[お知らせ]


2012年7月26日木曜日

薬剤師として感染症の治療というものをどうとらえるか。

神戸大学病院感染症内科 岩田健太郎先生のブログ「楽園はこちら側」から
「かぜに抗菌薬を用いるか否かの議論について」http://t.co/O4ka24F8を読んで、
薬剤師として感染症の治療というものをどうとらえるか、
個人的な考えをまとめたいと思います。

風邪の原因、本当にウイルスかhttp://www.m3.com/sanpiRyouron/article/150062/
「風邪の原因は9割がウイルス、抗菌薬は無効」は常識になりつつある。
半面で、臨床現場では今でも抗菌薬が処方され続けている。
成人ならば、やはり細菌性の風邪は多いとの主張も。賛否は?
も参考にしていただければ幸いです。

例えば、インフルエンザを例に取ると、インフルエンザ検査キットで陰性ならば
インフルエンザではない。とは限らないことは冬場シーズン最中の薬局外来をこなしていれば
多くの薬剤師が実感として経験していると思います。
この場合、感染初期の検査では陽性が出にくいといえますが、
たとえ陰性でも流行期であればインフルエンザの可能性は高いです。
一方夏場であれば、、一般的にインフルエンザ検査キットで陽性が出たとして、
本当か?と思うかもしれません。そして、そこに落とし穴があるかもしれません。
そもそも夏場にインフルエンザの検査キットを使用するかという問題もあり、
実際に使用してみれば、インフルエンザ感染症は結構見つかるかもしれないのです。

感染症のとらえ方はこのように、その背景因子に医療者の考え方が
大きく左右される傾向があることは事実だと思います。
感染症に限らず、おおむね疾患に対する医療者の考え方は
自分が思う以上に主体的に考えることが難しいのではないかと考えています。

話を感染症に戻しますと、
大事なのは検査キットで陽性か?、陰性か?、ではないと思います。
そしてウイルスの存在があったとしてもそれがインフルエンザ症状という疾患と
イコールではない、ということの可能性も否定すべきではありません。
ウイルスに限らず、細菌など微生物感染症全般に言えることだと思います。

“微生物は疾患の原因だが、疾患「そのもの」ではない”

感染症といわれる状態を治療すべきかどうかというのは
患者に現れている「疾患」に対するものであり、感染の有無ではありません。
ましてやその治療の対象は原因微生物を殺傷することでもありません。

“微生物がウイルスか、細菌か、あるいはその両方かは二次的な問題である”

風邪に対して抗菌薬を使用するか、しないかという議論は治療の本質では無いと思います。
大事なのは感染により、どの程度疾患としての「症状」が存在するのか。
それは治療すべきか、治療するとしたら原因はウイルスか、細菌か、
という思考過程を経て初めて抗菌薬を使用すべきか考慮すべきことでしょう。

また抗菌薬は必ずしも利益ばかりをもたらすわけではありません。
そこには必ず有害事象が存在します。
たとえ抗菌薬が有効と考えられている細菌感染症であっても、
その治療に抗菌薬を使用しなくても症状は改善するケースだってあります。
さらに病原体が存在したとしても、病気の原因ではないことだってあります。
一方で抗菌薬を使用しなければ重篤な肺炎を合併しかねない症例もあるでしょう。
ただ「発熱、咳、鼻汁、関節痛」など症状の原因の一つが微生物感染によるものであり、
感染の一部は細菌によるものもある、という事だけは確かだと思います。

薬物治療はリスク・ベネフィットという、両極端な構造の中で
その使用を熟慮せねばならず、それは感染症治療においても同様です。
抗菌薬の適正使用という言葉を良く聞きますが、そもそも抗菌薬の適正使用とは何でしょうか。
薬剤師は医薬品の適正使用に貢献すべき云々と。
あくまで薬物治療は診療における選択肢の一つであり、診断やそれをベースにした患者アウトカムの目指すべき方向の決定をはじめとする臨床推論と切り離せないものだと考えます。

