[お知らせ]


2012年6月8日金曜日

ベンゾジアゼピン、その適正使用とどう向き合うべきか。

「注意:以下の内容は医療従事者向けに発信しています。現在治療中の患者様において、
患者様自己判断での治療中止、薬剤服用中止の根拠には全くなりません

本邦におけるベンゾジアゼピン系薬剤の消費量は海外と比べても非常に多いといわれています。Web上の情報から考えると年間消費量は18億~20億錠と思われ、これは海外のおよそ6倍以上との情報もありました。これらの情報の真偽は定かではありませんが、調剤薬局の現場でもベンゾジアゼピン系薬剤の長期漫然投与と思われる症例を見る機会は相当多いのではないでしょうか。

この大量消費の代表格ともいえるのがエチゾラムです。本邦では向精神薬の規制もかかっておらず、投与日数制限もありません。またエチゾラムは頭痛、肩こり、軽度不眠、情緒不安定、あがり症、倦怠感など様々な症状に投与され確かに症状に対する効果はあるのだと思います。

しかしながらここで重要なことは頭痛、肩こり、軽度不眠、情緒不安定、あがり症、倦怠感等の改善は代用のアウトカム改善であり、基本疾患の改善ではないということです。
要するに不眠、不安、頭痛、肩こりなどなどの症状はどこから来るのかを熟慮する必要があるということです。
「とりあえずエチゾラムを投与する」
という臨床判断はどういうときなのでしょうか。
メンタルから来たものと判断したからエチゾラムなわけでしょう。
しかし、エチゾラムはうつ病をはじめとする精神疾患を全く改善しません。
安易な処方は依存を作り出すきっかけになるのではと考えます。
ベースの精神疾患の治療を優先すべきではないでしょうか。
エチゾラムの投与を考えたら、まずは精神疾患の鑑別と基本治療開始を
視野に入れないといけないかもしれません。
“とりあえずエチゾラム”という考え方は本邦だけなのかもしれません。
エチゾラムを含むベンゾジアゼピン系薬剤の安易な処方が作り出す常用量薬物依存。
これは本邦の医療における大きな問題と捉えています。
アルコール依存、タバコ依存症は悪で治療すべき、という一方で
ベンゾジアゼピン常用量依存を生み出しているという歪みがあります。

ベンゾジアゼピンの漫然投与がどのような影響をもたらすのでしょうか。
以下に参考文献を紹介いたします。(文献の妥当性チェック、批判的吟味はしておりません)

Benzodiazepine use and risk of dementia: evidence from the Caerphilly Prospective Study 
J Epidemiol Community Health. 2011 Oct 27. [Epub ahead of print]
ベンゾジアゼピン服用で男性認知症リスク増加OR3.50 (1.57-7.79)

Hypnotics' association with mortality or cancer: a matched cohort study
BMJ Open 2012;2:e000850 doi:10.1136/bmjopen-2012-000850
睡眠薬と死亡率・癌の関係をコホートで調査。
年に18錠未満の睡眠薬処方患者でさえ死亡リスクは3.60 (2.92-4.44)
投与量に応じさらに死亡増加。
ただしこの研究においてバイアスの存在が否定できない。

Polypharmacy with antipsychotics, antidepressants, or benzodiazepines and mortality
in schizophrenia. http://t.co/GsJMSC5A
Arch Gen Psychiatry. 2012 May;69(5):476-83.
統合失調症と診断された2588人の入院患者を対象。抗精神病薬、抗不安薬、又はBZDを外来で使用した患者の全原因による死亡を検討。
抗精神病1つに比べ薬を二つ以上使用しても全原因死亡率は増加しない
R0.860.51-1.44)
抗鬱薬使用も死亡率を高めずHR 0.570.28-1.16) 自殺死を減らすHR0.150.03-0.77)
しかしBZD使用に関しては死亡率増加 HR1.911.13-3.22

Benzodiazepine use possibly increases cancer risk
: a population-based retrospective cohort study in Taiwan. 
J Clin Psychiatry. 2012 Apr;73(4):e555-60.
後ろ向きコホート研究。ベンゾジアゼピン使用と癌発生の危険性を評価。
癌発生リスク[HR] = 1.19; 99.6% CI, 1.08-1.32

Engagement in leisure activities and benzodiazepine use
in a French community-dwelling elderly population. 
Int J Ger Psy.2011Aug31.doi:10.1002/gps.2773.
65歳以上の人4848人に直接インタビュー
ベンゾジアゼピン使用で
以下の活動への参加者に対する不参加あるいはほとんど参加しない者
精神活動OR1.31(1.09-1.58)
肉体的活動1.50 (1.12-2.03)
生産活動1.28 (1.05-1.55)
レクリエーション活動0.82 (0.69-0.97)

このほかにも転倒リスクなどがコクランSRで評価されています。
筋弛緩作用あるので当然のことと思います。

では不眠や不安などの症状へどのように対応すべきか、先日参加したPIPC(Psychiatry In Primary Careセミナーで学んできたことをほんの少しまとめてみたいと思います。

不眠への対策の一つの選択肢として、ミアンセリン、トラゾドン、ミルタザピンなどの薬剤は眠気が強く出る傾向があり、不眠を訴える場合に有効といわれているようです。
食欲不振・消化器症状にはスルピリドを考慮しても良いかもしれません。30mg/日が至適用量といわれ増量しても効果は期待できないといわれています。

ベンゾジアゼピンを使用すべきタイミングも当然あります。
その一例として、SSRISNRIの抗うつ効果が立ち上がるまでの不安・不眠、さらにSSRI/SNRIによる賦活化症候群による不安や焦燥に有効とも言われています。発作的な不安に屯用するのも効果的かもしれません。

ベンゾジアゼピン薬剤が駄目だということを言っているのではなく、当然必要なケースもあると考えます。ただ背景にある精神疾患ケアをせず、「とりあえず」的な処方、症状の経過を考慮に入れない長期漫然投与が問題なのだと思います。

最後にエチゾラムの重大な副作用を添付文書より抜粋します。
「薬物依存を生じることがあるので,観察を十分に行い,慎重に投与すること.また,投与量の急激な減少ないし投与の中止により,痙攣発作,せん妄,振戦,不眠,不安,幻覚,妄想等の離脱症状があらわれることがあるので,投与を中止する場合には,徐々に減量するなど慎重に行うこと」

ベンゾジアゼピン、その適正使用とどう向き合うか。この問題は薬剤師にとって大きな壁でありますが、積極的に関わるべき問題なのだと思います。

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