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2013年11月11日月曜日

カルシウム拮抗薬とクラリスロマイシンの併用注意を考える

これまでの「併用注意を考える」シリーズはこちら

[添付文書から分かること]
カルシウム拮抗薬で処方頻度の高いアムロジピンの添付文書には併用注意にCYP3A4阻害剤としてエリスロマイシンが挙げられており、エリスロマイシンとジルチアゼムの併用でその臨床症状はアムロジピンの血中濃度上昇という代用のアウトカムのみの記載があります。カルシウム拮抗薬はCYP3A4で代謝されることから競合的阻害がその発生機序と言われています。
このような相互作用により考えられる病態生理的な仮説は、カルシウム拮抗薬の血中濃度上昇から、低血圧が発生し、腎臓への血液灌流が悪化し急性の腎傷害が発生しやすくなる可能性があります。またクラリスロマイシン自体にも急性腎障害の副作用リスクが存在します。

「アンギオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬などの降圧剤は 腎臓の負担を取り、慢性の腎疾患の進行を抑制する良い効果があります。しかし、服用後に血圧が急速に低下し、腎臓にいく血液の量が急激に落ちることにより急性腎不全になることがあります。

(参考)クラリシッド®添付文書:急性腎不全,尿細管間質性腎炎(頻度不明)
「急性腎不全,尿細管間質性腎炎があらわれることがあるので,観察を十分に行い,乏尿等の症状や血中クレアチニン値上昇等の腎機能低下所見が認められた場合には,投与を中止し,適切な処置を行うこと」

JAMAからカルシウム拮抗薬と急性腎障害リスクに関する報告が出ました。
[カルシウム拮抗薬とマクロライド系抗菌薬の併用は安全ですか?]
【文献タイトル・出典】
Calcium-Cannel Blocker-Clarithromycin Drug interactions and Acute Kidney injury
【論文は妥当か?】
研究デザイン:カナダオンタリオ州における人口ベース後ろ向きコホート研究
[Patient]カナダの一般人口コホートからカルシウム拮抗薬(半数以上がアムロジピン:用量は中央値5mg;IQR5-10mg)を服用している高齢者(平均年齢76歳)190309
[Exposure]クラリスロマイシンとカルシウム拮抗薬の併用96226
クラリスロマイシン用法:中央値1000mg/日 10日間)
[Comparison]アジスロマイシンとカルシウム拮抗薬の併用94083
アジスロマイシン用法:中央値300mg/5日間
[Outcome]処方から30日以内の急性腎障害による入院  
(※セカンダリアウトカム▶処方から30日以内の低血圧による入院及び総死亡)
■追跡期間▶2003年~2012
■調節した交絡因子
年齢、性別、ACE阻害薬、ARBNSAIDs、経口糖尿病薬およびインスリン、利尿薬、スタチン、β遮断薬、β刺激薬、抗コリン薬、ステロイド、急性腎障害、冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患、うっ血性心不全、主要な癌の17項目で調整し多変量ロジスティック回帰分析によるオッズ比と95%信頼区間を算出
■患者背景▶ベースラインにおける主要な患者背景に大きな差異は見られなかった
【結果は何か?】
アジスロマイシン併用に比べてクラリスロマイシンでは急性腎障害による入院リスクが増加する可能性がある。同様に低血圧による入院や総死亡も増加する可能性を示唆している

アウトカム
クラリスロマイシン併用群
96226
アジスロマイシン併用群
94083
結果
調整オッズ比
[95%信頼区間
NNH
[95%信頼区間]
急性腎障害による入院
(プライマリアウトカム)
420
0.44%)
208
0.22人)
2.03
[1.722.41]
464
[374609]
低血圧による入院
(セカンダリアウトカム)
111
0.12%)
68
0.07%)
1.63
[1.212.22]
2321
[14066416]
総死亡
(セカンダリアウトカム)
984
1.02%)
555
0.59%)
1.74
[1.571.94]
231
[195284]

