[お知らせ]


2013年4月24日水曜日

ランダム化比較試験とは何ぞや


僕のブログでもよく登場するランダム化比較試験。以前にこの試験に関する論文の見方を簡単にご紹介したことがあります。EBMについて(2)ランダム化比較試験論文の吟味 論文を読むという観点からまとめたつもりなので、いまいちわかりずらいかもしれません。そもそも“ランダム化比較試験”とは何ぞや、と思われる方も多いのではないかと思います。簡単に言ってしまえば、「薬の有効性について検討するための実験方法として一番妥当性の優れた研究方法」といえるのかもしれません。実際、様々なガイドラインにおいてもランダム化比較試験のエビデンスレベルは最高位に位置しています。

[ヒヤリハット件数を記録し続けることに意味はあるのか?]
調剤薬局に勤務している薬剤師の方ならお分かりいただけると思いますが、日々の日常業務において、調剤ミス(調剤過誤ではなく、薬局内での薬剤取り違えミス)をヒヤリハット事例、なんて呼んでます。“ヒヤリ”とした事例“ハット”とした事例というものを合わせて単にヒヤリハット事例なんて言っていますが、僕的にはセンスの無いネーミングだと思います。こうした事例は全国的にも分析収集され一般公開されています。
公益財団法人日本医療機能評価機構:薬局ヒヤリハット事例収集分析事業 僕自身もこのシステムへ参加をしていたこともあり、薬局内での事例収集を結構本気で取り組んでいたこともありました。ある程度規模の大きい調剤薬局企業では会社独自に事例を収集し情報共有しているところもあるかと思います。こういった取り組みは日本薬剤師会の学術大会などでポスターにまとめて発表された経験のある方も多いと思います。

僕もこういった事例収集はどんな間違えの傾向があるのかなど、一定の期間、短期的に取り組むのは有用な情報になりえると思いますが、ルーチンに毎月、件数を報告しているのはまったくもって時間の無駄だと思います。それもミスの件数のみの集計というのは、それを管理している人の自己満足に過ぎません。それに付き合わされる管理薬剤師はたまったもんではありません。まあこれは僕の主観ですが、ミスの件数の集計には意味があることなんだ、という主張をぶち破るために僕は以下のような考えを企てたことがあります。まあこの提案は半分冗談でしたし、結局採用されませんでしたが、ランダム化比較試験についてちょっと、この例をもとにその基本的な考え方をご紹介したいと思います。間違ってたらすみません。ご指摘いただければ幸いです。(※例に示した統計量は説明のために用いたもので、実際に計算して導かれたものではありません。)

[「ミスの集計に意味があるんだよ」というのは何に基づいた根拠なのか]
自分の主観的な意見で、こうすればいい、ああすればいいとかいいっている人がいますが、何を根拠にいいのか、まるきり理解不能なことがあります。何の根拠もなしにミスの集計を毎月継続することが大事なんだという主張はまったくもって理解不能です。そもそもなんのために集計しているのか、ミスの傾向を把握し、重大な過誤を未然に防ぐための集計です。そんなものは短期での集計で問題なく、薬局の採用薬剤の半分以上が入れ替わるとか、毎月人員が異動しているとか、よほどのことでないかぎり、その集計結果は変わりません。これは僕が集計して客観的な数字を自分で確かめたことなので、多分そう言えます。通常の調剤業務は毎月来局する患者層に大きな変化がない限り、安定してミスの件数も推移していきます。人員が異動すれば不慣れな分ミスも増えますが、これは、あたりまえのことなので、集計をとって、先月よりも件数が増えているから、こりゃ大変だ、会議をしなきゃ、なんて発想になるのはまったくもって時間の無駄です。こういうことを言い出す方はたいてい集計表しか見ていない人たちです。現場にいればその原因は明らかです。なのでミスの件数を毎月毎月集計して、考察をつけて報告書を出す、なんて作業を延々続けるのは時間の無駄以外の何物でもありません。それでも“意識づけに必要なことなんだ”とか、“ミスが増えないのはこの取り組みのおかげだ”と言い張る人のために、以下のような検証実験をしてみたらいいと思います。

[ミスの集計という取り組みは有効か?]
この方法で本当に検証できるかわかりませんし、以下の事例は仮想事例です。あくまでランダム化比較試験のイメージが伝わればよいかなと思っています。

[仮想事例]あなたは日本全国に200店舗展開する大手調剤薬局企業の一店舗の管理薬剤師をしています。店舗は慢性的な人員不足で、日々の日常業務で精いっぱい。でも丁寧に仕事をすることでこれまでに大きな過誤はおきていません。ただ忙しい業務のため、どうしてもヒヤリハット事例は数多く出てしまいます。月末の忙しいとき、上司から電話が鳴りました。今月のヒヤリハット集計が提出されていないんだけど今日中に送ってくれ…」

この忙しいときにミスの集計表だと…とキレそうになるあなたはこの取り組み自体の廃止を提案しようと試みます。頭の固い上司をどのように説得すれば良いのでしょうか。ある調査をしてみることにしました。

[取り組みをした店舗と取り組みをしなかった店舗を比較する]
まず、グループ全体で200店舗もある会社なので、そのヒヤリハット集計データも膨大です。そのために、そこから20店舗をランダムに選び、その20店舗をさらにランダムに2つのグループに10店舗づつわけます。グループAの店舗群はヒヤリハット集計を継続します。グループBの店舗群はヒヤリハット集計の取り組みを完全に廃止します。そして、調剤過誤の件数を比較するのです。

200店舗→20店舗→ヒヤリハット集計を継続する10店舗(グループA)
ヒヤリハット集計を中止した10店舗(グループB)