薬剤師が薬物治療を考えるとき、薬剤の適正使用というよりは
診療支援という考え方にシフトするべきかもしれません。
そして薬剤師の立場にあっても、薬剤の適正使用という枠組みから
薬物治療における診療支援という枠組みで全体を取り扱いたいと考えます。
そのような観点から感染症をはじめとする様々な疾患の薬物治療を
どうとらえるべきかを模索したいと思います。

風邪に抗菌薬を使用すべきか否か、原因は細菌か、ウイルスか、ということが問題ではなく
今目の前の患者の「症状」をどう治療するべきか、ということのほうが大事であるように、
感染症という「病気」は存在しない、存在するのは「症状」だけである、
と考えるとその本質的な治療というものが見えてくるきがします。

2012年7月22日日曜日

特定健診、その検査項目に思うこと。


特定健診・特定保健指導Wikipediaから引用します。

「特定健診・特定保健指導とは、20084月より始まった
40歳~74歳までの公的医療保険加入者全員を対象とした保健制度である。
正式には「特定健康診査・特定保健指導」という。
一般には「メタボ健診」といわれており、健診の項目は
平成19年厚生労働省令第157号第1条に規定されている。」

 特定健診においては、以下の検査項目についての健診を行い、
その結果基準値を上回る人について、特定保健指導が実施されます。

■既往歴に関する問診
■自覚症状および他覚症状の検査
■身長体重および腹囲検査
BMI検査
■血圧測定
■血液検査(GOTGPTγGTP、中性脂肪、HDLコレステロール、血糖値、HbA1c)
■尿中の糖および蛋白の有無

このほか医師が必要と判断した場合には「心電図検査」「眼底検査」
「血液検査(ヘマトクリット値、血色素量、赤血球数)」の健診が追加されます。

上記の結果、腹囲が85cm以上(男性)、90cm以上(女性)の者、または腹囲が基準以下であっても
BMI25以上の者のうち、血糖値(空腹時血糖が100mg/L以上、HbA1c5.2%以上)、脂質(中性脂肪150mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL以下)、血圧(収縮期130mmHg、拡張期85mmHg以上)に該当する者が特定健診における「特定保健指導」の対象者となります。

ちなみにBMIは以下の計算式で計算できます
  BMI= 体重kg ÷ (身長m)2
BMI18.5未満:低体重、18.525:普通、25以上:肥満とされています

ここで、検査項目である、腹囲とBMIに焦点をあてて、その診断基準が妥当か
というのを、日本人を対象にした観察研究を見ながら考察したいと思います。

1)   腹囲と心血管リスクの関係
Proposed Criteria for Metabolic Syndrome in Japanese Based on Prospective Evidence
Stroke. 2009 Apr;40(4):1187-94では
40歳以上の日本人を対象にした、コホート研究(14年追跡)で
本邦におけるメタボ検診の腹囲に関する基準値において、その腹囲と
心血管疾患リスクは関連しない可能性があるという結果が示唆されています。
http://stroke.ahajournals.org/content/40/4/1187.long
現行基準の腹囲は男性85cm以上、女性90cm以上ですが、
この基準未満を1として心血管リスクの調整ハザードを算出すると、

男性Age-Adjusted  HR 1.22 (0.86–1.73)
女性Age-Adjusted  HR 1.05 (0.68–1.62)

といずれも有意な差が出ません。
この報告では腹囲に関しては現行の基準値よりも、
男性では90cmを境に、女性では80cmを境に基準を設定したほうが
CVDリスクをより反映するのではないかという結論です。

男性90cm未満、女性80cm未満を1として
同様に心血管リスクの調整ハザードは以下の通り

男性Age-Adjusted  HR 1.81 (1.19–2.74)
女性Age-Adjusted  HR 1.46 (0.99–2.16)

 女性では有意なデータなのか、ぎりぎりのところですが、腹囲に関しては
どこで線引きするかというよりも、
むしろその基準が必要かどうかを議論すべきだと思います。

2)     BMIと死亡リスク
Body mass index and mortality from all causes and major causes in Japanese: results of a pooled analysis of 7 large-scale cohort studies.
J Epidemiol. 2011 Nov 5;21(6):417-30. Epub 2011 Sep 10.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21908941
353422人の日本人(男性162 092人、女性191 330人)を対象に
BMIbody mass index)と死亡の関係を7つのコホート研究を
プールド解析した報告です。追跡期間は12.5年です。

