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2012年10月11日木曜日

EBMについて(4) PROBE法という試験デザイン


PROBEとはProspective Randomized Open Blinded-Endpointの頭文字をとっています。日本語に訳すと、「前向きランダム化オープンエンドポイント盲検化試験」というところでしょうか。通常のランダム化比較試験はプラセボ効果等のバイアスを最小限に抑えるために2重盲検という手法が使用されます。医師も患者もどの治療に割り当てられておるか分からなくすることで、情報の信頼性・妥当性を上げるのです。ただこの方法では介入の仕方によっては限界も生じます。たとえばスタチン等のコレステロール低下薬の介入を考えてみましょう。実薬群、プラセボ群を2重に盲検したとしても、治療期間中の検査結果で、実薬群は明らかにコレステロール値が下がってきます。盲検化していても検査値を見ればどちらが実薬群か医師は容易に判断がつくのです。本来であれば検査値まで盲検化することで情報の妥当性を上げることができますが、検査値は患者の健康を大きく左右する貴重なデータのために、主治医に隠すをいうことが難しいのかなとも思います。プラバスタチンの日本人に対する大規模臨床試験MEGAstyudy Lancet 2006;368:1155PROBE法が採用されています。

 もうひとつ、そもそもプラセボ効果が臨床上にどのような影響を与えるのかという問題があります。プラセボ効果まで含めて実臨床では治療が行われている実態を反映させるべきという意見もあるようです。

このように盲検化には限界があるということ、プラセボ効果まで評価するべきかもしれないということ、このような問題点を解決したのがPROBE法です。PROBE法はオープンラベルですので、医師も患者もどの群に割りつけられているかあらかじめ知っています。ではどのように結果の妥当性、信頼性を確保しているかというと、試験のエンドポイントの評価をブラインド化しているのです。患者がどちらに割りつけられたかわからない第3者がアウトカムを評価しバイアスを制御しているのです。

ただこのPROBE法においては、評価に向いているエンドポイントとそうでないエンドポイントがあります。まず、死亡というエンドポイントでは客観的にだれが見ても判断できる使用であり、オープンラベルでもまず問題のないエンドポイントといえます。しかしながら、医師の判断によるエンドポイント、患者の希望的感情が入り込みそうなエンドポイントはオープンラベル試験ではバイアスの入る余地が十分にあります。

もう少し詳細にお話ししますと、たとえば、心不全を評価する時、心不全による入院というエンドポイントを設定することがありますが、これはどうでしょうか。

入院というアウトカムは医師の臨床判断で行うことになります。また入院したいという患者の思いは試験に大きく影響することは明白でしょう。このような状況で極端な話ですが、プラセボ群に割りつけられた患者が、やっぱり心配だから入院したい、とか、症状がそれほどでもないが、プラセボだし入院させとくかみたいな医師の判断が無いともいえないわけです。要するにPROBE法では死亡等のハードエンドポイントで評価しないとバイアスが入り込む余地が生まれてしまうので注意が必要です。特に“入院”のエンドポイントはナンセンスです。

PROBE法を用いた日本人を対象とした大規模研究にはJIKEY HERT studyLancet, 2007 April 28;369:1431-1439  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=17467513

がよく取り上げられます。3081人の日本人を対象に従来治療群と従来治療にバルサルタンを上乗せした群を比較し、心血管イベントが減るかどうかを検証したPROBEデザインのランダム化比較試験です。ITT解析もされています。プライマリエンドポイントはHR0.61(0.47-0.79)という結果でした。かなり良い結果が出ています。

 PROBE法ではエンドポイントに注意が必要なのは先ほど述べました。この試験のプライマリエンドポイントは複合心血管イベントです。個々のエンドポイントを確認してみると、「脳卒中、TIAによる入院、心筋梗塞、うっ血性心不全による入院、解離性大動脈瘤、血清クレアチニン倍化、血液透析導入」 というアウトカムの複合体です。問題は脳卒中、TIAによる入院とうっ血性心不全による入院というアウトカム。ここには先ほど述べたとおりかなりバイアスが入り込む余地があるのです。さらにこの試験のエンドポイントごとの結果を確認すると「入院」のエンドポイントには有意差が付いているが、その他のエンドポイントや死亡には有意差がついていないという結果です。

 もうひとつ最近報告されたJ-MELODIC試験Circulation journal 2012;76(4):833-42 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=22451450 この試験は慢性心不全患者にアゾセミドとフロセミドを比較したランダム化比較試験でPROBEデザインです。エンドポイントは「心血管死またはうっ血性心不全による予期せぬ入院」です。アゾセミドはフロセミドに比べ有意にエンドポイントを改善したとあります。HR:0.5595%信頼区間:0.32-0.95,P=0.03) ここでもうお分かりかと思いますが、エンドポイントに入院が含まれています。個々のエンドポイントを確認すると

■心血管死:HR0.64 95%CI 0.24-1.67

■うっ血性心不全による予期せぬ入院HR0.53 95%CI 0.30-0.96

と入院には有意差が付いているものの、心血管死には有意差が付いていなく結果も入院のエンドピンとに大きく引きずられているのがお分かりいただけるでしょう。

以上のようにPROBR法では入院などのソフトエンドポイントではバイアスが入り込む余地があり結果の解釈に注意が必要です。

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