なぜランダムに振り分けるのか、店舗ごとに薬剤師のレベル(たとえば勤続年数など)や処方箋枚数が異なり、たとえばグループAに処方箋枚数がやたら少ない店舗が偏ったり、ベテラン薬剤師が偏ったりすれば、ヒヤリハット集計の取り組みとは別の要因で調剤過誤の件数に影響が出てしまうからです。ランダムに振り分ければこのようなばらつきは理論上平均化されてフェアな比較ができるというものです。評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に効果を検証するにはこのランダム化がキーポイントになります。ランダム化されていない試験は、その試験そのものに偏りがあり、結果の評価に大きく影響を及ぼす可能性があるのです。

この実験の概要は以下のような感じです。
どんな対象▶企業全体200店舗からランダムに抽出した20店舗のデータ
どんな介入▶調剤ミスは従業員間で情報共有したうえに調剤ミスの件数をひたすら記録し、その数を集計し考察を付け加えるヒヤリハット集計レポートを毎月作成
何と比べて▶丁寧に仕事をして、調剤ミスは従業員間で情報共有する。特に集計はしない
何を評価するか▶実際に発生してしまった調剤過誤件数とその発生割合

グループを2つに分けて6ヶ月間ほど実験を続け各グループの調剤過誤件数と処方箋件数で割った過誤の発生率を求めます。結果は以下のようになりました。あくまで仮想ですよ。実際に半年で過誤が10件は多いですよね…。

■グループA:過誤の発生件数▶10/9200件(0.10%)
■グループB:過誤の発生件数▶14/9300件(0.15%)

グループA、すなわち集計を継続していた店舗群では取り組みをやめた店舗群に比べて
0.15%0.10%0.05%件数割合が減ったことになります。この差を絶対差といいます。
また相対的には0.1/0.150.67でグループAの過誤件数割合はグループBに比べて67%であり、その件数割合は33%も減少したことになります。

この結果をまとめて、ヒヤリハット集計の継続は取り組みをしない場合に比べて、33%の件数の割合を減らすことができました。これはすごい取り組みです!なんて称賛するのはまだ早いです。そもそも絶対差はたった0.05%ですから…。

[結果の数値は偶然でないといえるのか?]
■グループA:過誤の発生件数▶10/9200件(0.10%)
■グループB:過誤の発生件数▶14/9300件(0.15%) [P=0.54]
この結果が偶然でないといえるのでしょうか。たまたまこのような結果になっただけだ、と突っ込みたくなりますが、ここで有意差という言葉が登場します。”有意差あり”を簡単にいえば「偶然という確率はあまりにも低い」です。ちなみに偶然という確率は経験的に0.05、すなわち5%といわれています。有意差をP値と表しますが、P≦0.05と表記されれば、その結果は偶然ではないといえるのです。この有意差、実際にはt検定なるものを行い統計的計算を行うのですが、僕にはこのあたり全く理解していないのでここではふれませんが、有意差の意味を知るだけで、2つの数値の差に意味があることなのか判断できるという意味で大変重要な値です。仮にこの0.10%0.15%という結果においてP=0.54という結果が導かれたとするならば、この結果の差は偶然である確率が54%ということになり、もはやコインを放り投げて裏か表が出る確率と同等みたいなことになっているのです。

[たかだか20店舗の結果がはたしてグループ全体に当てはまるのか?]
200店舗すべてを調べるわけにはいかないのでそこから20店舗分のデータを抽出したわけですが、このサンプリングしたデータの結果がはたしてもとの200店舗すべてに言えることなのかという突っ込みも期待できます。
ここで95%信頼区間という言葉が登場します。
■グループA:過誤の発生件数
10/9200件(0.10%:95%信頼区間0.06%~0.20
■グループB:過誤の発生件数
14/9300件(0.15%:95%信頼区間0.07%~0.18
[P=0.54]
95%信頼区間は最小値~最大値という範囲で示されますが、いったい何の範囲かというと、20店舗で得られた結果が200店舗全体に当てはめた時、はたしてどの程度のずれが生じるのか、そのずれ幅を示しています。このずれ幅の範囲の中に真の値が95%の確率で存在しますよ、ということになります。厳密な定義とは異なるかもしれませんが、サンプリングされた限られたデータの平均値から母集団の真の値を類推すると、こんな感じの範囲ですというものを示しています。この結果でいえばグループBは大きく見積もると0.18%、グループAも大きく見積もると0.2%、どうでしょう、取り組みを継続したグループAで過誤の割合が増えてしまいました。

ランダム化比較試験は医薬品の有効性を検討するうえで大変重要な試験デザインです。ランダム化比較試験とその結果の解釈方法が分かればある程度論文を読み進めることができます。ある程度その概要がつかめたら試験の批判的吟味を行うことで結果の妥当性をより細かく評価することができます。EBMについて(2)ランダム化比較試験論文の吟味

たとえがあまり良くなかったかもしれませんが、ランダム化されているか、比較対照は何であったか、結果は何か、その結果は偶然ではないか、その結果は母集団を反映しているのか(95%信頼区間)、薬学部教育でもあまり触れられてこなかった部分だと思います。ご参考になれば幸いです。

2013年4月22日月曜日

健康診断、その現象学的考察


一般的に物の考えや主観的なものは人それぞれですが、物理的存在は客観的にみても存在することが「常識的」に認識されているので人による味方に違いはないと考えられます。でも本当にそう言えるのでしょうか。
内田樹氏によれば、「私たちにとって自明と思えることは、ある時代や地域に固有の「偏見」にほかならない。私たちは自分達が思っているほど自由に主体的に物を見ているわけではない」と述べられています。(内田樹:寝ながら学べる構造主義)
「主観」と「客観」は一致するのでしょうか。フッサールの現象学はどんな物理的事象もそのすべてを客観的にみているようで、実際には見ていないかもしれない。ものごと客観的な事実から成りたっているのではなく、個人ごとに自分の経験や考え方、などから実存的に生まれてくる個人ごとの世界から成りたっていると言えるのではないか。と疑問を投げかけます。

