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2012年6月20日水曜日

調剤薬局における経口抗菌薬の考え方

以下は個人的な経口抗菌薬に対する考え方です。地域や個別の疾患などでその使い方は様々ですので、あくまで参考にしていただければ幸いです。特に疫学は重要です。その地域に合わせた抗菌薬を選択しなくてはいけません。
今回は主に外来における軽症感染症を対象にした個人的考え方を、経口抗菌薬で頻度の高い、ペニシリン、キノロン、3世代セフェムを中心にまとめてみました。

(1)ペニシリンの考え方、使い方
ペニシリンは抗菌スペクトラムは狭いものの感受性があるとなったら
非常に強い殺菌効果を発揮します。高濃度ペニシリンは抜群の強さを誇ります。
抗菌薬の「強さ」と「広さ」は根本的に違うということを認識しなくてはいけません。
Aβ溶連菌はペニシリンの感受性がほぼ100%でペニシリンGが選択薬となります。
伝染性単核症にアモキシシリンやアンピシリンは皮疹が出ることが知られているため
EBウイルス感染症にもペニシリンGが推奨されることが多いでしょう。
髄膜炎菌性髄膜炎でもペニシリンGが推奨。
βラクタム系抗菌薬が時間依存性、そのため十分量を頻回投与が基本です。

アンピシリンや、アモキシシリン等のアミノペニシリンは感受性のある腸球菌感染症、
リステリア感染症にはfirst choiceとなります。
A群溶連菌、肺炎球菌、B群レンサ球菌などに対する活性はペニシリンより若干劣りますが、
グラム陰性桿菌に対する活性は少し強いという特徴です。
また先程ふれたようにEBウイルス感染時には使用しません。(皮疹)

MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)感染症にはアンピシリンとクロキサシリンが配合されているビクシリンSで代用が可能です。

緑膿菌用にはピペラシリン。広域ペニシリンと呼ばれるもので、アミノペニシリンの改良型で、緑膿菌にもスペクトラムが広げられていることが最大の特徴です。ただし、GNRへ手を広げた分、GPCにはさらに効果は低いといわれています。基本的には緑膿菌が疑われるときのみ使用です。

ペニシリン投与で問題となるのがアレルギー。その中でも1型アナフィラキシーには注意が必要です。投与してまもなく起こるのが特徴で主な症状は頻脈、気道閉塞、低血圧などです。死亡率は10%と高率です。
型では間質性腎炎に注意。与後約1週間で起こるといわれています。また腎機能が低下するとペニシリンの血中濃度が上がり痙攣などの神経症状に注意が必要です。

(2)キノロンの考え方、使い方
キノロンは肺炎球菌に対する活性がよいため呼吸器感染症に用いることが多いと思います。
大腸菌にも効果があるため尿路感染症に用いることも多いでしょう。
ただしモキシフロキサシンは尿路への移行性が悪いため尿路感染症には用いません。
腸内細菌をカバーするため消化管感染症にも用いることも多いです。
黄色ブドウ球菌や緑膿菌への効果はシプロフロキサシンが期待できます。

(推奨しないキノロンの例)
*フレオキサシン、ロメフロキサシン、スパラフロキサシン:光線過敏症。
*トスフロキサシン:血小板減少、腎炎。
*モキシフロキサシン:肝障害。
*ガレノキサシン、シタフロキサシン:耐性肺炎球菌に有効が売りだが、肺炎球菌性肺炎には
ペニシリンが有効な場合がほとんど。
これらのキノロンはリスクが多く、代替がきくことも多い中であえて選択する意味は無いでしょう。

呼吸器にキノロンを使用する場合は結核を除外できていることが重要です。
抗結核作用があるため診断の遅れにつながることがあります。
注意するべき副作用は、中枢神経症状(痙攣、不眠・せん妄・幻覚・視覚異常など)、
関節や腱、軟骨に対する毒性です。
これが理由となってキノロン系抗菌薬は一般に小児や妊婦で使用禁忌となっています。

尿路感染症、何でもかんでもレボフロキサシンというのも問題だと思います。
あくまで治癒が目的なら免疫機能の助力の目的でたとえ臨床効果が低くてもあえて選択すべき抗菌薬もあるかもしれない。水分多めに取るなど生活指導も重要です。
キノロンはここぞというときに使う場面は多々ありますので出来る限り温存したいと考えます。
例えばシプロフロキサシンのほうがST合剤より、効果がありそうですが、感染症の場合、完璧な抗菌効果を求めるというよりは免疫機能の助力が達成できればよいわけで、腎盂腎炎では耐性菌が無ければST合剤投与もありかもしれないと考えます。 JAMA. 2000 Mar 22-29;283(12):1583-90

