[お知らせ]


2012年6月26日火曜日

医療という「構造」と「副腎に求めよ」


ヒトは特定の関心にとらわれている。

歩行様式を考えてみると、自分の属する社会集団が受け入れたものだけを選択的に見せられ、感じさせられ、考えさせられているということがあらためてわかります。
明治時代以前の日本人は「ナンバ歩き」 http://t.co/ipE7haQm という歩行様式をしていたという。

 私たちは常にある時代、ある地域、ある社会集団に属しておりその条件が私たちの物の見方、感じ方、考え方を基本的なところで決定しているのかもしれません。
そして自分の属する社会集団が受け入れたものだけを選択的に見せられ、感じさせられ、考えさせられているのかもしれないと思います。

 要するに物の見方、感じ方、考え方を基本的なところで決定している物は私たちが「属している集団における関心」ではないでしょうか。
物事の本質は自分の属する社会集団が無意識に排除してしまった事象の中にこそ存在しているのかもしれない。自分の判断や行動はかなり限定的な世界で働いており、そこから外れてしまっている概念を掘り下げた先に構造主義というものが見えてくるような気がするのです。

 注目している事象ではないところにこそ落ちがあるという。
これは名郷直樹先生の「副腎に求めよ」
http://www.igaku-shoin.co.jp/nwsppr/n2006dir/n2694dir/n2694_04.htm
というお話から学んだことなのだけれども。

 私にとって「副腎」の一つは処方箋の中にありました。
処方箋の中に書かれている薬剤名。これこそが「副腎」でした。
EBMの手法でその薬剤を勉強してみると意外な落ちが現れたのです。
ある薬剤は症状は改善するけど死亡リスクは増えるとか
またある薬はほとんど効果らしきものは無かったり
そもそもこの薬剤同士の併用自体が無意味なのでは、などなど。
そう、当たり前だと思っていた薬物治療そのものに落とし穴があるとおもいます。
薬剤を服用させることが、治療なのだと確信することに落とし穴あるのです。

副腎に求めよ」という言葉が私の薬剤師人生を大きく変えたことは間違えありません。

 もう一段掘り下げると、医療という構造が見え隠れしてきます。
医療、それを科学的、非科学的という軸で考えてみると。
医療行為が科学的ではない場合に、それは宗教や詐欺と区別できるか?
ある治療が科学的根拠を失った場合、それは宗教行為か?それとも治療という名の詐欺行為か?
少なくとも、それを判断できる能力はまだ私には備わっていません。

2012年6月20日水曜日

調剤薬局における経口抗菌薬の考え方

以下は個人的な経口抗菌薬に対する考え方です。地域や個別の疾患などでその使い方は様々ですので、あくまで参考にしていただければ幸いです。特に疫学は重要です。その地域に合わせた抗菌薬を選択しなくてはいけません。
今回は主に外来における軽症感染症を対象にした個人的考え方を、経口抗菌薬で頻度の高い、ペニシリン、キノロン、3世代セフェムを中心にまとめてみました。

(1)ペニシリンの考え方、使い方
ペニシリンは抗菌スペクトラムは狭いものの感受性があるとなったら
非常に強い殺菌効果を発揮します。高濃度ペニシリンは抜群の強さを誇ります。
抗菌薬の「強さ」と「広さ」は根本的に違うということを認識しなくてはいけません。
Aβ溶連菌はペニシリンの感受性がほぼ100%でペニシリンGが選択薬となります。
伝染性単核症にアモキシシリンやアンピシリンは皮疹が出ることが知られているため
EBウイルス感染症にもペニシリンGが推奨されることが多いでしょう。
髄膜炎菌性髄膜炎でもペニシリンGが推奨。
βラクタム系抗菌薬が時間依存性、そのため十分量を頻回投与が基本です。

アンピシリンや、アモキシシリン等のアミノペニシリンは感受性のある腸球菌感染症、
リステリア感染症にはfirst choiceとなります。
A群溶連菌、肺炎球菌、B群レンサ球菌などに対する活性はペニシリンより若干劣りますが、
グラム陰性桿菌に対する活性は少し強いという特徴です。
また先程ふれたようにEBウイルス感染時には使用しません。(皮疹)

MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)感染症にはアンピシリンとクロキサシリンが配合されているビクシリンSで代用が可能です。