健康診断を例に考えてみます。多くの人が健康診断を受けるということは健康で生きるためにあたりまえだと認識しています。そして健康診断を受けることで、より健康的な生活を手に入れられると認識しています。健康診断を受けることが正しい判断だと考えています。その認識の根拠はいったい何でしょうか。病気が早期に発見できるからかでしょうか?では、早期発見できるということが健康な生活につながるという明確な根拠があるのでしょうか。このような確信はどこから生まれるのでしょうか?

ヒトはごく当たり前のことを疑うということをあまりしません。たとえば「現実世界」を疑う余地もないという見方で認識しています。目の前にあるもの、手に触れた感触、視界に入る世界。でも実は僕らが見ている「夢」の中でも同じ体験をしているはずだとおもいます。今、現実だと認識していこの世界が「夢」ではないする根拠は何でしょうか。その根拠は客観的に明確には規定できませんが、この世界は夢じゃないという確信がヒトにはあります。フッサールはこの確信の根拠について「内在」という概念を用いています。

たとえば今目の前にリンゴがあったとします。目の前のリンゴははたして本当にリンゴなのか、幼児の時から無批判に受け入れてきた先入観を排除し、真理に至るために、一旦全てのものを疑うというデカルト的思考に従えば、リンゴは果てしなくリンゴでないものとしてみることが可能です。たとえば木でできた置物であるとか、ガラス細工であるとか。では実際に食べてみたらどでしょうか。僕らが知覚しているリンゴの味と同等のものであれば、それはリンゴであり、たとえ最新の科学技術で作られた合成リンゴであろうとも、その味覚を感じた時点ではリンゴとして認識されます。この時点では見た目がリンゴで「リンゴの味」さえすれば、それがリンゴでなかろうと、“リンゴではないと疑う根拠を失う”ということです。「ひょっとしておいしくなかった」という問いはあり得ないのです。こういったリンゴとしての意味や満たされた思いを内在と表現していますが、この内在こそがある事象の「明証性」を根拠づけているといいます。

「明証性」とは世の中の諸事象に対する自然な信憑性(確信)の底辺を支える根本であるといいます。(竹田青嗣:現象学入門) 意識の「内在」こそが対象事象を疑う動機の限界を意味づけ事象に対する人の明証性を根拠づけているのです。

健康診断の血液検査や尿検査等により目に見えるデータとしての臨床検査値、そしてその値が、基準値と大きく逸脱していないか、データに異常がないという、そこから得られる内在としての安心感。これが健康診断を正当化する根拠であるといえるかもしれません。医学的に「異常の無いデータ」がもたらすこの「内在」が健康診断を行うことが大切であるという明証性を生み出しているような気がします。でもこの臨床検査値、客観的なデータに基づく物理的事象をみていると考えがちですが、臨床検査知そのものが恣意的です。ある数値である現象が起こりやすい可能性が高まるという境界をヒトが恣意的に線引きしたに過ぎません。臨床検査データをみたその瞬間ではそれ以上でもそれ以下でもないということかもしれません。疑う余地を残しているものを内在と対比して超越と呼びますが、この臨床検査値のようなものから得られる事象は超越と呼べるのかもしれません。

実際に健康診断は有用なのでしょうか。昨年のコクラン、Cochrane Database Syst Rev. 2012 Oct 17;10:CD009009 PMID 23076952 では14のランダム化比較試験のメタ分析で、健康診断を受診した群は受診しなかった群に比べて総死亡、心血管死亡、癌死亡は同等であったというかなり衝撃できなものでした。総死亡に対するハザード比は0.9995%信頼区間0.95 1.03)となっており、検診を受けることの有用性を見いだせないような結果になっています。
ランダム化比較試験のメタ分析、その内的妥当性は侮れませんが、外的妥当性というものを考えた場合、このメタ分析の結果をどうとらえるべきなのでしょうか。僕は有効性については「少なめに見積もる」という認識から、この文献を読んだ当時、健康診断で人は死亡を先送りできない可能性があると結論しました。誰も病気で苦しむ前に早く見つけて、症状が出ないよう、苦しむことの無いよう、健康に生きたい、そう思うはずです。だから健康診断で異常がないか、早期に発見し、症状が進行する前に治療を受けたい。そう思うものです。外的妥当性とういう観点から、健康診断の実効性を評価した日本人を対象にした観察研究をみてみます。結果は死亡は減るという結果でした。

Participation in health check-ups and mortality using propensity score matched cohort analyses

■全原因死亡
男性▶調整ハザード比:0.74 (95%信頼区間0.62-0.88)
女性▶調整ハザード比:0.69 (95%信頼区間0.52-0.91)

また定期健診を10年受け続けることで死亡がへるという報告もありました。

Relationship between the achievement of successive periodic health examinations and the risk of dying. Appraisal of a prevention scheme.