【結果は役に立つか?】
カルシウム拮抗薬別のサブ解析は以下の通りです。概ね薬剤間で異質性は見られずリスクは増加傾向です。アムロジピンのNNH663[4511223]となっています。またニフェジピンでは各薬剤の中でもオッズは最大となっており、そのNNH160[128205]と衝撃的な数値が出ています。
カルシウム拮抗薬
クラリスロマイシン併用
アジスロマイシン併用
オッズ比[95%信頼区間]
アムロジピン
202/507060.4%)
126/509440.25%)
1.61[1.292.02]
ジルチアゼム
63/214030.29%)
46/212070.22%)
1.36[0.931.99]
フェロジピン
17/36650.46%)
5/3191(≦0.16%)
2.97[1.098.06]
ニフェジピン
129/166440.78%)
22/15038(0.15)
5.33[3.398.38]
ベラパミル
9/3808(0.24)
9/3703(0.24)
0.97[0.392.45]
またスタチンの併用の有無や慢性腎臓病の有無でのサブ解析ではその有無にかかわらずリスク増加が示唆されています。

[結局のところどうするべきか]
比較対象がアジスロマイシンであり薬剤非併用群との比較でないことやクラリスロマイシンの用量が本邦承認用量と異なる点など注意が必要です。クラリスロマイシンは本邦での承認用量を大きく上回っていますが、薬物非併用群と比較すればリスクはさらに大きくなる可能性もあります。
絶対差を見ればそのインパクトは小さくなるかもしれませんが、クラリスロマイシンが絶対的に必要となるケースを除き、カルシウム拮抗薬との併用は避けるべきかもしれません。

警戒すべきは特にカルシウム拮抗薬の他にスタチンを服用している患者とおもわれます。クラリスロマイシンはスタチンとの併用でアジスロマイシンと併用した場合に比べて横紋筋融解症リスクや急性腎障害リスクが有意に増加するという報告があり、今回の報告を合わせて考えればカルシウム拮抗薬・スタチンを併用している患者において、その薬物相互作用リスクはとりわけ軽視できないものとなりました。
(参考)
スタチンとの併用は重要な報告と思いますので、あらためて結果のみ記載しておきます。
Statin Toxicity From Macrolide Antibiotic Coprescription:A Population-Based Cohort Study
カナダオンタリオ州における2003年~2010年までの人口ベースコホート研究で、スタチン(73%がアトルバスタチン、他にシンバスタチン、ロバスタチン)を服用中の65歳以上の患者を対象にクラリスロマイシンの投与(72591例)及びエリスロマイシンの投与(3276例)CYP阻害作用が低いアジスロマイシンの投与(68478例)とを比較して抗菌薬処方から30日以内の横紋筋融解症による入院を検討した報告です。結果は以下の通りです。

アウトカム
指標
結果[95%信頼区間]
横紋筋融解症による入院

絶対リスク
0.02% [0.01% 0.03%]
相対リスク
2.17 [1.04 4.53]
急性腎障害リスク

絶対リスク
1.26% [0.58% 1.95%];
相対リスク
1.78 [1.49 2.14]
総死亡リスク

絶対リスク
0.25% [0.17% 0.33%]
相対リスク
1.56 [1.36 1.80]
(スタチン服用患者におけるクラリスロマイシンまたはエリスロマイシンの併用によるアジスロマイシンと比較した横紋筋融解症リスク)

クラリスロマイシンの用量の問題もありますが、現時点での僕の結論を以下のように整理しておきます。

「カルシウム拮抗薬とスタチンの2剤を併用している70歳前後の高齢者ではクラリスロマイシンの併用により急性腎障害リスク、総死亡リスク増加は軽視できない。そもそも抗菌薬が必要かを前提に、ペニシリン系薬剤、でなければアジスロマイシンの代替えを提案するのも一つの方法である。」


カディエット配合錠®のような薬剤とクラリスロマイシンの併用はかなり注意が必要かもしれません。これまでの「併用注意を考える」シリーズを振り返っても特にマクロライド系抗菌薬は薬物相互作用による重大なリスクを秘めていると考えられる一方で、その処方頻度は高く、薬剤師がこの問題にかかわる意義は大変大きいものと考えられます。

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