[お知らせ]


2012年9月29日土曜日

EBMについて(2) ランダム化比較試験論文の吟味


「薬剤Aが肥満に効くか」どうか調べたい。とします。さまざまな比較方法がありますが、まず簡単なのが、「薬剤Aを飲む前と飲んだ後を比較する」ということでしょうか。Aを飲んでやせれば効果がある・・。様な気がしますが、ここには薬剤Aの効果以外にも様々な要因が潜んでいます。たとえば、もしかしたら、服用後にたっぷり運動もしていたかも!・・それは薬剤Aの効果もあるかもしれませんが、運動による消費カロリー増加のほうが寄与が大きいのではないでしょうか。さらに食事制限もしていたかもしれません。このような投与前後を比較した試験デザインは、薬剤以外にも様々な要因を考慮する必要があります。

次に「薬剤Aを飲んだ人とプラセボを飲んだ人を比べる」というのはどうでしょうか。プラセボと薬剤Aを比べてどちらが体重が減ったかを検討するのです。一見するとよさそうですが、確認したいポイントが多数あります。

まず、薬剤Aを飲んだ人はもともと体重が重かったかもしれません。体重が重い人は体重が軽い人に比べて、ダイエット後の体重変化量は同じとは言い難いですよね。また薬剤Aを飲む人は痩せるかもしれないと思い生活習慣を変えたかもしれません。薬の効果を最大限に引き出そうと、ダイエットに気合が入るのも人間の心理ですよね。さらに薬剤Aを飲んだ人は比較的筋肉質で基礎代謝が高い人だったかもしれません。このような偏りを防ぐためにどうすればよいでしょうか。

まず、患者の体重は大体同じような人たちを集めるべきですよね。また同じ体重でも筋肉質の患者と体脂肪が高い患者、このような患者が薬剤A群、プラセボ群の2群に均等に割りつけられるよう、無作為割り付けというものを行います。これをランダム化とも言います。(→ランダム化されているか)やせやすい人が偏って割りつけられたら、本来の効果に影響が出ます。そしてその2群で本当に患者の背景因子が同等であれば、2群を比較することができます。要するに患者背景をそろえるのです。(→患者背景は同等か)さらに薬剤Aか、プラセボか何を飲んでいるか分からなくすることで、治療期間中の患者行動への影響を少なくすることができますよね。(→ブラインド化されているか)このような試験デザインを”ランダム化比較試験”RCTと呼びます。実薬を飲んでいることが治療する医師にもわかってしまっていると、治療に気合が入り、本来の効果以上の効果が出てしまうことがあります。あるいは逆に、治療しているからと気が緩んで本来の効果よりも効果が低く出てしまうこともあります。このような効果をホーソン効果といいます。ちなみにプラセボだけでも効果が出ることがあります。治療を受けていると思うことで、症状が改善することをプラセボ効果といいます。

ランダム化比較試験のPECOは以下の様な感じです。

 

薬剤介入群(E)   →  結果(O)

対象患者(P)  

非介入群 (C)   →  結果(O

P:対象となる患者
E:薬剤介入群
C:非介入群(プラセボ)
O2郡間での結果

 治療法に効果があるかどうかを確かめるためには,このようなランダム化比較試験という研究方法が最も信頼性が高いといわれています。

ランダム化比較試験では以下の点がポイントとなります。
*ランダム化・・・介入群と非介入群で偏りなく患者が振り分けられているか。
*ベースライン・・2群間の患者背景は同等か。
*ブラインド化・・医師も、患者もブランド化されている2重盲検が一般的です。
*脱落者は加味されているか・・・Intention to Treat Analysisされているか

 脱落者が多いとせっかくランダムで患者を振り分けたのに、それが結果に反映されません。ITT(intention-to-treat)解析は「治療意図に基づく解析」と訳されます。ランダム化比較試験において、当初の計画された治療を続けられず脱落する人たちが少なからずいますが、その脱落者も含めて解析する方法がITT解析です。脱落が多いと、結果に影響が出る場合があります。ITT解析によってより現実的な効果を検討できるといわれています。

*アウトカムは真のアウトカムか。
*結果に有意差はあるか(なければ症例数は十分か?)