良い、悪いといった判断や評価をとりあえずカッコにいれ、思考をリセットするプロセスは現象学では「判断停止=エポケー」と言いますが、このような思考過程はしばしば重要です。人はごくごく当たり前のことととらえているものに、疑問を持つことがなかなか難しいといえるからです。健康診断がすべての人に有用なことなのか、エビデンスが教えてくれるのはこれが限界ではあります。ただそのエビデンスの結果をすべての患者に当てはめようとするのではなく、患者個人個人が意識の底に有する健康診断に対する「内在」というものを大事にしながら、健康診断で人は幸せになれるのか、こういった疑問を大事にしていきたいと考えています。

2013年4月19日金曜日

健康食品関連文献集


[注意]これまでに個人的に読んだ健康食品あるいはその主成分に関する臨床研究の文献です。批判的吟味をしていませんのでその解釈に十分注意してください。詳細に関しましては原著論文参照していただくことをお勧めします。なお誤り等ありましたら、ご指摘いただければ幸いです。

健康食品の検索はこちらが便利です→健康食品データベース

■循環器、内分泌

[ナットウキナーゼの降圧効果]
Effect of Nattokinase on Blood Pressure:A randomaized Controlled Trial
Hypertens Res.2008 Aug;31(8):1583-8PMID:18971533
デザイン:DB RCT
患者:平均年齢46.5歳~47.6歳の収縮期圧が130mmHg159mmHgの患者86
介入:ナットウキナーゼカプセル12000FU
対照:プラセボ
評価:8週後の収縮期圧及び拡張期圧
結論:8週後の血圧変化量はE群でC群に比べて有意に低下する

[ラクトトリペプチドの降圧効果]
Engberink MF,Schouten EG,Kok FJ et al Lactotripeptides show no effect on human blood pressure: results from a double-blind randomized controlled trial
Hypertension.2008 Feb;51(2):399-405. PMID:18086944
デザイン:DB RCT
患者:降圧治療を受けていないオランダ人135
介入:ラクトトリペプチド14mg
対照:プラセボ
評価:8週後の収縮期圧
結論:降圧効果に明確な差はない

[ウコンに含まれるクルクミンの糖尿病への効果]
Curcumin extract for prevention of type 2 diabetes.
Diabetes Care.2012 Nov;35(11):2121-7 PMID:22773702
デザイン:DB RCT
患者:糖尿病前段階の基準を満たした240例の患者(平均年齢569歳~57.9
介入:クルクミンの投与(250mgカプセルを16カプセル分2
対照:プラセボ
評価:ADAAmerican Diabetes Associationガイドラインによる2型糖尿病の発症
結論:糖尿病前段階においてクルクミンの介入は糖尿病発症抑制に有効

[リコピンと脳血管疾患との関連]
Serum lycopene decreases the risk of stroke in men A population-based follow-up study
Neurology.2012 Oct 9;79(15):1540-7. PMID:23045517
デザイン:コホート研究
患者:フィンランドにおける、46歳から65歳の男性1031
暴露:血清リコピン濃度高値
対照:血清リコピン濃度低値
評価:全脳卒中、虚血性脳卒中
結論:リコピンの高い血清濃度が脳卒中および虚血性脳卒中の危険を減少

■認知症

[大豆イソフラボンの認知機能への効果]
Long-term soy isoflavone supplementation and cognition in women: a randomized, controlled trial.
Neurology.2012 Jun 5;78(23):1841-8PMID:22665144
デザイン:DB-RCT
患者:45歳~92歳の閉経後女性350
介入:大豆タンパク25
対照:牛乳タンパク
評価:認知機能の変化
結論:認知機能に影響しない

[イチョウ葉エキスの認知機能への効果]
Ginkgo biloba for preventing cognitive decline in older adults: a randomized trial
JAMA.2009 Dec 23;302(24):2663-70PMID:20040554
デザイン:DB RCT
患者:平均年齢79.1歳、正常認知機能を有する2587人とMCI患者482
介入:イチョウ葉エキス120mg12
対照:プラセボ
評価:Modified Mini-Mental State Examination (3MSE)の経時変化、Alzheimer Disease Assessment Scale (ADAS-Cog),、記憶力,注意力,視覚空間構成能力,言語能力,実行機能のZスコア
結論:MCIの有無にかかわらず,イチョウ葉エキスは高齢者の認知機能低下に影響を及ぼさない

Ginkgo biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial.
JAMA.2008 Nov 19;300(19):2253-62 PMID:19017911
デザイン:DB RCT
患者:平均年齢79.1歳、正常認知機能を有する2587人とMCI患者482
介入:イチョウ葉エキス120mg12
対照:プラセボ
評価:全認知症およびアルツハイマー型認知症の発症
結論:イチョウ葉エキスの投与で認知症への進行抑制効果は認められない

Long-term use of standardised ginkgo biloba extract for the prevention of Alzheimer's disease (GuidAge): a randomised placebo-controlled trial
Lancet Neurol.2012 Oct;11(10):851-9. PMID:22959217
デザイン:DB RCT
患者:記憶に関する訴えを有する患者70歳以上の患者2854
介入:イチョウ葉エキス120mg 12
対照:プラセボ
評価:アルツハイマー型認知症への進展
結論:アルツハイマー病の進行リスクを減らすことはできなかった。

Effects of Ginkgo biloba in dementia: systematic review and meta-analysis
BMC Geriatr.2010 Mar 17;10:14. PMID:20236541
デザイン:メタ分析(非RCTも含む9研究)
患者:試験に参加した2373
介入:イチョウ葉エキス
対照:プラセボ
評価:認知機能の変化スコアのSMD
結論:認知機能の変化スコアのSMDはイチョウ葉エキスで有意に改善

[DHAの認知機能への効果]
Docosahexaenoic Acid Supplementation and Congnitive Declin in Alzheimer Disease
JAMA.2010 Nov 3;304(17):1903-11 PMID:21045096
デザイン:DB RCT
患者:MMSEスコア1426の軽度から中等度のアルツハイマー型認知症患者402人(平均年齢76歳)
介入:DHAサプリメント2g/日の投与(サプリメントに含まれるDHA45%55%
対照:プラセボ
評価:ADAS-cogスコア、CDR(臨床的認知症尺度)
結論:DHAサプリメントで軽度から中等度認知症患者における認知機能低下の割合を減らすことはできなかった

