎疾患などもない症例です。また医療用漢方製剤では通常乾燥エキスとして4.55.0g/.日程度ですが、本症例では2.5g/日と低用量での投与にもかかわらず、服用から約2か月後、皮膚の黄染と右季肋部痛を自覚し、近医を受診したと報告されています。検査値はAST 1210IUlALT 1592IUlT-Bil 18.0mgdlD-Bil 15.7mgdl と肝機能異常を認め、同日中に紹介入院となっています。その後の経過は入院後より注射用グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸など肝庇護剤の投与のみで経過を観たところ、ASTALTT-Bil などの順調な改善が見られ退院となりました。
この症例報告の考察にも記載されておりますが一般に漢方薬による薬物性肝障害には以下のような特徴があると言います。
①中高年者に多い
②服用後発症までの期間が長い
③典型的初発症状(発熱・発疹・好酸球増多・皮膚掻痒感など)が明確でない症例が多い
④治癒に要する期間は遷延傾向であること

[結局のところどうするべきか]
防風通聖散の減量効果はあってもごくわずかである。BMI36近い肥満症の女性が食事制限や運動も同時に行ってもプラセボに比べて優れた減量効果であるかはよくわからない3) 腹痛・下痢などの副作用も多く、特に便秘がちでない人が、生活習慣などによる肥満症改善を目的にあえて服用すべき理由は見当たらない。体重減少や腹部内臓脂肪減少効果は症例ごとに個別されるべきかもしれないが、薬剤性肝障害など重篤なリスクを考慮すれば、たとえ基礎疾患がなくとも、また市販の低用量品でさえ肥満症に対する積極的な推奨に値しない30代の健常者においても肝障害の症例報告6)が存在する。また防風通聖散による薬剤性肝障害は半年以上、症状を疑うべき重要な兆候である黄疸の発現までに13か月以上と発症までの期間が長いケースもあり5)現段階で継続服用中の患者においては倦怠感や黄疸などの長期的なフォローが必要である。

[引用文献]
1)ツムラ防風通聖散エキス顆粒(医療用) 添付文書(20078月改訂)
2Yoshida, T. et alThermogenic, anti-obesity effects of bofu-tsusho-san in MSG-obese mice. Int J Obes Relat Metab Disord. 1995 Oct;19(10):717-22.  PMID:8589765
3Hioki C et al Efficacy of bofu-tsusho-san, an oriental herbal medicine, in obese Japanese women with impaired glucose tolerance. Clin Exp Pharmacol Physiol. 2004 Sep;31(9):614-9. PMID:15479169
4)伊藤隆 他:防風通聖散の減量効果の検討 日本東洋医学雑誌 Vol. 56 (2005) No. 6 P 933-939
5)小沢俊文 他:防風通聖散により黄疸をきたした薬剤性肝障害の1例 日本消化器病学会雑誌Vol. 98 (2001) No. 4 P 416-420
6)元山宏行 他:防風通聖散による薬物性肝障害の1例 日本消化器病学会雑誌Vol. 105 (2008)No. 8 P 1234-1239
7)山本博之 他:防風通聖散の長期服用中肝障害が出現し, 劇症化に至った1例 肝臓Vol. 44 (2003) No. 11 P 579-585


※記事内容は記事執筆時点で、筆者が情報収集した臨床研究や症例報告に基づき、正確を期すよう最善の努力をしておりますが、記載された内容が、正確かつ完全であると保証するものではありません。詳細は文中に示した引用文献をご確認ください。

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