[お知らせ]


2013年12月13日金曜日

乳酸菌飲料でノロウイルス感染症は予防できますか?

[プロバイオティクスの効果は?]
テレビCMでも放映されているように乳酸菌飲料がウイルス性胃腸炎予防に効果が期待できる可能性が示唆されています。宣伝では乳酸菌シロタ株がノロウイルス感染症による発熱持続期間を短縮する効果があったとするような内容が放映されています。
医薬品の整腸剤にも用いられているビフィズス菌や乳酸菌飲料など、いわゆるプロバイオティクス製剤には様々な効果が知られています。プロバイオティクスとは腸内の細菌バランスを改善することによりヒトに有益な作用をもたらす生きた微生物のことと言われています。
乳酸菌飲料などプロバイオティクスに関する情報はネット上に大量にあふれていて、本当に妥当な情報なのか、信用に値するものなのか、一般の方ではなかなか判断しにくいことも多いと思います。医療従事者のみならず一般の方も対象とした情報を発信している臨床医学論文(エビデンス)の要約サイト「CMEC-TVから乳酸菌の効果について少し引用させていただきます。

■高齢者へプロバイオティクスを投与しても、気道や消化管の感染症の発症はほぼ同等
プロバイオティクスを投与してもアトピー性皮膚炎の改善度はほぼ同等
プロバイオティクスを投与するとアトピー性皮膚炎の発症が少ない
プロバイオティクス含有ミルクを引用すると風邪の有症状日数や欠席日数、合併症また抗菌薬の使用が少ない傾向にある
乳酸菌製剤を投与した乳幼児では下痢の持続時間が短く、またその頻度が少ない

風邪予防にプロバイオティクスは今年にもメタ分析が報告されています。
(参考)薬剤師の地域医療日誌.2013-3-1プロバイオティクスで風邪を予防できますか?

[ノロウイルス感染症]
感染症などにも効果が期待できる可能性があるプロバイオティクス製剤ですが、冬季に毎年のように流行するノロウイルス感染症には予防効果が期待できるのでしょうか。
ノロウイルスは嘔吐・下痢を主訴とするウイルス性胃腸炎の代表的な原因ウイルスです。感染症の経過は潜伏期間が1日~2日、症状は感染後2日~3日、その後4週間程度持続感染するといわれています。症状が無くなっても糞便中にはウイルスが排泄され続けるため、感染拡大防止の観点から一般的に症状が治まってから48時間は職場復帰等しないほうが良いといわれています。ノロウイルスは非常に感染力が強くウイルスが10個~100個程度でも感染を引き起こすといわれています。また長期的免疫が付きにくく、毎年感染する恐れのある感染症です。では実際にテレビCMで放映されている根拠論文を見てみます。

[乳酸菌飲料でノロウイルス胃腸炎は予防できるか]
【文献タイトル・出典】
Effect of the continuous intake of probiotic-fermented milk containing Lactobacillus casei stain Shirota on fever in a mass outbreak norovirus gastroeneitis and the faecal microflora in a health service facility for the aged
【論文は妥当なのか?】
まずは論文のPECO拾ってみます。
■どんな患者に?
▶日本の介護老人保健施設に入所する高齢者77人(平均84歳、男性55人、女性27人)
■どんな治療をすると?
▶ラクトバチルス カゼイ シロタ株を含む発酵乳(180ml400株)を10月初旬より飲用39
■何と比較して?
発酵乳の飲用なし38
■どんな項目で検討した?
12月の1か月間における下痢症状が認められた場合の糞便検査からノロウイルス胃腸炎発症、ノロウイルス感染症による発熱症状持続日数

研究デザインはランダム化されていない比較試験です。患者背景の詳細も記載がありませんが2つの比較群で年齢、男女比はほぼ同等のようです。また治療効果を検討する際にフェアな比較を行えるプラセボを使用した2重盲検法は採用されていない、オープン試験となっていて、被験者や研究者もどちらの群が乳酸菌飲料を飲んでいるのか隠されていない試験です。比較対象はプラセボを使用せず、乳酸菌飲料を飲まない群としています。
医療記録から1か月間の間に発症したノロウイルスによる胃腸炎と発熱持続期間を比較検討しています。ノロウイルス胃腸炎は下痢症状が認められた際に糞便を採取してノロウイルス検査キットを用いて診断しているようです。
研究は10月初旬から12月末まで行われたようで、結果の解析は12月の1か月間に発生したアウトカムで行っています。

【論文の結果はどうなっている?】
ノロウイルス性胃腸炎の発症は発酵乳飲用群で69.2%、飲用していない群で55.3%であり飲用群は非飲用群に比べて直接計算した相対リスクで25%多い傾向にあるという意外な結果です。37度以上の発熱持続時間は1.4日少なく、38度以上の発熱持続時間は0.3日少ない傾向にありますが標準偏差を考慮すればその差はごくわずかと言う感じです。

アウトカム
発酵乳
飲用群
発酵乳
非飲用群
結果
ノロウイルス胃腸炎発症
27/39
69.2%)
21/38
55.3%)
相対リスク1.25(※)
PNS(※※)
37度以上の
発熱持続期間
1.5
SD1.7
2.9
SD2.3
絶対差1.4
P=0.027(※※)
38度以上の
発熱持続時間
0.4
SD1.0
0.7
SD1.2
絶対差0.3
P=0.088(※※)
(※)発症率より直接算出
(※※)Wilcoxon’s signed rank test 原著tabe1から引用

【結果は役に立つか?】
この論文では飲用前後の糞便細菌の比較も検討しており、発酵乳服用群ではビフィズス菌の増加と大腸菌や緑膿菌低下を報告していますが、これはあくまで代用のアウトカムです。臨床的にこの差がどのような効果をもたらすかは不明です。真のアウトカムであるノロウイルス性胃腸炎の発症に群間差は無かったとの記載があります。発症率から直接算出した相対リスクはむしろ発酵乳飲用群で増加傾向でした。また発熱持続に関しても標準偏差を加味すれば、実感できる症状の差はごくわずかと言う印象です。38℃以上の発熱に関しては有意な差は出ていません。テレビの宣伝では37度以上の発熱持続日数を減らすというアウトカムが取り上げられているようですが、ノロウイルス感染症のおける臨床アウトカムとしては適当で無いように思います。
全体的に結果がネガティブなのは単一施設内におけるアウトブレイクではもはや対応するほどの効果が期待できない、という解釈も可能かもしれませんし、症例数が少ない影響もあるかもしれませんが、この研究では盲検化やランダム化がなされている形跡がなく、潜在的な感染リスクなどの患者背景のばらつきや「乳酸菌飲料を飲んでいるから感染の心配はないや、1回くらい手を洗わなくてもいいだろう…」、みたいな逆のホーソン効果の影響が入りこむ可能性もあり、研究デザイン自体の妥当性も低いと言わざるをえません。

[結局のところノロウイルス胃腸炎の予防に乳酸菌飲料は効果が期待できますか?]

テレビCMで放映されている根拠論文を見る限り、ノロウイルス感染予防、すなわち胃腸炎の発症抑制効果や、解熱時間短縮効果に乳酸菌飲料のような発酵乳が臨床的に有効とは結論できませんが、あくまで医薬品ではなく、乳酸菌飲料は食品ですので、過量の摂取はまた問題でしょうが、個人の嗜好に合わせて、その摂取を否定するものでは全くないという結論です。

0 件のコメント:

コメントを投稿