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2012年10月22日月曜日

アルツハイマー病と薬物療法について


※アルツハイマー病の薬物治療に関して個人的に勉強した内容をまとめてみました。引用文献に偏りがあるかもしれませんが、誤った解釈などあればご指摘いただければ幸いです。

 アルツハイマー病は、本邦において脳血管性認知症、レビー小体性認知症と並び頻度の多い認知症です。その原因としては遺伝的素因(家族性アルツハイマー病)や喫煙1)糖尿病や耐糖能異常2)や生活習慣等が挙げられています。意外なところで高圧電線というファクターも報告されています。3)高齢化が進む本邦ではアルツハイマー病を含む認知症とどう向き合うかは大きな問題です。アルツハイマー病はここ最近その発症が増加傾向にあるといえます。高齢化が大きなファクターだとは思いますが、どの程度増加しているかといいますと、平成8年から平成20年の12年で約124)だそうです。ちなみに認知症疾患治療ガイドライン2010
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html
でもアルツハイマー病は増加しており、本邦の65歳以上の高齢者における認知症有病率は3.8%~11.0%との記載があります。
  アルツハイマー病の症状は初期段階では物忘れや漠然とした体調不良、外出がおっくうになる等の症状が出ます。進行性の病気ですので、病状が進行するにつれて様々な障害が出てくるようになります。思考や判断能力の低下、言動及び行動の異常等が現れ、歩行障害、失禁等が現れ、日常生活が困難になってきます。

 治療にはリハビリテーションや薬物療法があります。リハビリテーションでは認知機能向上は示されていません5が残存機能を高める効果が期待できます。
  基本的な薬物療法はコリンエステラーゼ阻害薬が中心となります。本邦ではドネペジルのほか、ガランタミン、リバスチグミンがアルツハイマー病に対して使用可能です。
  また作用機序の異なる薬剤としてメマンチンが使用可能です。その臨床効果はどれも明確なエビデンスに欠けているという印象があります。コリンエステラーゼ阻害薬では有効性よりも有害事象が高いという報告6がありその費用対効果はいまいちな点が否めません。またメマンチンに関してもドネペジルとほぼ同等の効果であり、さらにドネペジルと併用してもドネペジル単剤と比べて有効性に明確な差は無いとする報告もありました。7イチョウ葉エキスが有効との情報もありますが、明確な根拠はありません。89)

 アルツハイマー病の進行に伴い、精神症状が現れるケースがあります。夜間におけるせん妄は時に介護者にも負担をかけます。さらに攻撃的な状態になることもあり、このような症状に対する治療は、介護者も含めた検討が重要となります。このような攻撃性等の精神症状には抗精神病薬が使用されます。オランザピンやリスペリドンが他の抗精神病薬に比べやや優れているようですがアルツハイマー病による精神症状・攻撃性等の症状に抗精神病薬を用いるのは有害作用によりその有効性が相殺されてしまうという報告もあります。10)またアルツハイマー病を含む認知症精神症状に対する抗精神病薬の投与は死亡リスクに関連するという報告11)12)や心筋梗塞リスク増加に関連13)という報告もあるのでそのリスクベネフィット、またアルツハイマー病の真のアウトカムというものを熟慮したうえで使用を考慮すべきなのかなと思います。

抗精神病薬の効果がでて攻撃性が改善されたとして、死亡や心筋梗塞リスクという報告がなされている限りはあまり長期間の投与はしたくありません。どのタイミングで薬剤をやめればよいのかという疑問が生じます。アルツハイマー病の精神症状、興奮に対し 48 ヵ月間のリスペリドン投与が奏効した患者においてリスペリドンの中止は再発リスクの上昇に関連とする報告14)もあり、攻撃性改善をターゲットにした場合、やはりある程度の期間服用を続ける必要があるかもしれません。死亡や心筋梗塞というアウトカムは取り返しがつきませんが、介護者、患者本人、家庭環境、生活習慣、等多種多様な価値観の中で十分検討しなくてはいけないのだと思います。

アルツハイマー病では興奮・攻撃性のほか、逆にうつ病を発症するケースも多いといわれています。アルツハイマー病患者の31%に認められたとの報告もあります。15)このようなうつ症状に対して抗うつ薬の投与も行われます。しかし最近の報告16)ではセルトラリン及びミルタザピンでは認知症に対するうつ症状にその有効性が確認できなかったとしています。一方で、認知症に対する抗うつ薬エスシタロプラムの投与中止でうつ症状が悪化するという報告17)もあり抗うつ薬の種類によりその効果に違いがある可能性もあります。

 本邦では漢方製剤による治療もおこなわれています。代表的な薬剤がアルツハイマー病の周辺症状に対する抑肝散です。アルツハイマー病の精神症状に有効であり抗精神病薬が減量できる可能性が示唆されています。18)

 アルツハイマー病における薬物治療はなかなか明確な効果を示す薬剤に乏しく、その治療は現状では難しいといわざるをえません。症状の改善を期待するというよりは症状の進行を遅らすという面に重きが置かれている状態です。近い将来、明確な効果を有する薬剤に期待したいところです。

[参考文献]
1)  Am J Epidemiol. 2007 Aug 15;166(4):367-78
2)  Neurology. 2011 Sep 20;77(12):1126-34.
3)  Am J Epidemiol. 2009 Jan 15;169(2):167-75.
4)  厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/suiihyo20.html
5)  Cochrane Database Syst Rev.2003;(4):CD00326
6)  Cochrane Database Syst Rev. 2012 Sep 12;9:CD009132
7)  N Engl J Med 2012; 366:893-903
8)  JAMA. 2008 Nov 19;300(19):2253-62
9)   The Lancet Neurology, Early Online Publication, 6 September 2012
10N Engl J Med 2006; 355:1525-1538
11) ancet Neurol. 2009 Feb;8(2):151-7. Epub 2009 Jan 8
12) JAMA. 2005;294(15):1934-1943
13) Arch Intern Med. 2012 Mar 26
14) N Engl J Med 2012; 367:1497-1507
15) JAMA.2002;288(12)1475-1482
16) Lancet;2011 378: 403, July30
17) BMJ 2012;344:e1566
18) Progress in Neuro-Psychopharmacology & Bioiogical Psychiatry 2009; 33: 308-11

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