[お知らせ]


2013年5月1日水曜日

なぜ薬剤師にEBMなのか


EBMとは個々の患者の医療判断の決定に、最新で最善の根拠を、良心的かつ明確に、思慮深く利用すること(Sackett DL et al.:BMJ,312:71,1996.)。僕は薬剤師がEBMを実践することについて、いろいろ模索を続けてきました。単にエビデンスを批判的吟味するだけでなく、それをどう用いるか、エビデンスを患者に適用する際には,エビデンス,患者の病状と周囲を取り巻く環境,患者の好みと行動,医療者の臨床経験の4つを考慮すべきである(Haynes RB, BMJ 2002;324:1350)というEBMの4要素を薬剤師の職域の中でどう臨床へ還元していけば良いのかまだまだ答えは出ませんが、少しずつ整理されてきたように思います。

僕らの世代、学部教育でEBMの方法論を学ぶ機会はほとんどありませんでした。薬学部も6年生になり、そのカリキュラムの中で、EBMについてどのような教育がなされているかわかりませんが、疑問や問題点に対してエビデンス吟味してをどう活用するか、という一連の思考過程は非常に重要だといえます。
薬剤師に必要なスキルはEBMだけじゃありませんが、ただ僕が思うのはどんなことにおいても本当に情報の真価を熟慮しなければいけないのであれば結局、原著を当たるしかないということです。情報検索、情報吟味のスキルは薬学、医学に限らず様々な分野で応用が可能です。

[医療には正解というものが存在しない。]

正解、不正解という構図を思考過程に置き換えれば、自分が正解だと思う主観的判断と、世間一般が正解だと認めている客観的判断の一致が“正解”で、その判断が「正確な判断」となるわけなのですが、医療では根本的にこのような構図は成り立たないと思います。たとえば副作用があり得る、○○%発生する可能性がある。自分の判断はこのような可能性があるとしか言えないわけです。だから○か×かで判断するような正解を求める「正しい判断」は多くの場合で非常に困難だといえるのです。副作用が有るか無いかで言えば、ほとんどが有るという答えになってしまいます。
薬学部を卒業して現場に出て、なかなか気付かない問題の一つに、答えがないということに対してどう判断を下すかということだと思います。この場合は疑義紹介するべきなのか、この併用は問題ないのか、このような状況であれば許されるのか、症状に応じて、適宜増減、併用注意…。製薬会社の学術に問い合わせると、当社としては推奨できません。報告がないためデータがありません。結局どうすればいいのか。結局、正解といえるような答えがないんです。
薬剤師国家試験は○×の正誤問題。国家試験の問題における正しい判断とは問題に対して、自分が正解だと思う選択肢を選び(=主観)それが、問題作成者が意図した選択肢(=世間一般的な共通解釈=客観)と一致すれば正解となります。ごくまれに「解無し」という問題も存在しますが、このような正解を導き出すという思考過程が正しい判断と言えます。正解を導き出すための思考過程を鍛えることで国家試験に合格し、薬剤師として現場に立つことになります。しかしながら、実際の医療現場には○や×で解決するような正解なんてないんです。正解を導き出すための“正しい判断”というものは多くの場合で困難ですが、この程度ならばまずまず「妥当」という“妥当な判断は存在します。
正解ありきで、どう判断すれば正解へたどりつけるかという思考プロセスを養う国家試験対策と、正しい判断ができない中で、どう妥当な判断へ近づくのかという現場の思考プロセスはまったく異なるもので、学部を卒業した薬剤師の多くがこのギャップに戸惑い、今まで学んだ知識をどう現場で活用すべきか迷ったり悩んだりする部分では無かったでしょうか。正解が存在する国家試験、妥当な答えしかない医療。このギャップをどう埋めるかが学部教育の課題ではないかと思います。
妥当な答えにたどりつくためにどうすればよいか、そんなトレーニングが必要なんだと感じますが、僕はEBMの手法がこの妥当な答えに近づくための有用な手段だととらえています。「妥当」な判断を下す際に「どの程度か」という定量的情報をエビデンスなり、患者さんの価値観なり、患者さんを取り巻く環境なり、医療者の経験を統合して判断していくというわけです。

[薬剤師がEBMを実践するということ]
以下はこれまでに僕が模索してきたことの現時点での結論です。薬剤師が英語の論文読んで、いったい何の役に立つのか、僕はこんなふうに活用できれば良いのではないかと思っています。

■薬物療法の安全性をより高めるためのリスクアセスメント=リスクの定量化
 薬剤の副作用や相互作用リスクに関してリスクがある、ないでいえは、多くの場合、リスクありでしょう。ではいったいどの程度かを統計的リテラシーを利用することで薬剤リスクを定量化することが僕が薬剤師のEBMとするところです。

■エビデンスを使う自分が患者の役に立てるかどうか。
 また薬が効くか効かないかを統計的観点から判断すれば多くの場合で曖昧でしょう。その曖昧さをコミュニケーションツールとしていかすところが僕が薬剤師のEBMとするところです。そのコミュニケーションの有り様を多種多様な価値観から一つの方法論として、整理することを今の課題としたいと思います。

そして薬剤師にとってエビデンスは心強い味方となってくれます。たとえば発言力において、劣勢と言わざるを得ない立場だったとしても、統計的根拠を利用することでそのインパクトは飛躍的に向上するといえます。医療というものを「正しい判断」が多くの場合で困難なものと認識し、その中で「妥当な判断」に近づくためにどうするかという思考過程の大切さを僕はEBMから学びました。

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