[ω-3系多価不飽和脂肪酸の認知機能への影響]
Omega 3 fatty acid for the prevention of cognitive decline and dementia
Cochrane Database Syst Rev. 2012 Jun 13;6:CD005379. PMID:22696350
デザイン:メタ分析
患者:3研究の4080
介入:EPAやDHA等のω3系不飽和脂肪酸
対照:プラセボ
評価:認知機能低下
結論:認知症に対する有効性は不明

■泌尿器

ノコギリヤシの下部尿路症状への有効性
Effect of increasing doses of saw palmetto extract on lower urinary tract symptoms: a randomized trial
JAMA. 2011 Sep 28;306(12):1344-51. PMID:21954478
デザイン:DB RCT
患者:下部尿路症状を有する45歳以上の男性369人(平均年齢60.1歳)
介入:ノコギリヤシ抽出物(最大320mg
対照:プラセボ
評価:米国泌尿器科学会症状指標スコアの変化
結論:プラセボとの明確な差は無し

■癌

[大豆イソフラボンと肺癌との関連]
Soy Food Intake and Risk of Lung Cancer: Evidence From the Shanghai Women's Health Study and a Meta-Analysis
Am J Epidemiol. 2012 Nov 15;176(10):846-55  PMID:23097255
デザイン:メタ分析(観察研究)
患者:中国の上海における健康女性71550  
暴露:イソフラボン摂取量高
対照:イソフラボン摂取量低
評価:肺癌発症
結論:大豆食品の消費量は、非喫煙者女性におけるの肺がんリスクを減らす

■変形性関節症

[コンドロイチンの変形性関節症への有効性]
Meta-analysis: chondroitin for osteoarthritis of the knee or hip.
Ann Intern Med. 2007 Apr 17;146(8):580-90. PMID17438317
デザイン:メタ分析(RCT,RCT 20研究)
患者:股関節、膝関節の変形性関節症患者3846
介入:コンドロイチン
対照:プラセボ又は無治療
評価:変形性関節症の痛みの度合い
結論:明確な有効性確認できず。漫然日常的にと投与することは推奨されない

[グルコサミンの変形性関節症への有効性]
Effect of Glucosamine on Pain-Related Disability in Patients With Chronic Low BackPain and Degenerative Lumbar Osteoarthritis: A Randomized Controlled Trial
JAMA. 2010;304(1):45-52. PMID20606148
デザイン:DB RCT
患者:6か月以上の腰痛症および腰部OA25歳以上の患者250
介入:1500mg/日 経口グルコサミン
対照:プラセボ
評価:RMDQで測定された痛みの度合い
結論:慢性腰痛症および腰部OAを持った患者で、プラセボに対する経口グルコサミン投与群の6か月の治療は、疼痛軽減に関連せず

[コンドロイチン+グルコサミンの変形性関節症への効果]
Effects of glucosamine, chondroitin, or placebo in patients with osteoarthritis of hip or knee: network meta-analysis.
BMJ. 2010 Sep 16;341:c4675. PMID:20847017
デザイン:ネットワークメタ分析(10研究)
患者:膝や股関節の変形性関節症を有する3803
介入:グルコサミン、コンドロイチンの単独または併用
対照:プラセボ
評価:関節痛への効果VAS
結論:プラセボに比べ関節痛を減少させる効果や 関節腔の狭小化を防止する効果は 統計学的に有意差なし

■骨粗鬆症
[大豆イソフラボンの骨密度への影響]
Soy isoflavones in the prevention of menopausal bone loss and menopausal symptoms: a randomized, double-blind trial.
Arch Intern Med. 2011 Aug 8;171(15):1363-9PMID:21824950
デザイン:DB-RCT
患者:閉経の5年以内で腰椎や股関節の骨密度Tスコアが-2.0以上の45歳~60歳の女性
介入:大豆イソフラボン錠220mg
対照:プラセボ
評価:2年後の骨密度変化、更年期症状の変化
結論:骨量の減少や更年期症状の進行を防ぐことはできない。

2013年4月15日月曜日

誰も教えてくれなかった、健康食品の考え方使い方


に続きます。

[健康食品のあいまいさ]
これまでに2つの仮想症例の中で、血圧に対する健康食品や物忘れ予防に対する健康食品を例に挙げ、有効性の評価を臨床研究に基づいたエビデンスを用いて、その情報の考え方と使い方を模索してきました。実際に健康食品というものを扱う場合は、この症状には、こういった健康食品がお薦めです、という思考過程ではなく、その症状そのものに対してどう向き合うかという思考過程に切り替えることが大切だと思います。病気と診断される前の段階で、気になる症状があるものの医療機関へ受診するほどではない、とか将来病気にならないように、という思い、このような主観的な情報を一つの「現象」として捉えることが必要です。そもそも病気と診断される前の段階での症状やあるいは今現在症状が無いものに対して医薬品ですらその有効性がよくわからないものが多いわけであって、健康食品に関して言えば、エビデンスに基づく客観的データなんてほとんどあいまいで、おおよそ役に立つものは少ない印象です。最後にウコンを含む健康食品やノコギリヤシを例にその客観的データのあいまいさを考えてみます。

