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2012年11月16日金曜日

フルオロキノロンのついてのまとめ


私は感染症の専門家でもなく抗菌化学療法の専門家でもないただの薬剤師ですので薬剤の専門的な部分はその専門家にお任せしたいところですが、プライマリにおいて最低限知っておいたほうがよさそうな内容を最近の研究結果を踏まえてまとめてみたいと思います。なにせ素人がまとめていますので誤り等あればご指摘いただければ幸いです。
 
フルオロキノロンは肺炎球菌に対する活性がよいため呼吸器感染症に用いることが多いと思います。大腸菌にも効果があるため尿路感染症に用いることも多いでしょう。さらに腸内細菌をカバーするため消化管感染症にも用いることも多いです。黄色ブドウ球菌や緑膿菌への効果はシプロフロキサシンが期待できます。なんだか、何でもかんでもキノロンが効くので、なんでもキノロンで治療できるような万能抗菌薬みたいな感じですよね。安易なキノロンの使用で大腸菌のキノロン耐性化が進んでいることもまた事実です。さらに薬剤には当然副作用があります。その詳細は後ほどまとめますが、まずはキノロンの臨床的効果を最新の論文から見ていきましょう。
 
呼吸器感染症での使用頻度は非常に高いと思われますが、実際に本当にキノロンでないとだめなのでしょうか。抗菌スペクトラム云々は専門の方に解説をお願いしたいと思いますが、ひとつ興味深い報告があります。
Moxifloxacin versus amoxicillin/clavulanic acid in outpatient acute exacerbations of COPD: MAESTRAL results.
Eur Respir J. 2012 Jul;40(1):17-27
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22135277
この研究はCOPD患者を対象とし、細菌感染によるCOPD増悪時にモキシフロキサシンとアモキシシリン/クラブラン酸を比較して治療8週時点での臨床的治療失敗を検討した多施設共同ランダム化二重盲検非劣性試験です。per protocol解析ではモキシフロキサシンは、アモキシシリン/クラブラン酸に非劣性という結果でした。この結果から思うのはレスピラトリーキノロンとまで言われているモキシフロキサシンですらアモキシシリン/クラブラン酸とほぼ同等の効果ということで、あらためてアモキシシリン/クラブラン酸の効果が見直されるべきだと感じます。感受性の問題さえクリアされればモキシフロキサシンはファーストでの使用になりえない。というのが個人的な印象です。

次に使用頻度が高いのがやはり尿路感染症でしょうか。先のモキシフロキサシンは尿路移行性が低いため尿路感染症には使用されません。本邦においては尿路感染症にキノロン系抗菌薬が大変多く投与されているといわれています。過去6カ月におけるフルオロキノロンの使用が耐性獲得のための危険因子であることも指摘されています1)したがって尿路感染症=キノロンという思考停止は少々問題かもしれません。キノロン以外の選択肢を考慮したいところです。小児へのエビデンスですが、なかなか興味深いです。
Antibiotic Prophylaxis and Recurrent Urinary Tract Infection in Children
N Engl J Med 2009; 361:1748-1759

尿路感染症に 1 回以上感染したことがある 18 歳未満児を対象にトリメトプリム・スルファメトキサゾール懸濁液とプラセボを比較しています。アウトカムは、細菌学的に確定された症候性の尿路感染症の発症です。ランダム化比較試験で統計解析はITT。低用量スルファメトキサゾール・トリメトプリムの長期投与は,再発の可能性がある小児において尿路感染症の発生数の減少と関連しましたが、治療効果は大きくはないという結論でした。
hazard ratio 0.61; 95% CI 0.40 to 0.93
ST合剤は感受性を考慮したうえで治療選択の一つとして考慮されるべきかもしれません。

キノロンの長期投与はやはり副作用の観点からもできれば短期にとどめたい。そんな観点から投与日数は慎重に決定せねばなりません。ランダム化比較試験で腎盂腎炎に対するシプロフロキサシンの7日投与と14日投与を比較して臨床治癒率に大きな差は無いという結果が出ており2)投与期間の短縮の可能性が示唆されています。

さてプライマリで遭遇する単純性膀胱炎対してはどうなのでしょうか。やはりキノロンを使用すべきでしょうか。
Cefpodoxime vs Ciprofloxacin for Short-CourseTreatment of Acute Uncomplicated Cystitis.
JAMA. 2012;307(6):583-589
http://jama.ama-assn.org/content/307/6/583.abstract

急性単純性膀胱炎の女性患者300人を対象に急性膀胱炎へセフポドキシムがシプロフロキサシンより劣っていないかどうかを調査した非劣性・無作為化二重盲検試験です。3日間治療後30日の臨床的治癒率でセフポドキシムの非劣性は示されませんでした。やはりキノロンは尿路感染症ではかなり有効のようです。

キノロンは尿路感染症にはかなり有効なイメージですが、漫然投与はやはり副作用という観点から問題です。心血管系副作用は添付文書にも記載があるとおりですが、実際どの程度なのでしょうか。
Fluoroquinolones and the Risk of Serious Arrhythmia: A Population-Based Study
Clin Infect Dis. (2012) 55 (11): 1457-1465. doi: 10.1093/cid/cis664
http://cid.oxfordjournals.org/content/55/11/1457.abstract