緑膿菌用にはピペラシリン。広域ペニシリンと呼ばれるもので、アミノペニシリンの改良型で、緑膿菌にもスペクトラムが広げられていることが最大の特徴です。ただし、GNRへ手を広げた分、GPCにはさらに効果は低いといわれています。基本的には緑膿菌が疑われるときのみ使用です。

ペニシリン投与で問題となるのがアレルギー。その中でも1型アナフィラキシーには注意が必要です。投与してまもなく起こるのが特徴で主な症状は頻脈、気道閉塞、低血圧などです。死亡率は10%と高率です。
型では間質性腎炎に注意。与後約1週間で起こるといわれています。また腎機能が低下するとペニシリンの血中濃度が上がり痙攣などの神経症状に注意が必要です。

(2)キノロンの考え方、使い方
キノロンは肺炎球菌に対する活性がよいため呼吸器感染症に用いることが多いと思います。
大腸菌にも効果があるため尿路感染症に用いることも多いでしょう。
ただしモキシフロキサシンは尿路への移行性が悪いため尿路感染症には用いません。
腸内細菌をカバーするため消化管感染症にも用いることも多いです。
黄色ブドウ球菌や緑膿菌への効果はシプロフロキサシンが期待できます。

(推奨しないキノロンの例)
*フレオキサシン、ロメフロキサシン、スパラフロキサシン:光線過敏症。
*トスフロキサシン:血小板減少、腎炎。
*モキシフロキサシン:肝障害。
*ガレノキサシン、シタフロキサシン:耐性肺炎球菌に有効が売りだが、肺炎球菌性肺炎には
ペニシリンが有効な場合がほとんど。
これらのキノロンはリスクが多く、代替がきくことも多い中であえて選択する意味は無いでしょう。

呼吸器にキノロンを使用する場合は結核を除外できていることが重要です。
抗結核作用があるため診断の遅れにつながることがあります。
注意するべき副作用は、中枢神経症状(痙攣、不眠・せん妄・幻覚・視覚異常など)、
関節や腱、軟骨に対する毒性です。
これが理由となってキノロン系抗菌薬は一般に小児や妊婦で使用禁忌となっています。

尿路感染症、何でもかんでもレボフロキサシンというのも問題だと思います。
あくまで治癒が目的なら免疫機能の助力の目的でたとえ臨床効果が低くてもあえて選択すべき抗菌薬もあるかもしれない。水分多めに取るなど生活指導も重要です。
キノロンはここぞというときに使う場面は多々ありますので出来る限り温存したいと考えます。
例えばシプロフロキサシンのほうがST合剤より、効果がありそうですが、感染症の場合、完璧な抗菌効果を求めるというよりは免疫機能の助力が達成できればよいわけで、腎盂腎炎では耐性菌が無ければST合剤投与もありかもしれないと考えます。 JAMA. 2000 Mar 22-29;283(12):1583-90

(3)抗菌薬に対する考え方のまとめ(小児科領域を中心に)
小児における咽頭炎はたいていウイルス性であり細菌性であっても治療の対象となるべきはA群溶連菌。これにはペニシリンGで十分であるし、中耳炎も抗菌薬を使うとしてアモキシシリン。
ペニシリン耐性が問題となってはじめてアモキシシリン-クラブラン酸、マクロライドを使うべきと考えます。もちろん風邪の多くはウイルス性。急性副鼻腔炎も同様にウイルス性がほとんどです。

尿路感染症においてはST合剤、地域で大腸菌に耐性があるようならキノロン。
ただしモキシフロキサシンは尿路移行が悪いため不可。
呼吸器に関して肺炎球菌肺炎にはペニシリン。キノロンを使うまでもないということです。マイコプラズマ肺炎にはマクロライド。耐性マイコプラズマやレジオネラ肺炎にキノロンを温存しておきたい。

腸チフス・パラチフスを除く感染性腸炎は一般的に自然治癒傾向が強いといわれています。
そのため治療においては輸液・食事療法・対症薬物療法が優先されるべきです。
感染性腸炎初診時にエンピリック治療として薬剤を選択する場合にはサルモネラ属、腸管出血性大腸菌、赤痢菌などを考慮してニューキノロン系薬かホスホマイシン。あらかじめカンピロバクター属と分かっている場合はこれらは使いません。カンピロバクターが判明すればマクロライド系薬剤となります。