[ウコンとノコギリヤシ]
ウコンはショウガ科に属する熱帯性植物で、原産地はインド、中国、台湾、西インド諸島などと言われているそうです。天然の黄色色素のクルクミン(Curcurmin)はカレー粉の香りの原料としても知られています。ウコンを使用した健康食品は様々な効果が期待されており、その臨床応用も興味深いものがあります。主成分のクルクミンはアルコール飲料の飲みすぎから生じる胃腸障害への有効性や、その抗炎症効果から変形性関節症への効果[1][2]や潰瘍性大腸炎への効果[3][4]、も期待されています。アルツハイマー型認知症に対する有効性も期待されているようですが、明確な根拠はないようです。[5] このウコンに含まれるクルクミンですが、驚くべきことに糖尿病発症抑制効果も示唆した、なかなか妥当性の高いランダム化比較試験があります。

【文献タイトル・出典】
Curcumin extract for prevention of type 2 diabetes.
【論文は妥当か?】
試験デザイン:ランダム化比較試験
[Patient]糖尿病前段階の基準を満たした240例の患者(平均年齢569歳~57.9BMI26.6 HbA1c5.8、高血圧既往の割合67%~70%)スタチンや血糖降下剤、ARBACE阻害薬を服用している等の患者を除外
[Exposure]クルクミンの投与(250mgカプセルを16カプセル分2119
[Comparison]プラセボ116
[Outcomn]ADAAmerican Diabetes Associationガイドラインによる2型糖尿病の発症
■患者背景は同等か?▶両群に統計的有意差なし。
■盲検化されているか?▶2重盲検
intention-to-treat解析されているか?▶されている
■サンプルサイズは十分か?
▶有意差5%、統計検出力80%を達成するためのサンプルサイズは各群117例で全体で234例。
■追跡期間▶9カ月
■追跡率▶98.7%(237/240人)
【結果は何か?】
2型糖尿病の発症はクルクミン投与群で0人、プラセボで16.4% P値<0.001
【結果は役に立つか?】
糖尿病前段階においてクルクミンの介入は糖尿病発症抑制に有効かもしれないと結論しています。割と明確に結果が出ていて、この文献は衝撃的でした。ただ、クルクミンの投与量は、市販の健康食品に含まれる量をはるかに上回る量が使用されています。ウコンサプリメントから症状改善に期待される十分な量のクルクミンを摂取することはおそらく不可能でしょう。だからと言ってウコン健康食品を大量摂取することは、他の成分による有害事象の恐れもあり全く推奨できません。

このように、ある食品に含まれている主成分で症状の改善効果が期待できるという報告があったとしても、その投与量は、はたして市販の健康食品と同等の量なのかということも重要なポイントです。多くの場合健康食品そのものを対象としたデータは臨床試験自体が無いものも含め、有効性はほとんどがあいまいか、臨床効果はわずかに期待できる程度、と言えます。食品なのですから、当たり前と言えば当たり前なのですが。これで明確に効果があるなら医薬品になっているでしょう。

ノコギリヤシの有効性というのも、これもあいまいなエビデンスでした。2011JAMAです。全文フルテキストで読めます。

Barry MJ,et al Effect of increasing doses of saw palmetto extract on lower urinary tract symptoms: a randomized trial.JAMA. 2011 Sep 28;306(12):1344-51. PMID:21954478

45歳以上の男性369人(平均年齢60.1歳)に対して、ノコギリヤシ抽出物はプラセボとくらべて下部尿路症状の症状スコア改善に明確な差がないという、なかなか妥当性の高いランダム化比較試験です。症状スコアはプラセボでも低下しており、もはや健康食品じゃなくてプラセボでも十分みたいなことになっています。

[健康食品をどう取り扱うべきか…今後の課題]
では、結局、効果の期待できない健康食品はあまり意味がないので患者さんに勧められるものなんて、何もないんじゃないか…ということになってしまいますね。健康食品の客観的データも基づけば、その結果があいまいすぎて、これは摂取するに値しないただの高価な食品になってしまいます。この症状にはこの健康食品がお薦めです、という思考回路は多くの場合で客観的なデータの前に否定されることになってしまいますね。では僕ら薬剤師は健康食品をどう取り扱えば良いのでしょうか。
これは僕自身も模索段階で、以下に示す内容は、今後も修正を加えていかなければ、いけないと考えていますが、現段階での課題を探りながら、この話題のまとめに入ります。

EBMはしばしば客観的データに基づく量的なアプローチと考えられていますが、これは大きな誤解です。医療者の経験的なものや、患者さんの思い、それを取り巻く環境も含めて臨床判断することが大切です。医薬品も含めてエビデンスは多くの場合であいまいで、これのみを実際の現場に適用するには無理があることの方が多いと感じています。今回の仮想症例の様に、薬剤師が健康食品を用いた健康相談において、エビデンスを活用する際は、病気の診断がつく前の段階という、あいまいな現象を、健康食品というさらにあいまいなものを用いて考えいくわけで、客観的データ(臨床検査値や健康食品のエビデンスデータ)はその判断材料の一部ととらえることを前提にしないと、これはエビデンスの押し付けになってしまい、健康食品なんて意味がない、気になるなら、病院へ行ってください、という一方向の答えしか導き出されません。このような状況を打開するために僕は主観的情報をより考慮に入れた質的アプローチが重要であると考えています。患者さんの訴えや症状という現象そのものを捉えていくこと。そして健康食品は選択肢の一つであり、現象そのものを解決する完璧な手段にはなり得ないということを前提に、その現象をどう構造化していくかが僕の今後の課題です。

