[お知らせ]


2012年10月23日火曜日

薬学部を目指す受験生と薬剤師を目指す薬学生へ


今回のお話は、地域医療の話題でもなく、臨床論文の話や統計の話は抜きにして、少し自分のことを書きながら、今、薬学部を目指している方や薬剤師を目指している薬学生に、何か参考になればなぁなんて思っています。本当に個人的な話なので、参考になるかどうか甚だ疑問ですが、まあ、こんな薬剤師もいるのだなと軽い気持ちで読んでいただければ幸いです。

  高校への入学は、幸いにも中高1貫校だったため、中学からそのまま進学した私は高校受験というものを経験しておらず、中学3年間で完全に怠け癖がついてしまったようです。高校1年の時、主要5科目でほとんど赤点という最悪の成績でした。その当時、大学への進学など全く考えてもいなく、将来の進路など全く意識せず、遊び呆けていました。そもそも大学とか卒業後の進路など考える前に、中間・期末ともにテストで赤点をつけてしまった私は、高校2年への進級すら危うい状況でした。当時の担任の先生のおかげで何とか期末再テストでぎりぎり挽回し無事に進級することができました。なんとか進級できた高校2年の時、友人と見に行った映画(邦画です。)のワンシーンが、大学受験を決めたきっかけの一つです。その映画の冒頭で、ある大学の講義場面がありそのシーンにくぎ付けになりました。主人公である大学の講師(教授だったか忘れましたが・・。)が講義をしているシーンで、その講義内容がとても衝撃的でした。こんな勉強してみたい!なんて思ったのが大学を意識したきっかけです。どんな内容かというとロイコクロリディウムという寄生虫のお話です。

  ロイコクロリディウムは鳥の体内で卵を産み繁殖する寄生虫でえす。産んだ卵は鳥の糞とともに排泄されます。運よく卵入りの糞が葉っぱなどに付着すると、葉っぱを食べているカタツムリにその葉っぱごと捕食されます。カタツムリに侵入したロイコクロリディウムの卵はカタツムリの消化管内で孵化してそのままカタツムリに寄生します。孵化した無数のロイコクロリディウムはやがて集合し細長いチューブ形状へと成長しカタツムリの触覚(つの?)へ移動を始めます。カタツムリの触覚は膨れ上がり脈動を始めます。そしてカタツムリ自身がこのロイコクロリディウムで膨れ上がった触覚をぐるぐる回転させるのです。さらにこの触覚は緑色に変色し、あたかも芋虫のようになります。このような状態で通常であれば日中あまり動き回らないカタツムリが日中に活動するようになります。動き回るカタツムリを空から発見した鳥は芋虫と間違え捕食します。鳥の体内へ再度ロイコクロリディウムが侵入し成虫へと成長し、そして卵を産むというサイクルを繰り替えします。

  ここで興味深いのは鳥が捕食する生物をロイコクロリディウムが認識していて(しているかどうかわかりませんが・・。)さらにロイコクロリディウム自体がそれに擬態するすべを身につけていることです。またカタツムリを操り(操っているかどうか、これもわかりませんが、そのように見えますよね!)夜行性というカタツムリの習性まで鳥が捕食しやすい昼行性へと変貌させ、何よりカタツムリの体組織の一部を乗っ取り捕食者の好物へと擬態化させるという芸当を一体どの時点で小さな寄生虫が身につけたのか。生物学の行動本能をプログラムしている遺伝子か、それとも何なのか・・。生物学や寄生虫学、分子生物学という分野、まあ当時はそのような学問があることすら知りませんでしたが、そのような分野に興味を持ったのです。

  あまりにも衝撃的で映画を観終わると、すぐさま本屋に駆け込み、原作本を手にします。そしてその著者が薬学部出身の方であることを知ります。当時薬学部がどんな学部なのか、さらに言えば薬剤師がどんな職業なのか全く分からないまま薬学部へ行こうと決めたのでした。

 しかしながら大学への進学となると、受験という大きな壁が立ち塞がっています。私の学力では完全に不可能な話でした。なにせ高校1年の内容すら理解していない私が高校2年の授業についていけるわけもなく、これはまずいと本気で考えました。とにかく授業を聞いていても時間の無駄なので、同級生が数学Aの授業を受けている間、私はひそかに数学Aの入門参考書を開き、2年生にして1年の勉強からスタートしたのでした。また薬学部の受験情報も収集しました。幸いにも受験科目に数学Cが無く、これは間に合うかも!なんて考えていました。現実はなかなか厳しかったのですが・・。

  独学にも限界があるので予備校にも行き始めました。そこで化学の講義がとても印象的で化学が好きになったのです。私はもともと文系で、特に歴史が好きで、社会人になっても歴史検定という試験を受けたり歴史小説などを読みあさっているのですが、特に物理や数学が苦手でした。(さらに英語も得意ではなかったです・・。)化学も理論化学が苦手で、参考書を開いても、全く理解不能でした。そんな中で予備校の化学の講義は私を大きく変えました。

