[お知らせ]


2012年9月1日土曜日

動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂、スタチンとエゼチミブの併用療法について思うこと


動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012年版が発行され話題です。
http://www.j-athero.org/publications/guideline.html
私個人的にはそのすべてを十分理解してはおりませんので間違った解釈もあるかもしれませんが、ここでスタチンにエゼチミブの追加に関する薬物療法についてまとめてみたいと思います。
まずこのガイドラインの薬物療法については以下の記載があります。
【治療法B薬物治療】
1次予防において、生活習慣の改善を十分に行ったにもかかわらずLDL-C管理目標値が達成で
 きない場合には、リスクの重みに応じて薬物療法を考慮する。a B
1次予防においても、LDL-C180mg/dl以上を維持する場合には薬物療法を考慮するa C
■ 高LDL-C血症に対する治療薬としてスタチンが推奨される。 A
高リスクの高LDL-C血症においては、スタチンに加えてエゼチミブの投与を考慮する。a B
■高リスクの高LDL-C血症においては、スタチンに加えて、イコサペント酸エチルの投与を考慮する。a A
■低HDL-C血症を伴う高TG血症に対しては、リスクの重みに応じてフィブラート系薬剤やニコチン酸誘導体などの薬物療法を考慮する。Ⅱa B
動脈硬化症の高リスク病態として冠動脈疾患の既往(2次予防)、糖尿病、非心原性脳梗塞,PAD CKDが挙げられています。

2012年版のポイントとしてNIPPON DATE 80のリスク評価チャートによりリス管理区分が細分化されCKDが高リスク群に加えられたこと、そして高リスク群でスタチン+エゼチミブの併用が推奨されている点が目に着きました。これにはSHARP試験の結果が大きく影響しているような気がします。

SHARP試験は9270例の慢性腎臓病患者(透析例3023例、非透析例6247例)においてエゼチミブとシンバスタチンの併用療法の有効性を対プラセボの2重盲検RCTで検討した試験です。Lancet. 2011 June 9; 377(9784): 2181–2192. http://t.co/kAWgFfPL 
トライアル開始時点で
(1)エゼチミブ10mg+シンバスタチン20mg併用群4193例、
(2)シンバスタチン20mg1054例、
(3)プラセボ群4191
3群にランダム化しています。これは最初の1年間でシンバスタチン+エゼチミブの安全性評価行っているためです。1年間の併用に関する安全性評価で問題ないため、シンバスタチン単独群のうち886例をさらにプラセボ群か併用群のどちらかにランダム割り付けしました。
統計解析はintention-to-treat解析。
プライマリアウトカムは主要動脈硬化イベント(非致死的心筋梗塞又は冠動脈死、非致死的脳卒中または動脈血行再建術)の初発です。
プライマリアウトカムは併用群で11.3%、プラセボ群で13.4% 
RR0.830.740.94P=0.0021と有意に併用群が主要動脈硬化イベントを抑制したとしています。
ここで、こちらをご覧ください。→http://t.co/Xql5hyUw

これはトライアル期間に対する累積イベント発生率を示しています。最初の1年間、すなわち安全性評価期間ではプラセボ、併用群で線が重なっており、有意な差は出てません。1年後に差が開き始めているのがお分かりいただけるでしょうか。1年後シンバスタチン単独群のうち886例が、シンバスタチン+エゼチミブ又はプラセボ群に割りつけられています。ここで注意すべきはシンバスタチンからプラセボに切り替わった患者がプラセボ群に存在することです。シンバスタチン中止群が存在するのです。要するにこの試験ではエゼチミブの追加効果も多少はあるかもしれないがシンバスタチンの中止によるリスクというものも評価しなくてはならず、結果はある程度割り引いて考える必要があるのだと思います。

また注目すべき点は全死亡に関して併用群24.6%プラセボ群で24.1%で、RR1.02(0.94-1.11)と減らしていません。エゼチミブを追加しても死亡を減らすことはできない可能性があります。また先ほどの見解から結果を割り引いて考えればプライマリアウトカムでさえも有意差が出ない可能性があるのです。薬価の高いエゼチミブだけに費用対効果は少々疑問です。

さらにIntensive lipid lowering with simvastatin and ezetimibe in aortic stenosis
N Engl J Med. 2008; 359: 1343-56 http://t.co/csWA95HW
こちらは無症候性の軽症~中等症大動脈弁狭窄症患者1873例を対象にシンバスタチン+エゼチミブの有効性を対プラセボで検討したランダム化比較試験です。統計解析はintention-to-treat解析。プライマリーアウトカムは心血管死、大動脈弁狭窄症関連イベント、非致死的心筋梗塞、入院を要する不安定狭心症,心不全,CABGPCI 非出血性脳卒中の複合アウトカムです。
結果はシンバスタチン+エゼチミブ群333例(35.3% vs プラセボ群355例(38.2%
HR 0.9695%CL0.831.12p0.59と有意差はありませんでした。さらに、
全死亡:105例(11.1% vs 100例(10.8%HR 1.040.791.36p0.80
癌の発症率はシンバスタチン+エゼチミブ群の方が有意に多い。(105 vs 70例)p0.01という衝撃的な結果でした。

現在、高LDLコレステロール血症を有するハイリスク高齢患者(75歳以上)に対するエゼチミブの脳心血管イベント発症抑制効果に関する多施設無作為化比較試験が進行中です。http://t.co/Ij4kaxAKエゼチミブの積極的な使用に関してはこの試験の結果を待ってからでも遅くないのではないかなと思います。
スタチンにイコサペント酸エチルの追加投与に関してはEPAの効果を参考にしていただければ幸いです。

0 件のコメント:

コメントを投稿