[終わりに]
3回にわたり健康食品の考え方使い方をまとめてきました。その過程で、だいぶ思考の整理ができた気がします。結局答えは出ませんでしたが…ここまで長々書いてきて落ちは無し、みたいな。ごめんなさい。薬学部教育の中で健康食品をどう扱えばよいか、誰も教えてくれなかった気がします。でも薬剤師にとって健康食品の取り扱い方は重要な職能の一つです。だれも教えてくれなかった健康食品の考え方使い方、EBMの手法を用いることでその解決の糸口を探してきました。僕自身まだまだ理解できていない部分が多すぎるこの分野ですが、この3回のエントリで、健康食品の取り扱いについて考えることに関して、ほんの少し、そのお手伝いができたら幸いです。
あらためて健康食品のエビデンスを探すと、以外にも多くの報告があり、少し驚いています。今回は情報検索というところに説明は加えませんでしたが、ご紹介したエビデンスは全てpubmedwww.pubmed.gov)の「clinical queries」を使用して検索しています。まずは気になる健康食品のエビデンスを読むことから始めると、以外にも面白い研究が見つかるかもです。僕もそうですが、英語が苦手な方は、グーグル翻訳を同時に立ち上げて、これにコピーペーストするか、グーグルクロームというブラウザを使うと、自動で翻訳してくれたりします。めちゃくちゃな訳になってしまうこともありますが、文章を細かく区切ると、案外わかりやすく訳してくれることもあります。薬剤師が実践するEBMにおいて重要な領域である健康食品の取り扱いは今後もいろいろと考えていきたいと思います。

[引用文献]
[1] Inflammopharmacology.2013 Apr;21(2):129-36PMID:23242572
[2] J Altern Complement Med.2009 Aug;15(8):891-7PMID:19678780
[3] Cochrane Database Syst Rev.2012 Oct 17;10:CD008424. PMID:23076948
[4] Clin Gastroenterol Hepatol.2006 Dec;4(12):1502-6PMID:17101300
[5] Alzheimers Res Ther.2012 Oct 29;4(5):43. PMID:23107780

2013年4月14日日曜日

イチョウ葉エキスで物忘れは改善できますか?



[仮想症例]
あなたはドラックストア勤務薬剤師です。夜も10時を回ったころ、品出しに一生懸命なあなたに、以下のような患者さんが声をかけてきました。
50代女性。「うちの母が最近物忘れが多くなってきているように感じるんだけど、本人は病院には行きたくないって言うんです。物忘れにイチョウがいいとか聞いたことがあるんですが、どうでしょうか」今現在ご本人80歳近くになるのに病院にもかかっていなくてそのほか健康に気になっているところはないそうです。

これは難しいテーマです。

[認知症の前段階]
認知症の原因は主にアルツハイマー型認知症によるものが多いですが、そのほかには脳血管性認知症やレビー小体型認知症などがあります。軽度認知機能障害Mild cognitive impairmentMCI)は認知症の全段階といわれており、記憶力は低下しているが、他の認知機能障害はあらわれておらず、日常生活にも支障をきたしていないという状態をいいます。コリンエステラーゼをこの段階で使用しても明確な効果は分からないというメタ分析があります。

Russ TC,Morling JR. Cholinesterase inhibitors for mild cognitive impairment.

MCIの時点での医薬品による介入はあまり意味がない可能性が高い、ということは前提知識として抑えていおきたいポイントです。また認知症の進行を抑えるということは認知症の経過が長くなることを意味しており、ベースラインでの認知機能や薬剤介入、患者さんの環境や価値観なども含めて慎重に検討しなくてはいけません。

[イチョウ葉エキスは認知機能を改善するのか]
イチョウ葉エキスは、イチョウの葉からフラボノイドやテルペノイド等の有効成分を抽出したもので、特に脳血管循環の改善効果を示唆する報告があることから認知症への効果が期待されています。まずは2009年に報告されたイチョウ葉エキスが加齢に伴う認知機能低下を抑制できるかを検討したランダム化比較試験を見ていきます。
【文献タイトル・出典】
Ginkgo biloba for preventing cognitive decline in older adults: a randomized trial
【論文は妥当か?】
試験デザイン:ランダム化比較試験
[Patient] 72歳から96歳の3069人(平均年齢79.1歳、男性54%、通常の認知機能を有する2587人とMCI患者482人)
除外された患者は、ワーファリンを服用中認知機能の障害や認知症のためにコリンエステラーゼ阻害剤を服用中(メマンチンは研究当時承認されていない)三環系抗うつ剤、抗精神病薬、または重大な精神または中枢性コリン作用を有する薬剤を服用中ビタミンE400IU以上の服用出血性疾患の既往過去10年以内にうつ病治療で電気けいれん療法による入院;パーキンソン病の診断または抗パーキンソン薬を服用肝機能検査の結果または血清クレアチニンから甲状腺異常が疑われる人低いベースラインビタミンB12低ヘマトクリット値イチョウ葉エキスにアレルギーを有する人。
[Exposure]イチョウ葉エキス120mg12回投与(1545人)
[Comparison]プラセボ1524
[Outcomn]Modified Mini-Mental State Examination (3MSE)の経時変化
Alzheimer Disease Assessment Scale (ADAS-Cog),
▶記憶力,注意力,視覚空間構成能力,言語能力,実行機能のZスコア
■患者背景は同等か?▶同等
■盲検化されているか?▶2重盲検
intention-to-treat解析されているか?▶されている
■サンプルサイズは十分か?▶
■追跡期間▶6.1
■追跡率▶99.9%(3069/3072人)
【結果は何か?】
Zスコアの結果は以下の通り(イチョウ葉エキスvs プラセボ)
▶記憶力:0.043;95% CI 0.034-0.051 vs 0.041;95% CI, 0.032-0.050
▶注意力:0.043;95% CI, 0.037-0.050 vs 0.048;95% CI, 0.041-0.054)
▶視覚空間構成能力:0.107;95% CI, 0.097-0.117 vs 0.118;95% CI, 0.108-0.128)
▶言語能力:0.045;95% CI, 0.037-0.054 vs 0.041;95% CI, 0.033-0.048),
▶実行機能:0.092;95% CI, 0.086-0.099 vs 0.089; 95% CI, 0.082-0.096).
いずれも有意な差はありませんでした。またさらに、3MSEADAS-Cogの変化率においてもMCIの有無にかかわらず有意差は認められませんでした。