  化学の教科書、おそらく一番最初の見開きに元素の周期律表が載っているかと思います。スイヘーリーベなんちゃら・・みたいな。そんなん覚えて何になるんだよみたいな。この周期律表を最初に作成したのがロシアの化学者、ドミトリ・メンデレーエフという人です。メンデレーエフが生きていた時代にはまだまだ未発見の元素がありました。周期律表を作成するに当たりメンデレーエフは将来発見されるだろう元素をあらかじめ予想して空欄を開けながら周期律表を完成させます。電子や陽子の組み合わせから、ここには発見されていない元素があるだろうと考え、そこを空欄にして表を作ったのです。その周期律表は現在のものとほぼ変わらないものだったというから驚きです。この講義で元素というものの性質と周期律表の関係が本当によくわかり理論化学が理解できるようになってきました。理解できるとその科目が好きになり、化学はいつの間にか唯一の得意科目となっていました。

  そんな感じでスタートした受験勉強ですが、なんとか成績も人並みまで伸び、受験はぎりぎりで薬学部に合格できました。薬学部に入ってから期待の寄生虫の話は全く出てこず、、授業への興味もあまりなかったのが正直なところです。化学は好きでしたが、大学の有機化学はもうほとんどマニアックで、これは自分には向いていないなあと勝手ながらに思っていました。そんなわけで受験勉強が終了した反動で大学時代、特に最初のころはろくに勉強もしませんでした。学年が進むと、生化学や分子生物学など興味のある科目もありましたが、薬剤師国家試験対策に追われ、受験勉強ばっかりしていた気がします。そんなわけで薬剤師という仕事自体にも特に興味を持てずにいました。

  大学4年の時、同級生が就職を決め始めていましたが、私は特に進路も決めていなく、大学院で勉強したいことも特になかったので進学も考えず、とにかく学生時代は貧乏でしたので、それなりにお給料が頂ければどこでもいいかななんて考えていました。薬剤師国家試験は無事に合格し、調剤薬局に就職しました。薬剤師になった時はそれなりに、医療とか患者さんに貢献したいという思いはありました。ただ具体的にどうすればよいかわからず、日々の業務に追われていた気がします。それなりに出世できて、まぁうまくやっていければいいかななんて考えてました。

  私の薬剤師人生が大きく変わったのはやはりEBMとの出会いだったと思います。正確にはEBMのワークショップへの参加がきっかけです。薬剤師人生はまさにここから始まったといっても過言ではないでしょう。ここではEBMについては触れませんが、薬の本当の効果を考えるようになったきっかけでした。(ちなみにEBMについてはこちらを参照してください。http://syuichiao.blogspot.jp/2012/09/ebm.html

  一般の方に薬の効果についてお話しするとき、私は薬の効果は2種類あるのですと説明します。語弊があるかもしれませんが薬には2つの効果があります。

  一つは今現在起きている症状を改善する効果です。たとえば痛みがあっればその痛みを緩和する。咳が出ていたら咳を止める。血圧が高ければ低くする。そんな効果のことです。風邪をひいて、熱が出て咳が出て鼻がでて、そんな状況で皆さんは何を期待して薬を飲みますか?いま起きている症状に対して薬はある程度効果があります。咳止めを飲めば少しは楽になるでしょうし、解熱剤を飲めば熱は少し下がります。鼻水に効く薬は眠気が出るものの、多少は効果があると思います。でも結局風邪そのものが治るには何日か寝ていないと置けませんよね。薬のもう一つの効果とは、その風邪で寝ている時間に対する効果です。どういうことかというと、風邪の症状に対しては薬である程度症状が緩和できることがありますが、では風邪で寝ている時間は薬を飲んだほうが短いのかどうかということです。風邪薬を飲むのと飲まないのを比較して早く風邪が治るのかどうか、おそらくそれを証明した風邪薬は存在しません。でも一番患者さんが知りたい事だとは思いませんか?

  なんとなくお分かりいただけたでしょうか。たとえば血圧の薬などはもっと慎重に考えるべきだと思います。血圧が高いといわれている人が血圧を下げる薬を飲めば血圧はさがります。これが今、目の前の症状を抑える効果です。ではもう一つの効果は血圧が下がったとしてそれから10年・20年後、薬を飲まなかった人に比べて本当に寿命は延びたのか、患者は健康的な生活を手に入れることができたのか、幸せになれたのか。このような効果を薬の“真”の効果なんて呼んだりします。血圧を下げる効果が“代用”の効果です。薬を服用したその後の成り行きの様なものを薬を飲んだ結果=“アウトカム”ということもあります。すなわち薬の効果には代用のアウトカムと真のアウトカムの2つの効果があるということです。

