[お知らせ]


2013年1月13日日曜日

抗インフルエンザ薬を服用するということ


本邦におけるインフルエンザウイルス感染症の薬物治療ではオセルタミビルをはじめとするノイラミニダーゼ阻害薬と呼ばれる抗インフルエンザ薬が高頻度で処方されます。近年ではラニナビルという吸入剤の使用も認可され、従来からあるザナミビルと通常、外来で使用可能なノイラミニダーゼ阻害薬は3種類となっています。

ノイラミニダーゼとはインフルエンザウイルスの表面に存在し、宿主細胞内で産生された複製ウイルスの、細胞からの遊離を可能にするといわれています。ノイラミニダーゼを阻害する抗ウイルス薬は新しく形成されたウイルスの感染細胞からの遊離を阻害することにより、ウイルスの増殖を抑制作用を示すとされています。C型インフルエンザにはノイラミニダーゼが存在しないため、ノイラミニダーゼ阻害薬はA型とB型インフルエンザウイルス感染症にしか適応を持ちません。またウイルスが細胞の外に出てくるのを阻害しているだけで、ウイルスそのものを不活化する作用はないので、インフルエンザの臨床症状が改善した後も、インフルエンザウイルスは、しばらく、排泄が続き、感染源となりえます。

さてそのノイラミニダーゼの効果について昨年のコクランシステマテックレビューを読み返してみました。

Neuraminidase inhibitors for preventing and treating influenza in healthy adults and children.Cochrane Database Syst Rev. 2012 Jan 18;1:CD008965.

全ての年齢層におけるインフルエンザ患者に対するノイラミニダーゼ阻害薬(オセルタミビル、ザナミビル)の効果をランダム化比較試験のメタ分析で検証しています。対象となった研究は25研究です。そのうちオセルタミビルが15研究、ザナミビルは10研究でした。

インフルエンザ様症状緩和までの時間はプラセボ群で160 時間(125 192 時間)でオセルタミビルの投与で21時間 (95%CI-29.5 to -12.9 hours, P < 0.001;n=5)短縮するという結果でした。しかしながら入院リスクを検討した7研究の解析ではオセルタミビルで入院リスクは減らせませんでした。OR0.95; 95% CI 0.57 to 1.61, P = 0.86
ザナミビルの関しては十分なデータがそろわず解析できなかったとしています。

統合した研究は25研究ですがデータ不足で除外された研究が42研究もあり、その影響も軽視できないとされているようです。

インフルエンザの症状で特徴的な高熱はアセトアミノフェン等で緩和されます。通常、NSAIDsはライ症候群等のリスクと関連があるとして、使用しません。オセルタミビルでは約1日弱、インフルエンザ症状を緩和を早めるという結果ですが、アセトアミノフェンでは熱に対する症状はすぐに実感できると思います。

ノイラミニダーゼ阻害薬である抗インフルエンザ薬が必要かどうか、さまざまな議論がされておりますが、なかなか難しい問題だと思います。オセルタミビルやザナミビル、ラニナビルは副作用だってありますし、飲まなくてもインフルエンザが重篤することは稀です。しかしながら私自身、処方されたらやはり服用すると思いますし、インフルエンザの辛い症状が1日長引かないというアウトカムは重要なのかもしれないと思います。今、とりあえず症状を緩和したければアセトアミノフェンのほうが効果的かもしれません。

これらのインフルエンザ治療薬はインフルエンザウイルスそのものに対する抗体の産生を抑制し、インフルエンザに感染しやすくなるということも指摘されています。このコクランのアブストラクトにもオセルタミビル群でインフルエンザと診断された数が少ないことが示されています。OR 0.83; 95% CI 0.73 to 0.94, P = 0.003;n=8その理由として抗体反応によるものと記載があります。

オセルタミビルがインフルエンザの症状を21時間ほど早くおさめるなら、重症化を防止するかどうかはわからなくても再度感染しやすくなったとしても、多少副作用があったとしても「飲みたい」という人はいるのだと思います。私もそうかもしれません。当然基礎疾患、背景リスクを十分考慮しなくてはいけませんが、そのリスクベネフィット…。抗インフルエンザ薬を服用するかどうかという構造そのものが、薬を飲むべきかどうかという構造の分かりやすい例だと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