男性のBIM2325未満と比較した総死亡の関係のHR(95%信頼区間)は以下の通り
BMI1419未満:adjHR 1.78(1.60-1.98)
BMI1921未満:adjHR 1.27(1.22-1.33)
BMI2123未満:adjHR 1.11(1.041.18)
BMI2325未満:1.00 (Reference)
BMI2527未満:adjHR 0.94(0.900.99)
BMI2730未満:adjHR 1.07(0.971.17)
BMI3040未満:adjHR 1.36(1.191.55)

女性のBIM2325未満と比較した総死亡の関係のHR(95%信頼区間)は以下の通り
BMI1419未満:adjHR 1.61(1.53-1.71)
BMI1921未満:adjHR 1.17(1.11-1.23)
BMI2123未満:adjHR 1.03(0.981.09)
BMI2325未満:1.00 (Reference)
BMI2527未満:adjHR 1.04(0.981.10)
BMI2730未満:adjHR 1.08(1.021.16)
BMI3040未満:adjHR 1.37(1.241.50)

このようにBMIと死亡の関係は逆J字型グラフとなります。
BMIでは死亡リスクが有意に高くBMI高値よりもむしろそのHRは高いことが示唆されています。
BMI26では男性ではむしろ死亡リスク減少、女性でも有意な差はないという結果に
特定検診の診断基準を重ねると、その矛盾に疑問が生じるのもやむをえません。

 「高血圧・高血糖・脂質異常…細身でも保健指導」という2012329日の読売新聞の
記事より引用です。
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=56599

「メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に注目した特定健診・保健指導(メタボ健診)の課題を議論してきた厚生労働省の検討会は28日、2013年度の制度見直しに反映する基本方針を了承した。 肥満でなくても、高血圧や高血糖などの危険因子を考慮して、新たに保健指導の対象とする。肥満の判定に用いる「男性85センチ、女性90センチ」の腹囲基準は、変更しない。肥満でない保健指導対象者を選ぶ新たな基準や、指導の具体的内容については今後、検討を進める。
 現在は、腹囲が基準値以上で、しかも高血圧、高血糖、脂質異常の3危険因子のいずれかに該当すると、特定保健指導の対象となる。 この指導は、実際に効果を上げている。
 指導に熱心な岩手県一関市藤沢地域。トラック運転手の男性(60)は2年前、メタボと判定された。腹囲90・8センチ。保健センターの指導の結果、1年間で体重は6・5キロ、腹囲は9・7センチ減った。血糖値も大きく下がった
 国立保健医療科学院が、2008年度にメタボ健診を受けた8都道府県の国民健康保険加入者を調べたところ、指導を受けた人は1年間で体重が平均2キロ近く減り、血糖値や中性脂肪、血圧も改善した。」                  
                                        引用終わり 

厚生労働省の検討会では腹囲に関する基準の変更意思はないという。
また実際に効果をあげているという保健指導は血圧、血糖値、中性脂肪、体重など、
あくまで代用のアウトカムの改善です。
特定検診・特定保健指導の真のアウトカムの評価は現段階でエビデンスに乏しい
と言わざるをえません。

2012年7月15日日曜日

「時間を生み出すエビデンス」と「同一性が担保されたナラティブ」

まだ考えがまとまらないが、とりあえず今までに考えたことを少し整理します。

臨床試験は時間の流れの中でそのアウトカムが生み出されますが、
実際に活用する「論文」という媒体では時間の流れを止めた状態で
アウトカムが統計解析され客観的な数値が提示されます。
しかし実際の患者の思いは常に変化していきます。
治療そのものは患者さんのQOLを必ずしもあげるとは限らない。
多くの場合、通院負担、経済負担、生活制限負担などQOLは低下するものです。
そのような中で患者さんの思いもまた、
それぞれの生活環境変化で常に変化しています。
エビデンス・プラクティスギャップを考える上でこのような配慮は重要だと考えます。