 実は僕ら4年生薬学部のカリキュラムではこのような概念を教えている薬学部はほとんどなかったと思います。薬学部はもともと製薬・創薬分野の研究者を養成する側面を担っていたため、その授業カリキュラムは有機化学など基礎科目の比重も高く、臨床薬学にかんする授業の比率はそれに押されているような感じでした。さらに現場の薬剤師としての実務教員も少なく、臨床経験のある教授陣は不足していたように感じます。例えて言うならば航空力学をひたすら教えて、明日からパイロットになれみたいな感じで、臨床的な考え方を養成するというよりは研究者を養成するようなカリキュラムであったと思います。僕らの世代のカリキュラムでコアの授業が薬理学です。これは薬の作用機序を勉強する学問ですが、実際の患者を目の前にして多くの場合作用機序などはどうでもよい話であり、実際に効くのか効かないのかということのほうがしばしば重要です。しかしながらそのような勉強をする機会が少ないまま薬剤師として現場に立つようになっていたわけです。現在薬学部は6年生になりそのカリキュラムも大きく変わっていると聞いています。特に臨床に強い薬剤師の養成に期待しております。

  実際の臨床で薬が効くのか効かないのか、そのようなものを学ぶには臨床疫学や薬剤疫学というような分野に医学統計知識が必要となってきます。例えそのようなカリキュラムが学部になく、勉強できる環境に無いにしても、薬剤がどの程度目の前の患者に有効なのか、薬物治療のその先にあるものを学生のうちから意識してほしいのです。薬理学や生理学から得られる情報はあくまで仮説であり、実際に臨床で確立された知見ではないのです。ここを意識するだけで薬との向き合い方が変わります。「薬を飲んで寿命が延び、健康になり幸せになれるのだろうかという問い」を忘れないでほしいのです。そして薬剤師を目指す皆さんに、全てのことを当たり前と思わず、あえて調べてみてほしいと思います。血圧が高ければ下げればいいじゃないか・・。ではなく下げることが本当に良いことなのかどうかという思考を常に持ってほしいのです。

  きっかけというものは実はすぐそばにたくさん転がっているものなのかもしれません。クライマックスでも何でもない映画のワンシーンから、眠たい化学の授業に半ば義務的に出席し化学が好きになり、なんとなく薬剤師へたどり着き、当たり前の日常業務からEBMに出合い、薬の本当の効果を意識するようになりました。常に当たり前だと思い込むことによって多くのチャンスを逃しているのかもしれない、自分が知らなかったということを知るだけでも、とても素晴らしいことなんだと。気付いてほしいのです。そこから得られるものの多さに驚くでしょう。 

  夏も終わり、受験シーズンが近づいています。大学受験は2月でしょうか。薬剤師国家試験は3月です。受験される皆様、体調には十分気をつけて頑張っていただければと思います。

2012年10月22日月曜日

アルツハイマー病と薬物療法について


※アルツハイマー病の薬物治療に関して個人的に勉強した内容をまとめてみました。引用文献に偏りがあるかもしれませんが、誤った解釈などあればご指摘いただければ幸いです。

 アルツハイマー病は、本邦において脳血管性認知症、レビー小体性認知症と並び頻度の多い認知症です。その原因としては遺伝的素因(家族性アルツハイマー病)や喫煙1)糖尿病や耐糖能異常2)や生活習慣等が挙げられています。意外なところで高圧電線というファクターも報告されています。3)高齢化が進む本邦ではアルツハイマー病を含む認知症とどう向き合うかは大きな問題です。アルツハイマー病はここ最近その発症が増加傾向にあるといえます。高齢化が大きなファクターだとは思いますが、どの程度増加しているかといいますと、平成8年から平成20年の12年で約124)だそうです。ちなみに認知症疾患治療ガイドライン2010
http://www.neurology-jp.org/guidelinem/nintisyo.html
でもアルツハイマー病は増加しており、本邦の65歳以上の高齢者における認知症有病率は3.8%~11.0%との記載があります。
  アルツハイマー病の症状は初期段階では物忘れや漠然とした体調不良、外出がおっくうになる等の症状が出ます。進行性の病気ですので、病状が進行するにつれて様々な障害が出てくるようになります。思考や判断能力の低下、言動及び行動の異常等が現れ、歩行障害、失禁等が現れ、日常生活が困難になってきます。

 治療にはリハビリテーションや薬物療法があります。リハビリテーションでは認知機能向上は示されていません5が残存機能を高める効果が期待できます。
  基本的な薬物療法はコリンエステラーゼ阻害薬が中心となります。本邦ではドネペジルのほか、ガランタミン、リバスチグミンがアルツハイマー病に対して使用可能です。
  また作用機序の異なる薬剤としてメマンチンが使用可能です。その臨床効果はどれも明確なエビデンスに欠けているという印象があります。コリンエステラーゼ阻害薬では有効性よりも有害事象が高いという報告6がありその費用対効果はいまいちな点が否めません。またメマンチンに関してもドネペジルとほぼ同等の効果であり、さらにドネペジルと併用してもドネペジル単剤と比べて有効性に明確な差は無いとする報告もありました。7イチョウ葉エキスが有効との情報もありますが、明確な根拠はありません。89)

