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2012年8月11日土曜日

スタチンと糖尿病発症リスクという問題に思うこと。

スタチンと糖尿病リスクについてJUPITER試験のデータを用いた解析論文が報告されています。
Cardiovascular benefits and diabetes risks of statin therapy in primary prevention
: an analysis from the JUPITER trial
The Lancet, Volume 380, Issue 9841, Pages 565 - 571, 11 August 2012
スタチンと糖尿病リスクについては過去にメタ分析が出ています。

まずJUPITERについて簡単にまとめます。
Rosuvastatin to Prevent Vascular Events in Men and Women
 with Elevated C-Reactive Protein
N Engl J Med. 2008; 359: 2195-207

P:LDL-Cは正常ながらCRP値が高い症例17,802例(平均年齢66歳)
E:ロスバスタチン20mg/日投与(8901例)
C:プラセボ(8901例)
O:一次エンドポイント:複合心血管イベント初発。
(致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,
不安定狭心症による入院,血行再建術,心血管疾患死)

多施設2重盲検ランダム化比較試験
intention-to-treat解析、追跡期間:1.9

一次エンドポイント
HR0.5695%CL0.460.69p0.00001
全死亡: HR 0.800.670.97, p0.02

この試験でも糖尿病発症リスクが指摘されていました。
医師が報告した糖尿病発症270 vs 216例(P0.01)。

このJUPITER試験におけるスタチンの心血管系ベネフィットと
糖尿病発症リスクを検討したのが本論文です。

糖尿病のリスクファクターによる分類でそのリスクを検討しています。
1つ以上の糖尿病リスクファクターを有するトライアル参加者11508例では
主要リスク要素もたない参加者6095例より糖尿病発症リスクが高いとされています。

1つ以上のリスクファクターを有する患者
*プライマリアウトカム   HR 0·610·47—0·79
*血栓塞栓症        HR 0·64,0·39—1·06
*総死亡              HR 0·830·64—1·07
*糖尿病発症          HR 1·281·07—1·54

主要リスク要素もたない参加者
*プライマリアウトカム   HR 0·48(0·33—0·68)
*糖尿病発症          HR0·990·45—2·21

スタチンの使用で糖尿病診断までプラセボと比較し5.4週ほど早める可能性がある
 5·4 weeks (84·3 [SD 47·8] weeks on rosuvastatin vs 89·7 [50·4] weeks on placebo).

一次予防におけるスタチン使用は問題点こそあるものの、
心血管ベネフィットがリスクを上回るものではないと結論付けています。
同じような結論は「スタチンのリスクベネフィットに関するperspective
 N Engl J Med 2012; 366:1752-1755でも述べられています。

日本人の心疾患リスクというの潜在的に欧米に比べても多いというわけではないと思います。
MEGAstudyLancet 2006;368:1155)のデータからそのリスクを見直すと
心筋梗塞年率0.16%、 狭心症年率0.5%です。欧米のそれに比べても
非常に低リスクといえます。したがってすべての日本人が、
スタチンを使用してまで心血管イベントのリスク減少を
目指すことに意義があるかどうかということは熟慮しなくてはいけないと思います。
付け加えれば本当に問題なのは、スタチンの心血管ベネフィットと
糖尿病リスクではないような気がします。
もちろんスタチンのリスクベネフィットを考慮することは必須ですが、
日本人においては特にそのベネフィットとコスト、患者の負担、
その他リスクを考慮せねばいけないと思います。
糖尿病リスクが強調されていますが、日本人において
その問題の本質は糖尿病リスクではないかもしれません。
もちろん、それも無視はできませんが、
脳内出血リスク、横紋筋融解症リスク、コスト、まだまだたくさんあると思います。

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