[お知らせ]


2012年10月14日日曜日

薬剤師が摂食・嚥下障害へどう関わるか


認知症やパーキンソン病あるいは脳梗塞後遺症、加齢等、さまざまな要因で嚥下が障害され摂食が難しくなります。ADLの低下した高齢者にとって食事は最後まで残存する機能です。最後まで安全に経口摂取を続けるために嚥下障害への対応は急務であると考えています。具体的に摂食・嚥下障害とはどのようなものなのでしょうか。
摂食・嚥下は健常者では無意識のうちに以下の5期を経て行っています。
1)    先行期(認知期)
食事をするペースを作り出します。一回に口腔内に入れる食物の量や、食べるスピードを無意識に決めています。ここが障害されると明らかに口腔内に入りきらない量をほおばったり、まだ咀嚼中にも関わらず、口腔内に食物を立て続けに入れようとしてしまいます。脳の機能障害がこのような状況を引き起こします。
2)    準備期(咀嚼期)
噛んで飲み込めるような状態を作ります。口腔内に入れた食物の水分や硬さのなどを食物に合わせて決めていきます。
3)    口腔期 咀嚼された食物が口腔にある状態です
4)    咽頭期 食物が口腔から咽頭に移動します
5)    食道期 咽頭から食道に移動し胃に向かいます。

摂食・嚥下障害とはこの先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期のいずれかに障害が見られる状態を指します。そしてこの摂食・嚥下障害は様々な問題を引き起こします。
具体的には、誤嚥による誤嚥性肺炎あるいはそのまま食物がつまり窒息
食物がうまく摂取できないことは低栄養や水分摂取もままならないことから脱水もきたします。そしてなにより食べる楽しみの喪失です。

嚥下障害がみられる患者には特徴があります。一見してその危険を察知するのもとても有用だと思います。たとえば薬局等の外来において、その人が嚥下障害を起こしそうな人であれば、薬剤の服用は難しいかもしれませんし、誤嚥性肺炎、窒息リスクの高い患者であることが予想されます。摂食嚥下障害の患者を早期に薬局外来でスクリーニングできれば、専門の歯科医師等にコンサルすることが可能です。

では具体的な特徴をあげていきます。もちろんこれが当てはまれば必ず障害があるというわけではありません。疑いを持つことで患者へのアプローチが変わればいいのかなと思います。
1)    目が覚めていて意思疎通がとれるか。
2)    普通に深い呼吸ができるか
呼吸のペースで嚥下しやすさが変わります。息を吐いてから飲み物を飲むのは難しいですよね。ビールを飲む時を思い出してください。息を吸って止めている間に飲み、飲み終わってから「プハー」っと息を吐き出しますよね。
3)    異常にやせていないか
栄養不良や筋力低下が懸念されます。
4)    異常な円背は無いか
背中が曲がって頭を正面に向ける姿勢、言葉では伝わりにくいですが、前かがみになり、顎を正面に向けて突き出してみる姿勢とでもいうのでしょうか。そのような状態で水を飲んでみれば、いかに誤嚥リスクが高いかわかります。
5)    首は普通に動くか
くびの筋肉に力が入っていると嚥下しにくいのです。常に首の筋肉が硬直し普通に動かない患者は要注意です。姿勢をのけぞらせて頭を後ろに反らせ、くびの筋肉がプルプルしている状態で水を飲んでみればお分かりいただけるでしょう。
6)    声は普通に出るか
これは咳が出るかどうかでも確認可能です。声帯が完全に閉じないと咳が出ません。声帯は気管支の入口にあり、これが閉じていると誤嚥しにくいのです。声が出ないということは声帯がうまく機能していなく、気管支への入口に常に隙間があいている状態、食物が流れ込みやすい状態といえます。
7)    普通に喋れるか
「パ」「タ」「カ」がうまく言えない人は舌がうまく動かない可能性があります。飲み込む時下が動かないと、上を向き重力で食物を流し込むような感じになります。水を口にためて、下を動かさずに飲み込んでみてください。上を向かないと飲み込めないし、それがとても誤嚥リスクになるということが実感できます。
8)    よだれが垂れていたり、痰はひどくないか
9)    口は普通にきれいか

スクリーニングテストもあります。
参考http://www.tama-irount.com/information/dysphagia/6.html

反復唾液嚥下テスト( repetitive saliva swallowing test , RSST
拇指と中指で甲状軟骨をさわり30秒間に何回空嚥下できるかを測定します。3回未満では異常と判断されます。通常健常者は5回~6回といわれています。

*改訂水飲みテストmodified water swallow test : MWST.
冷水3mlを口腔底に注ぎ嚥下させます。さらに2回の反復嚥下を行い以下の評価基準が4点以上なら最大2回施行を繰り返します。もっとも悪い点数を最終評価とします。
評価基準
1:嚥下なし、and/or むせる and/or 呼吸切迫
2:嚥下あり、呼吸切迫
3:嚥下あり、むせるand/or 湿性嗄声
4:嚥下あり、呼吸良好、むせない
54に加え、追加嚥下運動が30秒以内に2回可能

*食物テスト
茶さじ1杯のプリンを舌背前部に置き食べさせます。嚥下後2回の反復嚥下を行い以下の評価基準が4点以上なら最大2回施行を繰り返します。もっとも悪い点数を最終評価とします。
評価基準
1:嚥下なし、and/or むせる and/or 呼吸切迫
2:嚥下あり、呼吸切迫
3:嚥下あり、むせるand/or 湿性嗄声 and/or 口腔内残留中等度
4:嚥下あり、呼吸良好、むせない
54に加え、追加嚥下運動が30秒以内に2回可能

咀嚼の評価では顎が左右に動いているかを確認することである程度把握できます。顎の完全なる上下運動のみでは咀嚼できないことを実感できると思います。
 

 では実際に薬剤師が、摂食・嚥下障害のある患者においてどのようなアプローチを考えていくべきなのでしょうか。当然ながら誤嚥=禁食ではないということを認識すべきです。大事なのは食べる機能と食べる食事方法がつり合っているかどうかなのです。経管のみの患者においても実際に嚥下が可能な患者は潜在的に多いかもしれない可能性があります。実際の症例ではそのような患者が存在するのもまた事実です。実際の嚥下リハビリは薬剤師の仕事ではありませんが、このような患者を把握し早期発見に努め、専門家にコンサルできる体制の確保というのが薬剤師の関わり方の一つではないでしょうか。そのためには様々な医療職、特に歯科医との連携が必要です。また薬学的な側面からいえば降圧薬はACE阻害薬を使用することで誤嚥性肺炎の予防効果が期待できるかもしれません1)シロスタゾール等も誤嚥性肺炎予防効果があります。2)また口腔ケアにおいて歯ブラシを5分続けると嚥下反射を亢進できる報告もあります。3)当然口腔ケアは肺炎リスクを減らします。4)

高齢化社会にとって摂食・嚥下障害は早急に対応すべき重要な問題です。摂食・嚥下障害に対応できるような体制を具体的にどう作るべきか模索が必要です。

[参考になるサイト]
口腔ケアについて考えるhttp://ww3.tiki.ne.jp/~y-takaya/index.htm

[参考文献]
1)Lancet 1998; 352: 1069
2)脳卒中治療ガイドライン
3)JAMA 2001; 286: 2235-6
4)Lancet 1999; 354: 515

0 件のコメント:

コメントを投稿