 アルツハイマー病の進行に伴い、精神症状が現れるケースがあります。夜間におけるせん妄は時に介護者にも負担をかけます。さらに攻撃的な状態になることもあり、このような症状に対する治療は、介護者も含めた検討が重要となります。このような攻撃性等の精神症状には抗精神病薬が使用されます。オランザピンやリスペリドンが他の抗精神病薬に比べやや優れているようですがアルツハイマー病による精神症状・攻撃性等の症状に抗精神病薬を用いるのは有害作用によりその有効性が相殺されてしまうという報告もあります。10)またアルツハイマー病を含む認知症精神症状に対する抗精神病薬の投与は死亡リスクに関連するという報告11)12)や心筋梗塞リスク増加に関連13)という報告もあるのでそのリスクベネフィット、またアルツハイマー病の真のアウトカムというものを熟慮したうえで使用を考慮すべきなのかなと思います。

抗精神病薬の効果がでて攻撃性が改善されたとして、死亡や心筋梗塞リスクという報告がなされている限りはあまり長期間の投与はしたくありません。どのタイミングで薬剤をやめればよいのかという疑問が生じます。アルツハイマー病の精神症状、興奮に対し 48 ヵ月間のリスペリドン投与が奏効した患者においてリスペリドンの中止は再発リスクの上昇に関連とする報告14)もあり、攻撃性改善をターゲットにした場合、やはりある程度の期間服用を続ける必要があるかもしれません。死亡や心筋梗塞というアウトカムは取り返しがつきませんが、介護者、患者本人、家庭環境、生活習慣、等多種多様な価値観の中で十分検討しなくてはいけないのだと思います。

アルツハイマー病では興奮・攻撃性のほか、逆にうつ病を発症するケースも多いといわれています。アルツハイマー病患者の31%に認められたとの報告もあります。15)このようなうつ症状に対して抗うつ薬の投与も行われます。しかし最近の報告16)ではセルトラリン及びミルタザピンでは認知症に対するうつ症状にその有効性が確認できなかったとしています。一方で、認知症に対する抗うつ薬エスシタロプラムの投与中止でうつ症状が悪化するという報告17)もあり抗うつ薬の種類によりその効果に違いがある可能性もあります。

 本邦では漢方製剤による治療もおこなわれています。代表的な薬剤がアルツハイマー病の周辺症状に対する抑肝散です。アルツハイマー病の精神症状に有効であり抗精神病薬が減量できる可能性が示唆されています。18)

 アルツハイマー病における薬物治療はなかなか明確な効果を示す薬剤に乏しく、その治療は現状では難しいといわざるをえません。症状の改善を期待するというよりは症状の進行を遅らすという面に重きが置かれている状態です。近い将来、明確な効果を有する薬剤に期待したいところです。

[参考文献]
1)  Am J Epidemiol. 2007 Aug 15;166(4):367-78
2)  Neurology. 2011 Sep 20;77(12):1126-34.
3)  Am J Epidemiol. 2009 Jan 15;169(2):167-75.
4)  厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/suiihyo20.html
5)  Cochrane Database Syst Rev.2003;(4):CD00326
6)  Cochrane Database Syst Rev. 2012 Sep 12;9:CD009132
7)  N Engl J Med 2012; 366:893-903
8)  JAMA. 2008 Nov 19;300(19):2253-62
9)   The Lancet Neurology, Early Online Publication, 6 September 2012
10N Engl J Med 2006; 355:1525-1538
11) ancet Neurol. 2009 Feb;8(2):151-7. Epub 2009 Jan 8
12) JAMA. 2005;294(15):1934-1943
13) Arch Intern Med. 2012 Mar 26
14) N Engl J Med 2012; 367:1497-1507
15) JAMA.2002;288(12)1475-1482
16) Lancet;2011 378: 403, July30
17) BMJ 2012;344:e1566
18) Progress in Neuro-Psychopharmacology & Bioiogical Psychiatry 2009; 33: 308-11