キノロンと重篤な不整脈のリスクをコホート内症例対照研究で評価した報告です。重篤な不整脈の発症はフルオロキノロンの使用に上昇しました。
RR = 1.76; 95% confidence interval [CI], 1.19–2.59
特に新規使用で不整脈リスク上昇しています。RR = 2.23; 95% CI, 1.31–3.80
薬剤別では
■ガチフロキサシン :RR = 7.38; 95% CI, 2.30–23.70
■モキシフロキサシン:RR = 3.30; 95% CI, 1.47–7.37
■シプロフロキサシン:RR = 2.15; 95% CI, 1.34–3.46
という結果でした。安易な使用は思わぬ落とし穴を産みそうです。一見キノロンとは関係なさそうな副作用リスクとの関連も指摘されています。

Oral Fluoroquinolones and the Risk of Retinal Detachment
JAMA. 2012;307(13):1414-1419. doi: 10.1001/jama.2012.383
http://jama.ama-assn.org/content/307/13/1414.short
コホート内症例対照研究でキノロンの使用と網膜剥離リスクについて調べています。
経口フルオロキノロン使用は非使用例に比べ網膜剥離進展ARR4.595CI 3.565.70)という結果でした。

さらに呼吸器感染症で安易にキノロンを使用すると
Fluoroquinolone exposure prior to tuberculosis diagnosis is associated
with an increased risk of death
Int J Tuberc Lung Dis 2012;16:1162-7 
http://www.ingentaconnect.com/content/iuatld/ijtld/2012/00000016/00000009/art00006

結核診断前のキノロン暴露が死亡リスクに関連するという衝撃的な論文です。結核診断6か月以内前にフルオロキノロン接触を調査しています。プライマリーアウトカムは、結核診断時と結核治療中における死亡の混合エンドポイント。結核診断前フルオロキノロン暴露による死亡リスクはOR 1.82, 95%CI 1.05-3.15と衝撃的です。

キノロンには抗結核作用があるため、呼吸器症状に使用する場合は結核が除外できていることが大前提となります。
 薬剤性肝障害も重要です。キノロンとの関連を報告した文献はこちらです。
Fluoroquinolone therapy and idiosyncratic acute liver injury: a population-based study
CMAJ. 2012 Oct 2;184(14):1565-1570.
http://www.cmaj.ca/content/early/2012/08/13/cmaj.111823
クラリスロマイシンの急性肝障害による入院を1とすると
モキシフトキサシン:adjusted OR 2.20, (95%CI 1.213.98)
レボフロキサシン :adjusted OR 1.85, (95% CI 1.013.39)
シプロフロキサシン:adjusted OR 1.56, (95% CI 0.95.2.58)
Cefuroxime     :adjusted OR 1.43, (95% CI 0.72.2.83)
モキシフロキサシン、レボフロキサシンはクラリスロマイシンに比べて急性肝障害による入院が有意に上昇という結果でした。

このようにキノロンの有害事象は軽視できないものが多く、そのリスクは十分考慮されるべきだと思います。最後に重症感染症への使用はどうでしょうか。重症敗血症に関連した臓器機能不全への治療効果をモキシフロキサシン+メロペネム、メロペネム単独を比較して検証したランダム化比較試験があります。

Effect of empirical treatment with moxifloxacin and meropenem vs meropenem on sepsis-related organ dysfunction in patients with severe sepsis: a randomized trial
JAMA. 2012 Jun 13;307(22):2390-9.
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=1163895
しかしながら臓器機能不全 [SOFA] scoresで両群に有意な差が出ませんでした。

こうみるとモキシフロキサシン、細菌感染症におけるCOPD増悪にアモキシシリン/クラブラン酸と同等でしかも不整脈リスクが高くさらに尿路感染症にも使えない、重症敗血症への追加投与も微妙・・みたいな結果になってしまいましたが抗結核作用が比較的強いようです。3)4)モキシフロキサシンはむしろ結核治療のオプションとしての利用価値のほうが高いのではないかと思います。

何でもかんでもキノロンという思考停止は思わぬアウトカムを生みかねません。そのリスクベネフィットを十分考慮する必要があります。近年マイコプラズマがマクロライド耐性となりキノロンの使用が増えているといわれているようですが、これもまた大きな問題かもしれません。そもそもマイコプラズマ全例に抗菌薬投与が必要なのかという問題は重要です。マイコプラズマはそもそもその死亡リスクは低いといわれています。5)そのため全例に抗菌薬が必ずしも必要とはいえません。基礎疾患のある患者、ハイリスクな患者、マクロライドで症状が悪化するなどのケースではキノロンを使うべきかもしれません。

 
[参考文献]

1)J Antimicrob Chemother. 2011 Mar;66(3):650-6.
2)Lancet. 2012 Aug 4;380(9840):484-90
3)Lancet. 2009 Apr 4;373(9670):1183-9.
4)Lancet. 2012 Sep 15;380(9846):986-93
5)Chest. 1989 Mar;95(3):639-46.

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