論文結果という「時間の無い同一性が担保されたエビデンス」と
患者の思い「時間を生みだすナラティブ」。
この間に医療というもの、
また医療者としてのかかわり方を模索しなくてはいけないと考えます。
そしてあえて「時間を生み出すエビデンス」「同一性が担保されたナラティブ」
というものを探したいと思います。

例えば、「高血圧」という現象は、病気なのでしょうか。
診断基準に当てはまれば「高血圧」という病気なのでしょうか。
10年後の脳卒中リスクが高まるかもしれませんが、
診断基準を満たしたとして10年後に脳卒中を起こさなかった人たちは
「高血圧」であったと言えるののでしょうか。
漫然と降圧効果だけを求める薬剤選択に大きな意味はないとおもいます。

脳卒中をはじめとする降圧治療の真のアウトカムと呼ばれるものは
時間の流れの中で、血圧が高いほどリスクが高くなることは間違えないとおもいます。
基準値にも根拠がありますし、降圧薬にもエビデンスがありますが、
大事なのは現時点で将来の真のリスクが必ず発生するものとしてとらえた場合のみ
「高血圧」という病気は存在するのではないでしょうか。

そして、そのような観点に「同一性が担保されたナラティブ」
というものが見え隠れする気がします。
要するに今目の前にいる患者に、
血圧が高いから「高血圧」であるとする思考停止は問題だと思うのです。
そこに医療者自身の経験と患者への思い、
そして将来リスクを加味した臨床判断が求められるのではないかと。
そこに「時間を生み出すエビデンス」が見いだせる気がします。

2012年7月12日木曜日

ACE阻害薬またはARBは肺炎を予防できますか?

ACE阻害薬とARBの肺炎発症リスクを検討したメタ分析が
BMJ誌から報告されています。

Risk of pneumonia associated with use of angiotensin converting enzyme inhibitors and angiotensin receptor blockers: systematic review and meta-analysis
BMJ 2012; 345 doi: 10.1136/bmj.e4260

アンギオテンシン転換酵素阻害薬とアンギオテンシン受容体拮抗薬の使用
で肺炎リスクを評価する縦断的研究37研究をシステマテックレビュー・メタ分析で検証

P37研究の患者データ
EACEI及びARBの投与は
C:介入なしとくらべて
O:肺炎発症リスクはどうなるか?
■主要評価項目:肺炎の発症  ■副次評価項目:肺炎死亡
■評価者バイアス:2名の評価者が独立してデータを抽出
■元論文バイアス:観察研究も含むがRCTも解析しており妥当性はまずまず。
■異質性バイアス:結果の末尾にI2を標記しました。
■出版バイアス  :MEDLINE以外にもFDAWEB上の情報を検索。
エビデンスレベル ☆☆☆☆
【エビデンスレベルについて】
当ブログでは、エビデンスの妥当性をすぐに確認できるよう
暫定的にエビデンスレベルを以下のように表示しています。
☆☆☆☆   質の高いメタ分析
☆☆☆     質の高いRCT
☆☆      質の低いRCT、質の低いメタ分析
☆        観察研究
注意:エビデンスの批判的吟味を詳細に行っているわけではありませんので
あくまで参考程度にご利用下さい。

コントロール群と比較してACE阻害剤服用群では肺炎リスク減少
*全体19研究     OR 0.66(0.55 - 0.80 I2=79%
RCTのみ5研究  :OR 0.69(0.56-0.85)   I2=0%
コントロール群と比較してARB服用群では肺炎リスク減少に関連せず。
*全体12研究      :OR 0.95(0.87-1.04)  I2=14
RCTのみ9研究   OR 0.90(0.79-1.01)  I2=7
ACEIの使用はサブ解析で脳卒中患者、心不全患者、アジア人で有意に肺炎リスク低下

肺炎死亡はACEIの使用で減少
 OR0.730.57-0.94) I2=50%
ただし、3RCTの統合解析で有意差がでず。観察研究のみで有意に減少

肺炎死亡はARBの使用では減少しない可能性がある
OR 0.63 (0.40-1.00)