テビペネムは、痙攣リスクを強調したいところです。抗ヒスタミン剤(特に中枢移行性の高いもの)との併用でさらにそのリスクは上昇しますし発熱もリスクに関連します。特に熱性けいれん既往患児ではリスクという観点からもファーストチョイスにはなりえないと考えています。カルバペネム系抗菌薬は極めて広いスペクトラムを有する優れた薬ですが、その多用によって耐性菌の増加を招き、結果的にカルバペネム耐性菌を蔓延させることになることに注意しなくてはいけません。カルバペネムを使用すべき状況も存在しますが、多くの場合他の抗菌薬の正しい使用によって代用することが可能であるといわれています。外来において経口カルバペネムが必要と思えるような症例は少ないのではないでしょうか。

ニューキノロンは小児そのものでリスクになるということ、もちろん痙攣リスクもあります。やはり、リスクの観点からファーストになりえないし、耐性マイコプラズマ肺炎やレジオネラなどの最終兵器として温存しておきたいと考えます。

マクロライドは、ペニシリン耐性がある場合やマイコプラズマに有効です。なので小児における風邪症状等でファーストで使用するべきではなく、これも温存するべき薬剤でしょう。

(4)経口3世代セフェムをどうとらえるべきか。
経口第3世代セフェム。これは厄介です。しかし一番処方頻度が高いのではないでしょうか。
ここに耐性ができてしまうと小児重症感染症のエンピリック治療の根幹が揺らいでしまう可能性があります。採用するならセフジトレン、その使用ポイントは耐性インフルエンザ桿菌に限定するべきと考えますが、そもそも経口広域セファロスポリンは適応になるケースは非常に少ないとおもいます。
外来における市中感染症の軽症感染症では、empiric therapyは適応になりません。
広域セフェムが必要になる場合というのは腸内細菌群や緑膿菌、セラチアといったグラム陰性桿菌でなないでしょうか。これらの感染症は重症化しやすく、通常治療には経静脈的投与を必要とします。第3世代経口セファロスポリンを考慮する感染症では多くの場合、このように経静脈投与を選択しなければならないので経口3世代セフェムは使用する機会すらありません。
経口第3世代セフェム、その臨床的位置づけが、いまいちわかりません。セフジトレン300mg/日が臨床的にどれほど意味があるのか。このような処方箋にどのように向き合うべきか。考えてしまいます。

この内容はhttp://blog.livedoor.jp/ebm_info/archives/9271373.htmlに投稿した内容を加筆・訂正をしたものです。

2012年6月12日火曜日

患者背景のCHADS2スコアからみた新規抗凝固薬の安全性検討


CHADS2スコアとは
心房細動患者における脳卒中発症のリスク評価JAMA 2001,285;2864-2870
CHF(心不全)HT(高血圧)Age75(高齢)DM(糖尿病)はそれぞれ1点、
Stroke/TIA(脳卒中/一過性脳虚血発作)は2点で計算し
その合計点をCHADS2スコアといいます。
CHADS2スコアが2点以上の心房細動の患者には、
ワルファリンの使用が強くすすめられています。

N Engl J Med. 2009; 361: 1139-51 RE-LY試験
ダビガトランの有効性・安全性はワーファリンに非劣勢。
患者背景のCHADS2スコアを確認するとダビガトラン150mg110mg、ワーファリンの順で
2.1, 2.2, 2.1。比較的低リスクな患者を対象としている点に注目。

糖尿病ではそれが独立して出血リスクになる可能性があり
JAMA. 2012;307(21):2286-2294
よりハイリスク患者でのダビガトラン安全性は
ワーファリンと同等ではないかもしれません。

またCirculation 2011; 123: 2363-72から75歳以上において
ダビガトラン300mg/日投与は大出血リスクがワーファリンを上回ります。
RR 0.620.50-0.77p0.001         
ちなみに220mg/日投与では有意差無しという結果でした。
RR 1.010.83-1.23p0.89

さらにRE-LY試験単独でも心筋梗塞の上昇が指摘されています。
Arch Intern Med. 2012 Mar 12;172(5):397-402 メタ分析で
ダビガトランのMI,ACSリスクOR M-H 1.3395CI 1.03-1.71
現時点でCHADS2スコアの高い患者、75歳以上の患者、心筋梗塞既往患者そしてもちろん腎機能が低下した患者にダビガトランは推奨できないというのが個人的な見解です