(3)抗菌薬に対する考え方のまとめ(小児科領域を中心に)
小児における咽頭炎はたいていウイルス性であり細菌性であっても治療の対象となるべきはA群溶連菌。これにはペニシリンGで十分であるし、中耳炎も抗菌薬を使うとしてアモキシシリン。
ペニシリン耐性が問題となってはじめてアモキシシリン-クラブラン酸、マクロライドを使うべきと考えます。もちろん風邪の多くはウイルス性。急性副鼻腔炎も同様にウイルス性がほとんどです。

尿路感染症においてはST合剤、地域で大腸菌に耐性があるようならキノロン。
ただしモキシフロキサシンは尿路移行が悪いため不可。
呼吸器に関して肺炎球菌肺炎にはペニシリン。キノロンを使うまでもないということです。マイコプラズマ肺炎にはマクロライド。耐性マイコプラズマやレジオネラ肺炎にキノロンを温存しておきたい。

腸チフス・パラチフスを除く感染性腸炎は一般的に自然治癒傾向が強いといわれています。
そのため治療においては輸液・食事療法・対症薬物療法が優先されるべきです。
感染性腸炎初診時にエンピリック治療として薬剤を選択する場合にはサルモネラ属、腸管出血性大腸菌、赤痢菌などを考慮してニューキノロン系薬かホスホマイシン。あらかじめカンピロバクター属と分かっている場合はこれらは使いません。カンピロバクターが判明すればマクロライド系薬剤となります。

テビペネムは、痙攣リスクを強調したいところです。抗ヒスタミン剤(特に中枢移行性の高いもの)との併用でさらにそのリスクは上昇しますし発熱もリスクに関連します。特に熱性けいれん既往患児ではリスクという観点からもファーストチョイスにはなりえないと考えています。カルバペネム系抗菌薬は極めて広いスペクトラムを有する優れた薬ですが、その多用によって耐性菌の増加を招き、結果的にカルバペネム耐性菌を蔓延させることになることに注意しなくてはいけません。カルバペネムを使用すべき状況も存在しますが、多くの場合他の抗菌薬の正しい使用によって代用することが可能であるといわれています。外来において経口カルバペネムが必要と思えるような症例は少ないのではないでしょうか。

ニューキノロンは小児そのものでリスクになるということ、もちろん痙攣リスクもあります。やはり、リスクの観点からファーストになりえないし、耐性マイコプラズマ肺炎やレジオネラなどの最終兵器として温存しておきたいと考えます。

マクロライドは、ペニシリン耐性がある場合やマイコプラズマに有効です。なので小児における風邪症状等でファーストで使用するべきではなく、これも温存するべき薬剤でしょう。

(4)経口3世代セフェムをどうとらえるべきか。
経口第3世代セフェム。これは厄介です。しかし一番処方頻度が高いのではないでしょうか。
ここに耐性ができてしまうと小児重症感染症のエンピリック治療の根幹が揺らいでしまう可能性があります。採用するならセフジトレン、その使用ポイントは耐性インフルエンザ桿菌に限定するべきと考えますが、そもそも経口広域セファロスポリンは適応になるケースは非常に少ないとおもいます。
外来における市中感染症の軽症感染症では、empiric therapyは適応になりません。
広域セフェムが必要になる場合というのは腸内細菌群や緑膿菌、セラチアといったグラム陰性桿菌でなないでしょうか。これらの感染症は重症化しやすく、通常治療には経静脈的投与を必要とします。第3世代経口セファロスポリンを考慮する感染症では多くの場合、このように経静脈投与を選択しなければならないので経口3世代セフェムは使用する機会すらありません。
経口第3世代セフェム、その臨床的位置づけが、いまいちわかりません。セフジトレン300mg/日が臨床的にどれほど意味があるのか。このような処方箋にどのように向き合うべきか。考えてしまいます。

この内容はhttp://blog.livedoor.jp/ebm_info/archives/9271373.htmlに投稿した内容を加筆・訂正をしたものです。

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