ACE阻害剤非服用者ではACE阻害剤服用者に比べて
肺炎罹患リスクが増加することが知られています。Lancet 1998; 352: 1069
高齢者では誤嚥性肺炎リスクが高く、肺炎は死亡原因の一つです。

今回のメタ分析ではACE阻害剤の使用で肺炎発症リスクが低下するというものです。
主要評価項目全体としては異質性が高いようですが、
RCTに限定してもリスクは減っているようです。

肺炎による死亡抑制効果は、RCTに限定すると有意な差はつかなくなりますが
ARBでは肺炎発症リスクも低下させていません。
サブ解析で、アジア人のリスク減少が有意に低下し、
非アジア人では有意な差がぎりぎり出ないところは興味深いです。
(サブ解析)ACE阻害剤服用による肺炎リスク
アジア人   :OR 0.43(0.34-0.54)
非アジア人  OR 0.82(0.67-1.00)
日本人において薬価の高いARBを高齢者に使用するメリットは
ACE阻害薬に比べてはあまりないかもしれません。

2012年7月6日金曜日

スタチンとフィブラートの併用をあらためて考えてみる


スタチンとフィブラートの併用症例を検証したいと思います。
(以下は架空の症例です)
TGは200前後で糖尿病もなく、その他目立つ合併症もなし。
年齢も若く、低リスクな患者さんです。
通常は添付文書の「原則禁忌」を根拠に
疑義照会をかけることも多いと思いますが
ここで、あらためて併用について考えてみたいとおもいます。


対象患者が異なりますが、よりハイリスクな2型糖尿病患者に対する
シンバスタチン+フェノフィブラートの併用は、
シンバスタチン単剤の治療と比べて、
有効性・安全性に有意差がないという結果。
主要CVD初発HR 0.9295CI0.791.08
 (N Engl J Med. 2010; 362: 1563-74) 


そもそもフィブラート系薬剤というのはその真のアウトカムに
有効性がはっきり示されたエビデンスは少ないです。
フィブラートの効果を検討したメタ分析では
総死亡,心臓死,心血管死,突然死,非血管死,脳卒中,心不全は減らせず。
 (Lancet 2010;375:1875-1884)


スタチンとフィブラートは横紋筋融解症リスクのため原則禁忌と
添付文書に記載があります。
横紋筋融解症をCK基準値上限の10倍以上と定義した場合、
スタチン単独で0.44 (0.20-0.84)1万人年に対し
併用で、5.98 (95% CI, 0.72-216.0) 1万人年。
10倍以上リスク増加と言えましょう。
 (JAMA. 2004;292(21):2585-2590


ここでもう少しフェノフィブラートの臨床効果を見てみたいと思います。
ハイリスクな患者(2型糖尿病)の心血管イベントを抑制できるか、というRCTでは
冠動脈イベント(CHD死+非致死的心筋梗塞)
HR0.89, 95%CI 0.751.05, p0.16とやはり微妙。
さらに死亡率HR 1.1195%CI  0.95-1.29)増加傾向という結果。
 (Lancet. 2005; 366: 1849-61) 

BMJ 1993;306:1367という少々古いメタ分析によれば
冠動脈死亡低リスク患者に脂質低下療法を行うと死亡増加が示されています。
今回の症例のように糖尿病ではない患者にフェノフィブラート投与はどうなのでしょう。


以上をまとまると
スタチン療法にフィブラートの追加投与のベネフィット微妙。
(N Engl J Med. 2010; 362: 1563)(Lancet 2010;375:1875
横紋筋融解症リスクが増加(JAMA. 2004;292(21):2585-2590
さらに併用することで、死亡リスク増加の可能性
BMJ 1993;306:1367)(Lancet. 2005; 366: 1849-61

どうでしょう。少しこじつけかもしれませんが、
「害」は多めに見積もるということで、合併症のない低リスク患者では
“原則禁忌”という根拠以上に危険な併用であることが見えてきませんか?