一方で最近発売されたリバロキサバンの臨床試験では
N Engl J Med. 2011; 365: 883-891  ROCKET AF 
リバロキサバンの有効性・安全性はワーファリンに非劣勢。
患者背景の平均CHADS2スコア3.5
これはRE-LYの対象患者よりハイリスクな患者を対象としています。
ちなみに日本人を対象としたJ-ROKETでも対象患者の平均CHADS2スコア3.25
ハイリスク患者における安全性はダビガトランより優れている
可能性もあるのではないかと思っています。

(参考)ダビガトランの適正使用を考える
http://blog.livedoor.jp/ebm_info/archives/7000531.html

2012年6月8日金曜日

ベンゾジアゼピン、その適正使用とどう向き合うべきか。

「注意:以下の内容は医療従事者向けに発信しています。現在治療中の患者様において、
患者様自己判断での治療中止、薬剤服用中止の根拠には全くなりません

本邦におけるベンゾジアゼピン系薬剤の消費量は海外と比べても非常に多いといわれています。Web上の情報から考えると年間消費量は18億~20億錠と思われ、これは海外のおよそ6倍以上との情報もありました。これらの情報の真偽は定かではありませんが、調剤薬局の現場でもベンゾジアゼピン系薬剤の長期漫然投与と思われる症例を見る機会は相当多いのではないでしょうか。

この大量消費の代表格ともいえるのがエチゾラムです。本邦では向精神薬の規制もかかっておらず、投与日数制限もありません。またエチゾラムは頭痛、肩こり、軽度不眠、情緒不安定、あがり症、倦怠感など様々な症状に投与され確かに症状に対する効果はあるのだと思います。

しかしながらここで重要なことは頭痛、肩こり、軽度不眠、情緒不安定、あがり症、倦怠感等の改善は代用のアウトカム改善であり、基本疾患の改善ではないということです。
要するに不眠、不安、頭痛、肩こりなどなどの症状はどこから来るのかを熟慮する必要があるということです。
「とりあえずエチゾラムを投与する」
という臨床判断はどういうときなのでしょうか。
メンタルから来たものと判断したからエチゾラムなわけでしょう。
しかし、エチゾラムはうつ病をはじめとする精神疾患を全く改善しません。
安易な処方は依存を作り出すきっかけになるのではと考えます。
ベースの精神疾患の治療を優先すべきではないでしょうか。
エチゾラムの投与を考えたら、まずは精神疾患の鑑別と基本治療開始を
視野に入れないといけないかもしれません。
“とりあえずエチゾラム”という考え方は本邦だけなのかもしれません。
エチゾラムを含むベンゾジアゼピン系薬剤の安易な処方が作り出す常用量薬物依存。
これは本邦の医療における大きな問題と捉えています。
アルコール依存、タバコ依存症は悪で治療すべき、という一方で
ベンゾジアゼピン常用量依存を生み出しているという歪みがあります。

ベンゾジアゼピンの漫然投与がどのような影響をもたらすのでしょうか。
以下に参考文献を紹介いたします。(文献の妥当性チェック、批判的吟味はしておりません)

Benzodiazepine use and risk of dementia: evidence from the Caerphilly Prospective Study 
J Epidemiol Community Health. 2011 Oct 27. [Epub ahead of print]
ベンゾジアゼピン服用で男性認知症リスク増加OR3.50 (1.57-7.79)

Hypnotics' association with mortality or cancer: a matched cohort study
BMJ Open 2012;2:e000850 doi:10.1136/bmjopen-2012-000850
睡眠薬と死亡率・癌の関係をコホートで調査。
年に18錠未満の睡眠薬処方患者でさえ死亡リスクは3.60 (2.92-4.44)
投与量に応じさらに死亡増加。
ただしこの研究においてバイアスの存在が否定できない。

Polypharmacy with antipsychotics, antidepressants, or benzodiazepines and mortality
in schizophrenia. http://t.co/GsJMSC5A
Arch Gen Psychiatry. 2012 May;69(5):476-83.
統合失調症と診断された2588人の入院患者を対象。抗精神病薬、抗不安薬、又はBZDを外来で使用した患者の全原因による死亡を検討。
抗精神病1つに比べ薬を二つ以上使用しても全原因死亡率は増加しない
R0.860.51-1.44)
抗鬱薬使用も死亡率を高めずHR 0.570.28-1.16) 自殺死を減らすHR0.150.03-0.77)
しかしBZD使用に関しては死亡率増加 HR1.911.13-3.22

