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2013年12月2日月曜日

喘息の吸入薬はずっと使っていても安全なのか ~第4回、薬剤師のジャーナルクラブを終えて~

4回、薬剤師のジャーナルクラブが無事に終了いたしました。ご視聴頂きました皆様ありがとうございました。
詳細はこちらをご参照ください⇒http://syuichiao.blogspot.jp/2013/11/4.html
今までのジャーナルクラブ配信アーカイブはこちらです⇒http://twitcasting.tv/89089314/show/

3回、第4回と連続で同じテーマを取り上げてきました。
3回目で取り上げたランダム化試験ではLABAの長期使用は決して安全ではないかもしれないという事が明らかになりました。そして今回メタ分析という複数のランダム化比較試験を統合研究した論文を取り上げ、表題の疑問解決に向けて考察をしてみたわけです。
論文の結果はLABAを少なくとも3か月以上使用するとステロイドの併用の有無にかかわらず死亡及喘息関連気管挿管リスクに関連するという衝撃的なものでした。

死亡リスクというアウトカムを直接患者さんにどう説明すべきか、これは途方もなく難しい問題です。LABAの長期投与は必ずしも良いアウトカムを生まない、むしろ死亡等重篤なアウトカムに関連する可能性が高いという事は、決して軽視すべきではないですが、これを”薬剤師の判断”で、すぐにLABAを中止すべきとするのもまた現実的には様々な問題を孕んでいて、熟慮が必要な部分だと感じています。抄読会の中で出た意見も合わせて考察してみたいと思います。

①処方医と情報を共有する
⇒「患者さんからこんな質問があって、少し調べてみたら、こんな論文があったんです。先生、いかがでしょうか?」
(門前薬局であれば医師との面会の中で情報を共有することも可能なケースが多いと思います)
②調剤薬局薬局の立場では処方医療機関が大学病院等の場合、直接処方医と情報共有することが難しいかも?
⇒大学病院薬剤部との薬-薬連携の重要性
⇒時間に余裕があるのであれば、薬剤師の意見をまとめて処方医師宛にFAXを送信する。
(本テーマではありませんが、僕自身はこのようなやり方で大学病院の医師とコンタクトをとった経験があります)
③患者との対話の中で患者さんの状態を十分に把握する
⇒喘息における代用のアウトカム改善は一定のQOL改善をもたらす。
⇒状態が安定しているのであれば、主治医にその旨を強調して伝えてみる(減薬の可能性を患者さんから伝えてもらえるよう促す)
⇒患者さんを取り巻く環境を十分考慮する
・職場環境は喘息発作リスク因子になっていないか
・スポーツ等喘息発作リスクに関連するような生活環境にあるかどうか
・季節的な問題はどうか(季節により増悪する可能性、台風の影響)
・精神的な問題はどうか(併用薬なども重要な情報)
⇒喘息の現在の状態はどうか。コストの観点からも減薬の可能性は見えてこないか?
④他の論文を探してみた上で、もう一度一連の流れを評価する(EBMのステップ⑤)

以上の他にも様々な意見や方法があると思います。僕自身このテーマについてはずっと考え続けています。論文の結果をみて、その結果が役に立つかどうか、という事に目が行きますが、どうでしょう。今までの流れを見ていて、なにか気づきませんか??

一つの論文を読んで、じゃどうすればというアクションにさんざん悩んでいる自分がいることに気づくでしょう。まさにこの思考過程そのものがEBMだと思います。EBMevidence-based medicine の頭文字をとったもので「根拠に基づく医療」と訳されますが、あらためてエビデンスってなんでしょう??

エビデンスは臨床における疑問を解決するための「根拠」のことです。したがって一つの論文の結果はその根拠の一部に過ぎません。先ほどの考察のなかでも考えたように、患者さんの思い(薬をやめる事への不安、発作の恐怖)や患者さんを取り巻く環境(生活・就労環境やライフスタイル、経済的問題)そして僕たち医療者の経験(薬をやめたら発作が再発してしまった事例を過去に経験したなど)もエビデンスになり得るのです。

「エビデンスが役に立つかではなく、エビデンスを利用する自分自身が患者の役に立てるかどうかを自問することが大切だ」という僕が大事にしている言葉があります。EBMの実践で一つ明確になること、それは「次にどのようなアクションを起こせば、より良い医療を提供することができるのだろうかと言う思考」に行き着くことではないでしょうか。漫然と投与されている薬に何も疑問を持たなければ、またガイドラインや教科書の記述を鵜呑みにしていれば、おそらくこのような思考にたどり着くには、なかなか時間がかかる気がしています。

さて、次回は来年1月に配信を予定しております。新春特別企画という事で、薬物治療から少し離れ、「健診」をテーマに取り上げたいと思います。病気の早期発見が健康な生活を維持するために重要だというのが健全な考え方だと思いますが、エビデンス(医学論文や患者さんの思い)が教えてくれるのはどのような事なのでしょうか。来年もどうぞJJCLIPをよろしくお願い申し上げます。


薬剤師のジャーナルクラブ(Japanese Journal Club for Clinical Pharmacists:JJCLIPは臨床医学論文と薬剤師の日常業務をつなぐための架け橋として、日本病院薬剤師会精神科薬物療法専門薬剤師の@89089314先生、臨床における薬局と薬剤師の在り方を模索する薬局薬剤師 @pharmasahiro先生、そしてわたくし@syuichiao中心としたEBMワークショップをSNS上でシミュレートした情報共有コミュニティーです。

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