 有意差がない場合、薬剤の効果があいまいか、もしくは症例数が少なすぎて有意な差が出なかった可能性があります。この場合、あらかじめ統計計算されたサンプルサイズと実際の症例数を比べて、症例数がサンプルサイズを上回っていれば薬剤の効果は不明となります。

 

実際の論文summaryを見て各ポイントを確認してみましょう。以下はPROactive試験(Lancet 2005;366:1279)のsummaryです。

 Secondary prevention of macrovascular events in patients with type 2 diabetes in the PROactive Study (PROspective pioglitAzone Clinical Trial In macroVascular Events): a randomised controlled trial

Background

Patients with type 2 diabetes are at high risk of fatal and non-fatal myocardial infarction and stroke. There is indirect evidence that agonists of peroxisome proliferator-activated receptor γ (PPAR γ) could reduce macrovascular complications. Our aim, therefore, was to ascertain whether pioglitazone reduces macrovascular morbidity and mortality in high-risk patients with type 2 diabetes.

Methods

We did a prospective, randomised controlled trial in 5238 patients with type 2 diabetes who had evidence of macrovascular disease. We recruited patients from primary-care practices and hospitals. We assigned patients to oral pioglitazone titrated from 15 mg to 45 mg (n=2605) or matching placebo (n=2633), to be taken in addition to their glucose-lowering drugs and other medications. Our primary endpoint was the composite of all-cause mortality, non fatal myocardial infarction (including silent myocardial infarction), stroke, acute coronary syndrome, endovascular or surgical intervention in the coronary or leg arteries, and amputation above the ankle. Analysis was by intention to treat. This study is registered as an International Standard Randomised Controlled Trial, number ISRCTN NCT00174993.

Findings

Two patients were lost to follow-up, but were included in analyses. The average time of observation was 34·5 months. 514 of 2605 patients in the pioglitazone group and 572 of 2633 patients in the placebo group had at least one event in the primary composite endpoint (HR 0·90, 95% CI 0·80—1·02, p=0·095). The main secondary endpoint was the composite of all-cause mortality, non-fatal myocardial infarction, and stroke. 301 patients in the pioglitazone group and 358 in the placebo group reached this endpoint (0·84, 0·72—0·98, p=0·027). Overall safety and tolerability was good with no change in the safety profile of pioglitazone identified. 6% (149 of 2065) and 4% (108 of 2633) of those in the pioglitazone and placebo groups, respectively, were admitted to hospital with heart failure; mortality rates from heart failure did not differ between groups.

Interpretation

Pioglitazone reduces the composite of all-cause mortality, non-fatal myocardial infarction, and stroke in patients with type 2 diabetes who have a high risk of macrovascular events.

さて英語だらけでびっくりでしょうが、ポイントを整理していきます。まずは論文のPECOを確認します。Methods5238 patients with type 2 diabetes who had evidence of macrovascular disease.
と書いてあります。大血管合併症をもつ2型糖尿病患者5238例です。
またassigned patients to oral pioglitazone titrated from 15 mg to 45 mg (n=2605) or matching placebo (n=2633),との記載から本試験の介入が読み取れます。

E:ピオグリタゾン15㎎~45㎎投与2605
C:プラセボ2633人と比べて

Our primary endpoint was the composite of all-cause mortality, non fatal myocardial infarction (including silent myocardial infarction), stroke, acute coronary syndrome, endovascular or surgical intervention in the coronary or leg arteries, and amputation above the ankle

O:は複合アウトカムで総死亡,非致死的心筋梗塞,脳卒中,急性冠症候群,冠動脈や下肢動脈への治療,膝上です。
 
整理すると
P:大血管合併症をもつ2型糖尿病患者5238
E:ピオグリタゾン15㎎~45㎎投与2605
C:プラセボ2633人と比べて
O:総死亡,非致死的心筋梗塞,脳卒中,急性冠症候群,冠動脈や下肢動脈への治療,膝上での下肢切断はどうなるか?

またrandomised controlledとなっていてランダム化されていることがわかります。
統計解析はAnalysis was by intention to treatとズバリ記載があります。脱落者も加味しています。結果はprimary composite endpoint (HR 0·90, 95% CI 0·80—1·02, p=0·095).と有意差なしです。

この試験、さらに読み込むといろいろと面白い点があるのですが、詳細はPROactive study のこと を参照にしていただければ幸いです。ベースラインはたいてい本文に一覧表が掲載されていることが多いです。この試験では患者背景はほぼ同等でした。サンプルサイズは本文の統計解析に記載があります。この試験ではサンプルサイズは十分であり、結果に有意差もありません。

 (捕捉)医学統計については以下を参照ください
相対危険率・NNTについて
有意差とは
95%信頼区間(95%CL)

0 件のコメント:

コメントを投稿