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2012年11月2日金曜日

EBMについて(6) コホート研究と症例対照研究


症例対照研究(ケースコントロール研究)は後ろ向き研究です。全ての事象がおこってしまった後に過去にさかのぼって解析を行います。ある疾患を発症した患者と発症していない患者について過去にさかのぼり危険因子に暴露されていたかどうかを調査します。
  コホート研究は前向きに調査します。危険因子のある群と無い群がその後、ある疾患を発症するかどうか検証します。
  いずれも観察研究に分類されランダム化比較試験の様な介入研究ではありません。症例対照研究では以下のバイアスに注意する必要があります。

1)    測定バイアス・・過去の事実を調べていく過程でその情報の確実性が低くなる可能性があります。

2)    サンプリングバイアス・・ケース群とコントロール群を選び出す過程で発生するといわれています。一番の問題は対象疾患の生存者のみを解析しているため、その疾患による死亡は解析対象から外れている点です。そのために年齢・性別等でマッチングを行ったり、追跡中のコホートの対象患者で症例発症後に解析するコホート内症例対照研究などは交絡因子が排除され信頼性が高いといわれている。

  一方コホート研究では症例対照研究に比べてサンプリングバイアスが少ないといわれていますが調査費用や前向き追跡のため膨大な時間がかかるなどのデメリットがあります。ちなみに後ろ向きコホート研究というのは一見すると症例対照研究と似ていますが、たとえば症例対照研究が現在の疾患に対してリスク因子を過去にさかのぼり調査するのに対して後ろ向きコホートは過去の疾患に対してリスク因子を現在に向けて調査していきます。時間軸でみて過去にさかのぼるのが症例対照研究。現在から未来が前向きコホート、過去から現在が後ろ向きコホート、ざっとこんなイメージで良いかと思います。

コホート研究ではまれな疾患ではその評価が困難であるといわれています。発生頻度がまれであるため、アウトカムの検出力が不足するためです。症例対照研究ではすでにまれな疾患を発症した患者が対象となるので、こちらはまれな疾患向きのデザインといえます。ただ集めてきた患者を抽出する時点で先ほど述べましたサンプリングバイアスや、過去の事実の確実性に関する測定バイアスが生じる可能性があります。

  観察研究では患者背景がランダム化比較試験のように2群間で均一ではありません。ベースライン背景の影響を極力小さくするために最近では傾向スコア(プロペンシティスコア)なるものを使用して患者背景を補正する手法も取り入れられています。具体的には統計解析の項目に「propensity score-adjusted」等と記載があります。

  この2種類の研究デザインでは、おもに薬剤の有害事象に関する評価をする際に汎用されます。ここで実例を出しながらその試験デザインを見てみたいと思います。

Oral bisphosphonates and risk of cancer of oesophagus, stomach, and colorectum: case-control analysis within a UK primary care cohort
BMJ2010;341:c4444
http://www.bmj.com/content/341/bmj.c4444
  この論文は経口ビスホスホネート剤と食道がんリスクを調べた症例対照研究(ケースコントロール研究)です。使用したデータはUK General Practice Research Databaseコホートを使用しています。すなわちコホート内症例対照研究です。食道がん患者2954人、胃癌患者2018人、大腸がん患者10641人のそれぞれの「症例」を抽出し、それに対して「対照」は1人の「症例」に対して5人の「対照」を割り当てました。測定バイアスへの対応として年齢・性別等でマッチングしたと記載があります。プライマリアウトカムはアルコール・喫煙・BMIで補正した食道癌・胃癌・大腸癌の発生リスクです。
ビスホスホネート使用群では食道癌リスクが有意に増加しました。
relative risk 1.30, 95% confidence interval 1.02 to1.66; P=0.02
特に平均5年の使用でリスクが増加するとあります。RR 2.24, 1.47 to 3.43

ではもう一つコホート研究の例です。
Exposure to Oral Bisphosphonates and Risk of Esophageal Cancer
JAMA. 2010;304(6):657-663.
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=186382

使用したデータベースはUK General Practice Research Databaseです。ここで、お気づきかもしれませんが先ほどのBMJの論文と対照データベースが同じです。対象患者は41,826人、81%が女性で、平均年齢70歳です。この患者をビス剤群4.5年、非ビス剤群4.4年追跡して胃癌・食道癌の発生頻度を調査しています。約4年半前向きに調査しているわけです。

ビス剤服用群では、116名が胃癌又は食道癌を発症(うち79名が食道癌)
ビス剤非服用群では、115名が胃癌又は食道癌を発症(うち72名が食道癌)
胃癌・食道癌発生リスクはビス剤服用者で非服用者に比べて
  調整ハザード比, 0.96 [95% confidence interval, 0.74-1.25])
食道癌発生リスクは同様に
  調整ハザード比1.07 [95% confidence interval, 0.77-1.49]
コホート研究では有意な差が出ませんでした。

 このように同じデータベースを使用しても研究デザインの違いで結果に差が出ることがあるということは興味深いです。4年後の癌発症頻度がごくまれであると仮定すればコホート研究は妥当ではないのかもしれません。BMJの症例対照研究はコホート内症例対照研究であり測定バイアスも小さいといえます。「有効性は疑いの目で厳しく吟味し,副作用は不確かでも考慮する」というのが臨床的立場であると考える私はやはり症例対照研究の結果を受け止めたいと思います。

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