2012年10月14日日曜日

薬剤師が摂食・嚥下障害へどう関わるか


認知症やパーキンソン病あるいは脳梗塞後遺症、加齢等、さまざまな要因で嚥下が障害され摂食が難しくなります。ADLの低下した高齢者にとって食事は最後まで残存する機能です。最後まで安全に経口摂取を続けるために嚥下障害への対応は急務であると考えています。具体的に摂食・嚥下障害とはどのようなものなのでしょうか。
摂食・嚥下は健常者では無意識のうちに以下の5期を経て行っています。
1)    先行期(認知期)
食事をするペースを作り出します。一回に口腔内に入れる食物の量や、食べるスピードを無意識に決めています。ここが障害されると明らかに口腔内に入りきらない量をほおばったり、まだ咀嚼中にも関わらず、口腔内に食物を立て続けに入れようとしてしまいます。脳の機能障害がこのような状況を引き起こします。
2)    準備期(咀嚼期)
噛んで飲み込めるような状態を作ります。口腔内に入れた食物の水分や硬さのなどを食物に合わせて決めていきます。
3)    口腔期 咀嚼された食物が口腔にある状態です
4)    咽頭期 食物が口腔から咽頭に移動します
5)    食道期 咽頭から食道に移動し胃に向かいます。

摂食・嚥下障害とはこの先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期のいずれかに障害が見られる状態を指します。そしてこの摂食・嚥下障害は様々な問題を引き起こします。
具体的には、誤嚥による誤嚥性肺炎あるいはそのまま食物がつまり窒息
食物がうまく摂取できないことは低栄養や水分摂取もままならないことから脱水もきたします。そしてなにより食べる楽しみの喪失です。

嚥下障害がみられる患者には特徴があります。一見してその危険を察知するのもとても有用だと思います。たとえば薬局等の外来において、その人が嚥下障害を起こしそうな人であれば、薬剤の服用は難しいかもしれませんし、誤嚥性肺炎、窒息リスクの高い患者であることが予想されます。摂食嚥下障害の患者を早期に薬局外来でスクリーニングできれば、専門の歯科医師等にコンサルすることが可能です。

では具体的な特徴をあげていきます。もちろんこれが当てはまれば必ず障害があるというわけではありません。疑いを持つことで患者へのアプローチが変わればいいのかなと思います。
1)    目が覚めていて意思疎通がとれるか。
2)    普通に深い呼吸ができるか
呼吸のペースで嚥下しやすさが変わります。息を吐いてから飲み物を飲むのは難しいですよね。ビールを飲む時を思い出してください。息を吸って止めている間に飲み、飲み終わってから「プハー」っと息を吐き出しますよね。
3)    異常にやせていないか
栄養不良や筋力低下が懸念されます。
4)    異常な円背は無いか
背中が曲がって頭を正面に向ける姿勢、言葉では伝わりにくいですが、前かがみになり、顎を正面に向けて突き出してみる姿勢とでもいうのでしょうか。そのような状態で水を飲んでみれば、いかに誤嚥リスクが高いかわかります。
5)    首は普通に動くか
くびの筋肉に力が入っていると嚥下しにくいのです。常に首の筋肉が硬直し普通に動かない患者は要注意です。姿勢をのけぞらせて頭を後ろに反らせ、くびの筋肉がプルプルしている状態で水を飲んでみればお分かりいただけるでしょう。
6)    声は普通に出るか
これは咳が出るかどうかでも確認可能です。声帯が完全に閉じないと咳が出ません。声帯は気管支の入口にあり、これが閉じていると誤嚥しにくいのです。声が出ないということは声帯がうまく機能していなく、気管支への入口に常に隙間があいている状態、食物が流れ込みやすい状態といえます。
7)    普通に喋れるか
「パ」「タ」「カ」がうまく言えない人は舌がうまく動かない可能性があります。飲み込む時下が動かないと、上を向き重力で食物を流し込むような感じになります。水を口にためて、下を動かさずに飲み込んでみてください。上を向かないと飲み込めないし、それがとても誤嚥リスクになるということが実感できます。
8)    よだれが垂れていたり、痰はひどくないか
9)    口は普通にきれいか

スクリーニングテストもあります。
参考http://www.tama-irount.com/information/dysphagia/6.html

反復唾液嚥下テスト( repetitive saliva swallowing test , RSST
拇指と中指で甲状軟骨をさわり30秒間に何回空嚥下できるかを測定します。3回未満では異常と判断されます。通常健常者は5回~6回といわれています。

*改訂水飲みテストmodified water swallow test : MWST.
冷水3mlを口腔底に注ぎ嚥下させます。さらに2回の反復嚥下を行い以下の評価基準が4点以上なら最大2回施行を繰り返します。もっとも悪い点数を最終評価とします。
評価基準
1:嚥下なし、and/or むせる and/or 呼吸切迫
2:嚥下あり、呼吸切迫
3:嚥下あり、むせるand/or 湿性嗄声
4:嚥下あり、呼吸良好、むせない
54に加え、追加嚥下運動が30秒以内に2回可能

*食物テスト
茶さじ1杯のプリンを舌背前部に置き食べさせます。嚥下後2回の反復嚥下を行い以下の評価基準が4点以上なら最大2回施行を繰り返します。もっとも悪い点数を最終評価とします。
評価基準
1:嚥下なし、and/or むせる and/or 呼吸切迫
2:嚥下あり、呼吸切迫
3:嚥下あり、むせるand/or 湿性嗄声 and/or 口腔内残留中等度
4:嚥下あり、呼吸良好、むせない
54に加え、追加嚥下運動が30秒以内に2回可能