【イチョウ葉エキスは認知症発症を抑制できるか】
JAMA2009年の報告はMCIの有無にかかわらず,イチョウ葉エキスは高齢者の認知機能低下に影響を及ぼさない可能性が高いという結論でした。この報告がJAMAに掲載される1年前にも同じ被験者を対象としたイチョウ葉エキスに関する報告が同じくJAMAにありました。こちらは2009年の報告と全く同じ患者を対象に認知症の発症がイチョウ葉エキスで抑制できるかどうかを検討しています。
Ginkgo biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial.
論文のPECは先ほどのランダム化比較試験と同様です。アウトカムは全認知症およびアルツハイマー型認知症の発症を検討しています。結果は
■全ての認知症:ハザードリスク1.12 (95% CI, 0.94-1.33; P = .21)
■アルツハイマー病:ハザードリスク1.16 (95% CI, 0.97-1.39; P = .11).
とイチョウ葉エキスの投与で認知症への進行抑制効果は認められませんでした。むしろ増加傾向にあったという結果です。
さらに2012年にランダム化比較試験がLancet Neurol.報告されています。ここでは簡単に論文を確認していきます。
【文献タイトル・出典】
Long-term use of standardised ginkgo biloba extract for the prevention of Alzheimer's disease (GuidAge): a randomised placebo-controlled trial
【論文のPECOと結果】
試験デザイン:ランダム化比較試験
[Patient]フランスにおいてプライマリケア医を受診した記憶に関する訴えを有する患者70歳以上の患者2854
[Exposure]イチョウ葉エキス120mg 12回群1414
[Comparison]プラセボ1406
[Outcomn]少なくとも1回分の治験薬またはプラセボを投与された登録者のアルツハイマー病への転換

追跡期間5年において、アルツハイマー病の診断はイチョウ葉エキス群:61人(1.2/100人年)、プラセボ群:73人(1.4/100人年)
▶ハザード比:0.84, 95% CI 0.601.18; p=0·306
有害事象は
■死亡:イチョウ葉エキス群:76人 プラセボ群:82
ハザード比:0.94, 95%CI 0.691.28; p=0·68
■脳卒中:イチョウ葉エキス群:65人 プラセボ群:60
リスク比1·12, 95% CI 0·771·63; p=0·57
出血性イベントや心血管系イベントも両群で有意な差はないものの、プラセボと比較して、イチョウ葉エキスの長期使用は、アルツハイマー病の進行リスクを減らすことはできなかったという結論でした。

[結局のところイチョウ葉エキスは効果があるのか]
ここで複数の臨床試験をまとめて分析したメタ分析の論文を見てみます。
Weinmann S, Roll S, Schwarzbach C et al Effects of Ginkgo biloba in dementia: systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr.2010 Mar 17;10:14. PMID:20236541
12週~52週、イチョウ葉エキスを用いた9つの臨床試験を統合しています。認知機能の変化スコアのSMDは、-0.58,95%信頼区間-1.14; -0.01, p = 0.04)プラセボに比べてイチョウ葉エキスが有意に改善しているようですが、その差はごくわずかです。また日常生活動作においては明確な差はなかったとしています。SMD = -0.32, 95% 信頼区間0.66; 0.03, p = 0.08。この論文の結論としてはイチョウ葉エキスはプラセボに比べて有効かもしれないとしていますが、研究間の異質性が高いことや、元論文がランダム化されていない試験も含まれており、メタ分析としての妥当性もあまり高くないようです。

これらの臨床試験の結果から、「軽度認知機能障害あるいは通常の認知機能を有する高齢者において、イチョウ葉エキスが認知症やアルツハイマー型認知症の発症を抑制するかどうか不明で、さらに認知機能の低下を訴える患者においてもその進行を抑制するかどうかもわからない。ただ明確な有害事象は少ない可能性が高い」ということがいえるかもしれません。イチョウ葉エキスは健康食品であり食品として取り扱うべきで、イチョウ葉エキスが認知症症状を改善したり、進行を遅らす効果はほとんど期待できない可能性が高いと思われます。

[物忘れが多いという相談にどう対処すべきなのか]
物忘れが気になって…、医療機関を受診すべきかどうか…、冒頭述べましたようにMICに対するコリンエステラーゼ阻害薬は明確な効果は不明です。また認知症と診断された状態において薬剤で進行を抑制することが本当に患者にとって良いことなのか、難しい問題です。(参考)病気の早期介入というものを考える
これまで3つのランダム化比較試験と、1つのメタ分析を見てきました。イチョウ葉エキスの有効性は明確には規定しがたい。これが僕の結論です。認知機能はスコアでの評価が主体なので、これは人によっては効果があるかもしれませんが、どの程度か、可能性としては低いと考えられます。ただ、イチョウ葉エキスが効くかどうかということよりも患者さんの満足度を考慮したいと思います。いつも思いますが、エビデンスは判断材料の一つでしかありません。エビデンスを用いること、これは、単にこの症状にはこれがお薦めです、みたいな思考停止からの脱却と、患者さんとのかかわり方を模索するうえでとても重要なアクションだと考えてています。