Benzodiazepine use possibly increases cancer risk
: a population-based retrospective cohort study in Taiwan. 
J Clin Psychiatry. 2012 Apr;73(4):e555-60.
後ろ向きコホート研究。ベンゾジアゼピン使用と癌発生の危険性を評価。
癌発生リスク[HR] = 1.19; 99.6% CI, 1.08-1.32

Engagement in leisure activities and benzodiazepine use
in a French community-dwelling elderly population. 
Int J Ger Psy.2011Aug31.doi:10.1002/gps.2773.
65歳以上の人4848人に直接インタビュー
ベンゾジアゼピン使用で
以下の活動への参加者に対する不参加あるいはほとんど参加しない者
精神活動OR1.31(1.09-1.58)
肉体的活動1.50 (1.12-2.03)
生産活動1.28 (1.05-1.55)
レクリエーション活動0.82 (0.69-0.97)

このほかにも転倒リスクなどがコクランSRで評価されています。
筋弛緩作用あるので当然のことと思います。

では不眠や不安などの症状へどのように対応すべきか、先日参加したPIPC(Psychiatry In Primary Careセミナーで学んできたことをほんの少しまとめてみたいと思います。

不眠への対策の一つの選択肢として、ミアンセリン、トラゾドン、ミルタザピンなどの薬剤は眠気が強く出る傾向があり、不眠を訴える場合に有効といわれているようです。
食欲不振・消化器症状にはスルピリドを考慮しても良いかもしれません。30mg/日が至適用量といわれ増量しても効果は期待できないといわれています。

ベンゾジアゼピンを使用すべきタイミングも当然あります。
その一例として、SSRISNRIの抗うつ効果が立ち上がるまでの不安・不眠、さらにSSRI/SNRIによる賦活化症候群による不安や焦燥に有効とも言われています。発作的な不安に屯用するのも効果的かもしれません。

ベンゾジアゼピン薬剤が駄目だということを言っているのではなく、当然必要なケースもあると考えます。ただ背景にある精神疾患ケアをせず、「とりあえず」的な処方、症状の経過を考慮に入れない長期漫然投与が問題なのだと思います。

最後にエチゾラムの重大な副作用を添付文書より抜粋します。
「薬物依存を生じることがあるので,観察を十分に行い,慎重に投与すること.また,投与量の急激な減少ないし投与の中止により,痙攣発作,せん妄,振戦,不眠,不安,幻覚,妄想等の離脱症状があらわれることがあるので,投与を中止する場合には,徐々に減量するなど慎重に行うこと」

ベンゾジアゼピン、その適正使用とどう向き合うか。この問題は薬剤師にとって大きな壁でありますが、積極的に関わるべき問題なのだと思います。

2012年6月3日日曜日

薬剤師によるPsychiatry In Primary Care


厚生労働省が実施している患者調査によればうつ病の患者数は2008年で104.1万人。
2008年の糖尿病の総患者数は約237万人からみると、その数の多さが実感できると思います。これは薬局外来においてもその多くに何らかの精神疾患を抱えている患者が多数存在することを意味しています。プライマリ・ケア医の患者の30%以上が精神疾患に罹患し、
少なくとも5%がうつ病であるという報告もあるそうです。

うつ病の自殺者も年々増加し、それを阻止する“ゲートキーパー”の存在が重要となっています。厚生労働省自殺・うつ病等対策プロジェクトチームにおいて、
「薬剤師は、過量服薬のリスクの高い患者を早期に見つけ出し、適切な医療に結びつけるためのキーパーソンとして重要な役割を担うと考えられる」
としています。
地域薬局の薬剤師は“ゲートキーパー”の役割を担うべき存在となってきているのです。
実際に薬局へ訪れる患者の3割近くが何らかの精神疾患を抱えていることを考えればその重要性があらためて認識されます。

しかしながら実際にどのようなアプローチで精神疾患の患者を見つければよいのか。
一つの手法として「Psychiatry In Primary Care:PIPC 」というものを学びました。

(参考)http://pipc-jp.com/ 

薬剤師においてもこのスキルを習得することで精神科領域のトリアージを行うことが可能になるといえるのではないでしょうか。
薬剤師が実践するPIPCの目的は患者を治療し助けることではありません。
治療が必要な患者を見つけ出し、専門医へ受診勧奨を行うトリアージにあります。