咀嚼の評価では顎が左右に動いているかを確認することである程度把握できます。顎の完全なる上下運動のみでは咀嚼できないことを実感できると思います。
 

 では実際に薬剤師が、摂食・嚥下障害のある患者においてどのようなアプローチを考えていくべきなのでしょうか。当然ながら誤嚥=禁食ではないということを認識すべきです。大事なのは食べる機能と食べる食事方法がつり合っているかどうかなのです。経管のみの患者においても実際に嚥下が可能な患者は潜在的に多いかもしれない可能性があります。実際の症例ではそのような患者が存在するのもまた事実です。実際の嚥下リハビリは薬剤師の仕事ではありませんが、このような患者を把握し早期発見に努め、専門家にコンサルできる体制の確保というのが薬剤師の関わり方の一つではないでしょうか。そのためには様々な医療職、特に歯科医との連携が必要です。また薬学的な側面からいえば降圧薬はACE阻害薬を使用することで誤嚥性肺炎の予防効果が期待できるかもしれません1)シロスタゾール等も誤嚥性肺炎予防効果があります。2)また口腔ケアにおいて歯ブラシを5分続けると嚥下反射を亢進できる報告もあります。3)当然口腔ケアは肺炎リスクを減らします。4)

高齢化社会にとって摂食・嚥下障害は早急に対応すべき重要な問題です。摂食・嚥下障害に対応できるような体制を具体的にどう作るべきか模索が必要です。

[参考になるサイト]
口腔ケアについて考えるhttp://ww3.tiki.ne.jp/~y-takaya/index.htm

[参考文献]
1)Lancet 1998; 352: 1069
2)脳卒中治療ガイドライン
3)JAMA 2001; 286: 2235-6
4)Lancet 1999; 354: 515

2012年10月12日金曜日

EBMについて(5) EBMの実践


EBMを知っているというのと、EBMを実践しているというのは相当の差があります。薬剤師で言えば、例えが悪いかもしれませんが、分包機を知っているのと実際に散剤を分包機を使用して調剤しているのではものすごい差があるのがお分かりいただけるでしょう。
  EBMについて4回にわたりまとめてまいりました。私自身EBMの実践経験は非常に少なく、まだまだ経験が足りていないという状態です。そんな私がこのテーマでまとめるのもどうかと思いますが、今までの内容を少し整理するうえでも役に立つかもしれませんので記事にしたいと思います。EBMの実践ではまず、目の前の患者の訴えからスタートです。以下は架空の患者の訴えです。

患者背景:40代男性。健康診断で血圧150mmHgで少し高めを指摘されたものの、他の検査値に異常なし。合併症の既往もなし。
「最近、健康診断で血圧が150くらいあったんだよ。いままでは120から高くても130位だったんだけど、ここ23年血圧なんて測らなかったからね。150っていうのは高いのかな。先生は薬はいらないって言ってたけど、本当に大丈夫かな。薬、飲んだほうがいいかな。」

 このような患者に対してどのように回答すべきか、EBMの手法で解決してみたいと思います。まずEBMのステップの復習です。
step 1:疑問や問題点の定式化
step 2
:情報の収集
step 3
:情報の批判的吟味
step 4
:情報の患者への適用(適応ではなく)
step 5
step 1からstep 4の評価


step1から順に進めていきましょう。患者の訴えから疑問をPECOで定式化してきます。
P40代男性。血圧が150mmHgで合併症の既往なし。
E:降圧薬による治療開始は
C:何もしないのに比べて
O;脳卒中は減るか?
O:死亡は減るか?
O:幸せになるか?

幸せになるかどうか、これが究極の真のアウトカムだと考えています。たとえば薬剤介入は必ずしも患者を幸せにするとは限りません。服薬や通院の負担やコスト、これらは必ずしもQOLを改善するとは言えないのです。薬剤の介入試験において、病気の発症を減らすか、とか死亡を減らすか(実際には先伸ばししてるだけですが)みたいな効果は、大抵それほど大きくはなくむしろほとんど差がないことの方が多く感じます。さらに対象疾患の潜在的な発症率も良く検討しなければいけません。例えば降圧薬では心筋梗塞をめちゃめちゃ抑制しますって薬でも日本人においては心筋梗塞の潜在的な発症率はそれほど高くはなく、むしろ脳卒中を抑制してくれた方が都合がよいことが多いかも知れません。そんな中で薬剤介入が必ずしも患者の幸せには結び付かないというわけです。薬剤費用や通院負担、多くの場合マイナスポイントですよね。100日早く死んでもよいから薬なんて飲まないで自由気ままに生きていきたい、そんな考えだってあるのかなとか、幸せというアウトカムを常に意識したいと思います。だからこそ幸せという尺度で検討したいのですが、幸せを検討した臨床研究は存在しません。幸せかどうかは個人の価値観、それを一律の評価すること自体が困難です。仕方が無いので脳卒中や心筋梗塞、死亡などのアウトカムで評価した臨床研究を探すことになります。こうなると“血圧が下がったか”どうかの研究を探すことに大きな意味がないことがお分かりいただけるでしょう。中には血圧が下がること自体に幸せを感じる方もいるかもしれませんが・・。