2012年7月2日月曜日

2型糖尿病におけるHbA1cの考え方。

HbA1c、いわゆる糖化ヘモグロビンのことですが、
これは過去2ヶ月間の平均血糖値を反映しているといわれています。
ヘモグロビンが存在する赤血球の寿命の4ヶ月と関連しているためである、
といわれています。
直近の食事の影響が少ない為、HbA1cは糖尿病の臨床検査値として汎用されていいます。
そのため薬局外来では毎月ではないにしても、
患者さんから見せてもらえる機会もあると思います。

毎月の推移を見る事は患者さんの血糖コントロールを把握する上でも重要です。
何より生活習慣管理が重要な2型糖尿病では、
その指標としてこの数値から患者さんの生活習慣をおおよそ推測することが出来ます。
しかしながらその推移の見方には若干の注意が必要です。
特に毎月の推移を見るときは注意を要します。

例えば、毎月のHbA1c7%→7%→6.5%→6.4%で推移したとすると、
6.5%になった月は6.0%ということです。そう、ここで気付くべきは、
数値としては6,5%ですが、2ヶ月平均値でこの数字を達成する為には、
(7.06.0)÷26.5
というように、6.0%まで落とさなくてはいけません。患者さんは相当努力しています。
そして、6.4%の月は実は6.8%に上がったということがお分かりいただけるでしょうか。
HbA1cは毎月のデータであれば必ず推移をアセスメントしなくてはいけません。
6,4%に下がっているわけではなく、その月は
6.06.8)÷26.4
からわかるように6.8%に上昇しているのです。
このようにHbA1cは毎月の推移を評価する場合2ヶ月の平均値から
月単位の数値で評価しなくてはいけません。

ところでHbA1cとは、あらためて何でしょうか。
先程も説明したように過去2ヶ月間の平均血糖値ということですが、
要するにもう一度強調しますがただの平均血糖値なのです。換算式もあります。
平均血糖値AGmg/dL28.8×HbA1c46.7  Diabetes care 2008;31:1473 
そしてもう一度、ここで注目していただきたいのは
HbA1cは平均血糖値しか反映していないにすぎない
ということです。しつこいですね。何が言いたいかというと、
血糖変動と夜間低血糖や食後過血糖などの臨床症状は考慮されていない
ということです。

血糖コントロールも様々ですが、
同じHbA1cでも血糖値変動が激しいというのは良いアウトカムを生まないといわれています。
夜間低血糖が多いと認知症リスクが上昇したりJAMA.2009;301(15):1565.
食後血糖の変動幅は酸化ストレスマーカー尿中8–Iso-PGF2αの排泄量と相関するという
報告もあります。JAMA 2006; 295: 1681
これは動脈硬化が起こりやすいということを示唆します。
ラットやマウスでは高血糖が持続する場合よりも
特に血糖変動が動脈硬化を有意に促進することが分かってきました。
Arterioscler Thromb Vasc Biol 2006;26:2275-80

「良質な血糖コントロール=変動幅の少ない血糖コントロール」が有用だといわれているのは
このような背景からです。
良質な血糖コントロールはHbA1cではわからないということがポイントなのですが、
ではこのような血糖値コントロール状態を把握する方法は無いのでしょうか。
持続血糖モニタリングCGM Continuous Glucose Monitoring)という方法があります。
しかしながら、外来患者で調剤薬局薬剤師がこれを把握することはまず難しいでしょう。

さて、このように良質な血糖コントロールは体によさそうなイメージですが、
果たして本当に2型糖尿病の合併症を抑制し、
死亡リスク低下など良いアウトカムを生むのでしょうか?
ACOORD試験N Engl J Med 2008;358:2545に代表されるような
大規模介入試験において、厳格な血糖コントロールが良いアウトカムを生まないのは
血糖変動の正常化ではなく主にHbA1cの低下を目的としているからだとも言われています。

食後血糖値の管理に関する ガイドライン
においても「食後高血糖は有害で,対策を講じる必要がある。」とされています。

しかしながら薬物治療では血糖変動をスタビライズするといわれているαGiやグリニドには、
現時点で真のアウトカムを評価した明確なエビデンスはありません。
したがって血糖変動正常化アプローチに関してはまだまだエビデンスが不足してるのが現状です。