少し具体的にPIPCを説明すると以下のような感じです。
PIPCの中核を担うのがMAPSOシステムです。
MAPSOシステムとはプライマリで遭遇する頻度が高い精神疾患をまとめたものです。

M (Mood):気分(うつ・躁)に関するエピソードをチェック
A (Anxiety):不安(パニック障害、強迫性障害などの5疾患)をチェック
P (Psychosis):精神病症状(幻聴、妄想など)の有無
S (Substances):アルコールなどの物質誘発性による障害の有無
O (Organic / Other):器質的疾患(認知症など)や、その他の精神疾患
         (パーソナリティー障害、発達障害など)の可能性の有無
基本的には問診票に沿って質問をしていくだけです。
問診に沿って適切に会話するだけでうつ病の改善が期待できる可能性があるといわれています。また何より早期に精神疾患を発見することで、専門医へ受診勧奨できるという点で
非常に有用ではないかと考えています。

最後に希死念慮を持つ患者への対処として,紹介した病院の受診を約束する「指きり」というのが重要なポイントであると学びました。まじめで律儀な性格が多いうつ病患者にとって約束は効果的だといいます。

PIPCを実践できる薬剤師を目指すことで薬剤師の在り方が少しずつ変わってくるのかもしれません。

2012年6月1日金曜日

構造主義的EBMのススメ


“私たちにとって自明と思えることは、ある時代や地域に固有の「偏見」にほかならない。私たちは自分達が思っているほど自由に主体的に物を見ているわけではない”

内田 樹 氏 寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

私たちにとって自明と思えることは、ある時代や地域に固有の「偏見」にほかならないことを問題提起してくれる一つの事例が、コレステロールであると考えています。
多くの人にとってコレステロールが高いことは「悪」であり
「不健康である」ということは常識となっていると思います。
コレステロールが高いということをどう思いますか?
と質問したら、多くの人は食事を気をつけたほうがいいとか
病院へ行って検査すべきだとか、薬を飲むべきだ、と答えると思います。
コレステロールが高いことが不健康であるということは
この世の中において常識なのです。

J Epidemiol. 2011;21(1):67-74 
Low cholesterol is associated with mortality from stroke,heart disease, and cancer
: the Jichi Medical School Cohort Study
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21160131
この論文との出会いによってコレステロール低下治療について
ずいぶんと考えさせられました。
この論文ににおいて高コレステロールは死亡リスクに関与しないばかりか
低コレステロールでは死亡リスクが増加するという結果です。

「ただの観察研究じゃないか。」
「スタチンの死亡リスク低下は臨床試験で証明されているぞ、」
と主張される方は以下の2つの「偏見」に陥っていると個人的に思います。

エビデンスにおいてRCTやそのメタ分析が最も信用できる情報で観察研究は仮説でしかないという「偏見」とスタチンの死亡リスク低下効果はコレステロール低下作用によるものだという「偏見」です。

観察研究は信頼性が低く軽視するべき、と主張される方は高血圧ガイドラインにおける高血圧の定義に関しても軽視すべきです。
ガイドラインにおける高血圧の定義は本邦における観察研究からはじき出されています。
ガイドラインから抜粋すると
「本邦の疫学研究において14090mmHg以上で北海道の端野・壮瞥町研究では心血管死亡が,福岡県の久山町研究では脳卒中発症率が有意に増加してくることが示されており,本ガイドラインでは同様に14090mmHg以上を高血圧としている。」
ただ軽視することが間違えでも正解でもないと思いますしそれが正解かもしれませんが。。

またスタチンはHMG-CoA還元酵素を阻害することでコレステロールを低下させるといわれておりますが、それ以外の独立した生理作用があるかもしれないという側面を無視しています。
私は薬理学の専門家ではないので詳しいことは知りませんが、代謝経路中の一つを阻害すれば末端の生成物阻害作用は1つとは限らない、というのが私の考えです。

このようにコレステロールを下げることを自明のことと、とらえるのはわれわれが自分達が思っているほど自由に主体的に物を見ているわけではないことの証であると考えます。

EBMを実践するうえでエビデンスの批判的吟味も大事であると思いますが、
医療者の臨床判断は必ずしも患者にとって「自明」ではないということを十分認識する必要があります。「偏見」が間違えであると断定することもまた「偏見」ですが、
多角的視点を維持するうえで構造主義的なEBMの実践が求められていると思います。