Step2は情報収集です。今回はpubmedを使用したいと思います。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed
このまま検索するのは大変です。画面真ん中PubMed Toolsの下から2番目Clinical Queries を使用します。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/clinicalの検索ボックスに検索ワードを入れていきます。血圧が150台。要するに軽症高血圧ですよね。mild hypertensionで検索してみます。現実的な検索として、Systematic Reviews を中心に見ていくとよいでしょう。検索されたシステマテックレビューです。20121012日アクセス。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=systematic%5Bsb%5D%20AND%20(mild%20hypertension.)
ここから論文を選んでいきますが、Clinical Queriesは発表年が新しいものほど上位に表示されます。掲載雑誌名で見ていくのも現実的な方法です、インパクトファクターが高い雑誌は、妥当性はともかくアクセス数が多い可能性があります。そのような観点から上から3つ目のコクランシステマテックレビューを見てみましょう。
Pharmacotherapy for mild hypertension. Cochrane Database Syst Rev. 2012 Aug 15;8:CD006742.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22895954
論文抄録からこの論文のPECOを探ります。Step3の情報の吟味ですね。
P4RCTにおける収縮期圧が140 - 159 mmHg、拡張期圧が90 - 99 mmHgで心血管合併症の既往の無い高血圧症患者8912人に
E:降圧薬を投与するのは
C:治療しないのと比べて
O:死亡、脳卒中、冠動脈疾患、全心血管イベントは減るか
ランダム化比較試験のメタ分析で真のアウトカムを評価しています。
結果は死亡が RR 0.85,( 95% CI 0.63, 1.15)と減少傾向にあるものの、有意に減らせてはいません。冠動脈疾患はむしろ増える傾向 RR 1.12, (95% CI 0.80, 1.57)です。 脳卒中は減少傾向ですが有意差はありません。RR 0.51, (95% CI 0.24, 1.08)  心血管イベント全体でも同様です。
RR 0.97, (95% CI 0.72, 1.32)
して薬剤による有害事象は、薬物投与群で多いという結果です。RR 4.80, (95%CI 4.14, 5.5)

step 4に入ります。この論文の結果は冠動脈疾患以外は減少傾向にありますが、有意差は無いということでした。有意差が無いというのは効果が無いという思考停止は問題です。95%信頼区間を見ることで、効果がある人もいれば無い人もいる、結果としてよくわからないが、今目の前の患者の潜在的なリスクを加味すればもしかしたら有効(あるいは無効)かもしれないというような思考が必要です。有意差ありは有効ではないし、有意差なしは無効ではない。ここが大事なところです。
 この患者では潜在的なリスクは低い可能性があり、もしかしたら薬剤による効果は大きくは期待できないかもしれない。血圧が150代だとしても今すぐ降圧薬を投与するメリットは少ない可能性があるのではという解釈も一つの答えかもしれません。少なくとも今すぐ治療を開始する、大きなメリットは無い可能性が高いことは伝えてもよいかもしれません。

Step5では一連の流れを再評価します。
*患者から十分な情報収集をしたか
*自分の方針を押しつけていないか
*方針決定を患者任せにしていないか
*第3者や患者からの評価を受けたか
*臨床上必要な全てのアウトカムが評価されたか
*リスクベネフィットコストが十分反映されているか
*患者は幸せになれたのか

  薬剤師がEBMを実践するうえでなかなか難しい壁もあります。このケースでは治療を開始すべきかどうかは医師の判断であり薬剤師の判断ではありません。ただこのような問い合わせに対して、先生が大丈夫といったなら大丈夫でしょうとか、食事を気をつけてみては等と軽く言うのと、エビデンスに基づき、医師の意見を合わせて患者の思いと統合することで、より深く患者と向き合える気がするのです。薬剤師が関わる医療というものは厳しい制約の中でどれだけ、患者と向き合えるかどうかということなのかもしれません。その関わり方の一つがEBMだと思っています。

2012年10月11日木曜日

EBMについて(4) PROBE法という試験デザイン


PROBEとはProspective Randomized Open Blinded-Endpointの頭文字をとっています。日本語に訳すと、「前向きランダム化オープンエンドポイント盲検化試験」というところでしょうか。通常のランダム化比較試験はプラセボ効果等のバイアスを最小限に抑えるために2重盲検という手法が使用されます。医師も患者もどの治療に割り当てられておるか分からなくすることで、情報の信頼性・妥当性を上げるのです。ただこの方法では介入の仕方によっては限界も生じます。たとえばスタチン等のコレステロール低下薬の介入を考えてみましょう。実薬群、プラセボ群を2重に盲検したとしても、治療期間中の検査結果で、実薬群は明らかにコレステロール値が下がってきます。盲検化していても検査値を見ればどちらが実薬群か医師は容易に判断がつくのです。本来であれば検査値まで盲検化することで情報の妥当性を上げることができますが、検査値は患者の健康を大きく左右する貴重なデータのために、主治医に隠すをいうことが難しいのかなとも思います。プラバスタチンの日本人に対する大規模臨床試験MEGAstyudy Lancet 2006;368:1155PROBE法が採用されています。

 もうひとつ、そもそもプラセボ効果が臨床上にどのような影響を与えるのかという問題があります。プラセボ効果まで含めて実臨床では治療が行われている実態を反映させるべきという意見もあるようです。

このように盲検化には限界があるということ、プラセボ効果まで評価するべきかもしれないということ、このような問題点を解決したのがPROBE法です。PROBE法はオープンラベルですので、医師も患者もどの群に割りつけられているかあらかじめ知っています。ではどのように結果の妥当性、信頼性を確保しているかというと、試験のエンドポイントの評価をブラインド化しているのです。患者がどちらに割りつけられたかわからない第3者がアウトカムを評価しバイアスを制御しているのです。

ただこのPROBE法においては、評価に向いているエンドポイントとそうでないエンドポイントがあります。まず、死亡というエンドポイントでは客観的にだれが見ても判断できる使用であり、オープンラベルでもまず問題のないエンドポイントといえます。しかしながら、医師の判断によるエンドポイント、患者の希望的感情が入り込みそうなエンドポイントはオープンラベル試験ではバイアスの入る余地が十分にあります。

もう少し詳細にお話ししますと、たとえば、心不全を評価する時、心不全による入院というエンドポイントを設定することがありますが、これはどうでしょうか。

入院というアウトカムは医師の臨床判断で行うことになります。また入院したいという患者の思いは試験に大きく影響することは明白でしょう。このような状況で極端な話ですが、プラセボ群に割りつけられた患者が、やっぱり心配だから入院したい、とか、症状がそれほどでもないが、プラセボだし入院させとくかみたいな医師の判断が無いともいえないわけです。要するにPROBE法では死亡等のハードエンドポイントで評価しないとバイアスが入り込む余地が生まれてしまうので注意が必要です。特に“入院”のエンドポイントはナンセンスです。

PROBE法を用いた日本人を対象とした大規模研究にはJIKEY HERT studyLancet, 2007 April 28;369:1431-1439  http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=17467513

がよく取り上げられます。3081人の日本人を対象に従来治療群と従来治療にバルサルタンを上乗せした群を比較し、心血管イベントが減るかどうかを検証したPROBEデザインのランダム化比較試験です。ITT解析もされています。プライマリエンドポイントはHR0.61(0.47-0.79)という結果でした。かなり良い結果が出ています。

 PROBE法ではエンドポイントに注意が必要なのは先ほど述べました。この試験のプライマリエンドポイントは複合心血管イベントです。個々のエンドポイントを確認してみると、「脳卒中、TIAによる入院、心筋梗塞、うっ血性心不全による入院、解離性大動脈瘤、血清クレアチニン倍化、血液透析導入」 というアウトカムの複合体です。問題は脳卒中、TIAによる入院とうっ血性心不全による入院というアウトカム。ここには先ほど述べたとおりかなりバイアスが入り込む余地があるのです。さらにこの試験のエンドポイントごとの結果を確認すると「入院」のエンドポイントには有意差が付いているが、その他のエンドポイントや死亡には有意差がついていないという結果です。

 もうひとつ最近報告されたJ-MELODIC試験Circulation journal 2012;76(4):833-42 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=22451450 この試験は慢性心不全患者にアゾセミドとフロセミドを比較したランダム化比較試験でPROBEデザインです。エンドポイントは「心血管死またはうっ血性心不全による予期せぬ入院」です。アゾセミドはフロセミドに比べ有意にエンドポイントを改善したとあります。HR:0.5595%信頼区間:0.32-0.95,P=0.03) ここでもうお分かりかと思いますが、エンドポイントに入院が含まれています。個々のエンドポイントを確認すると

■心血管死:HR0.64 95%CI 0.24-1.67

■うっ血性心不全による予期せぬ入院HR0.53 95%CI 0.30-0.96

と入院には有意差が付いているものの、心血管死には有意差が付いていなく結果も入院のエンドピンとに大きく引きずられているのがお分かりいただけるでしょう。

以上のようにPROBR法では入院などのソフトエンドポイントではバイアスが入り込む余地があり結果の解釈に注意が必要です。